第76回ベルリン国際映画祭が現地時間の2月12日に開幕した。昨年就任したディレクター、トリシア・タトル率いるチームの2年目は、これまでの伝統を汲む政治的なカラーはありつつ、インディペンデントな作品と若手作家を擁護する姿勢を打ち出している。逆に言えば、ハリウッド映画やスター主導の娯楽映画は減っているという印象だ。
全22本のコンペティションには、日本から初の長編アニメーション監督作となる四宮義俊の「花緑青が明ける日に」が入選。また1月のサンダンス映画祭で観客賞と審査員グランプリに輝いたベス・ド・アラウジョ監督の「Josephine」、ハンガリーのコルネル・ムンドルッツォ監督がエイミー・アダムスと組んだ「At the Sea」、「わたしは、幸福(フェリシテ)」(2017)のアラン・ゴミス監督の新作「DAO」、ドキュメンタリー「JOY DIVISION ジョイ・ディヴィジョン」(2007)で知られるグラント・ジー監督が音楽家ビル・エヴァンスを描いたフィクション「Everybody Digs Bill Evans」、「ミュージック」(2023)がベルリンで脚本賞を受賞したアンゲラ・シャーネレク監督の新作「My Wife Cries」、ハリポタ・シリーズで有名なルパート・グリントがフィンランドのハンナ・ベルイホルム監督と組んだホラー映画「Nightborn」、エル・ファニング、カラム・ターナー、ジェイミー・ベル、パメラ・アンダーソンなど国際的なキャストが揃ったブラジル人監督カリム・アイヌーズの「Rosebush Pruning」ほか、2作目、3作目の若手が並ぶ。
日本映画はコンペティションに加えパノラマ部門に内山拓也監督「しびれ」、フォーラム部門に岩崎裕介監督「チルド」と吉開菜央監督「まさゆめ」、ジェネレーションKプラス部門に西野亮廣製作総指揮、脚本、廣田裕介監督「映画えんとつ町のプペル約束の時計台」と、新作は5本になった。
コンペティションの審査員メンバーはヴィム・ヴェンダース監督を審査員長に、ペ・ドゥナ、「レンタル・ファミリー」のHIKARI監督など、監督5名、俳優1名、プロデューサー1名の計7名で、監督の比重が大きい。
開幕記者会見ではいまの社会情勢を反映し、政治的な話題に集中した。ヴェンダースは「映画は政治とは別のやり方で世界を変えられると思います。映画を観るたびに、わたしたちはニュースではわからないことを発見します。キャラクターの困難や苦しみを見て、彼らの置かれた境遇を知り、共感する。政治が与えないものを与えられます」と発言。HIKARI監督も「映画には人々のパースペクティブを変え、この世界をちょっとだけ良くできるような力があると思います。自分が映画を作るときもそういうことを意識しています。映画は愛です」と語った。
一方、これらの発言を受けてひとりのジャーナリストが、2024年にベルリン国際映画祭で「ノー・アザー・ランド故郷は他にない」がドキュメンタリー賞を受賞した際のパレスチナ人監督のスピーチをきっかけに、ドイツ政府やベルリン市長を巻き込んで、反ユダヤ主義的だと論争になったことを挙げ、「映画はポリティカルというお話ですが、ドイツ政府もイスラエルによるガザの虐殺を容認しました。審査員は人権をサポートすることを何かしたでしょうか」と問いかけ、司会のタトル・ディレクターが「映画の話題に集中してください」と制止を試みる場面も。
そんななか、審査員メンバーのひとり、エヴァ・プシュチンスカ・プロデューサ―(「イーダ」)は、「あなたが考えるポリティカルという意味とわたしたちが語るそれは異なるのだと思います。わたしたちは政治家ではない。彼らの決定は我々の責任ではないので、そういった質問はフェアではないと思います。わたしたちは人々に訴えかけようとしていますが、そこから決断を下すのは個人なわけでそれは複雑な問題です」と答えた。
ヴェンダースも同意し、「ベルリン映画祭の審査員体験は他の場所とは異なります。これほどバラエティに溢れ、さまざまな監督たちに依る異なるアプローチの映画が観られるところは他にないと思います」と、映画祭を擁護した。
果たしてこれから10日間、どんなドラマが繰り広げられるのか。受賞結果は2月21日の閉幕式で明らかになる。(佐藤久理子)
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