虐待やDVからの夜逃げを描く話題作『夜逃げ屋日記』。SNSで人気の強面キャラ「副社長のブルさん」について聞きました【著者インタビュー】

『夜逃げ屋日記5』より/(C)宮野シンイチ

虐待やDVからの夜逃げを描く話題作『夜逃げ屋日記』。SNSで人気の強面キャラ「副社長のブルさん」について聞きました【著者インタビュー】

2月11日(水) 21:10

『夜逃げ屋日記5』より
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SNSで注目を集めているコミックエッセイ『夜逃げ屋日記』をご存知ですか?

パートナーの暴力や毒親の虐待から逃げたい人々の引越しを手伝う業者・夜逃げ屋。作者の宮野シンイチさんは、その夜逃げ屋のスタッフの一員として実際に働きながら取材を続け、夜逃げをする人達が抱えている苦しみや葛藤を漫画に描いています。

そんな『夜逃げ屋日記』には、夜逃げ屋のスタッフとして個性豊かな登場人物たちが登場します。その中でもSNSで人気を集めているキャラクターが「ブルさん」です。一見近寄りがたい風貌で気性も荒く、宮野さんにも最初はつらくあたっていた強面の副社長。そんなブルさんのエピソードがどうして話題を呼んだのか、作者の宮野さんにもお話を伺いました。

■最新刊『夜逃げ屋日記5』あらすじ

『夜逃げ屋日記5』より

『夜逃げ屋日記5』より

「マンガの取材のために夜逃げ屋で働く宮野さんをよく思わない人物がいる」と以前から聞かされていた宮野さん。その人物は、副社長のブルさんでした。ブルさんは「夜逃げ屋イチの武闘派」で、この仕事に人一倍プライドがあり、漫画にすることに断固反対だったと言います。

『夜逃げ屋日記5』より

依頼者に暴力を加える加害者とはちあわせした時には暴力も辞さないというブルさん。宮野さんがブルさんに初めて同行することになった依頼の時も、被害者が激しい暴力を受けている状況に居合わせたため、ブルさんは制止のために加害者を殴りつけました。


『夜逃げ屋日記5』より

『夜逃げ屋日記5』より

後日、会社でブルさんと顔を会わせた宮野さんは、「お前と同じ空気を吸いたくない」というブルさんの態度に、苛立ちを抑えながらコミュニケーションを取ろうとします。しかし「失せろ」「能無し」などと畳み掛けられて、ついに殴り合いのケンカになってしまいました。

『夜逃げ屋日記5』より

どんなに蹴られ殴られてもしつこく立ち上がる宮野さんに、ブルさんも戸惑います。そして激しいケンカの末、宮野さんはついに倒れてしまいました。ちょうどそこへ社長が他のスタッフたちとやってきました。

『夜逃げ屋日記5』より

『夜逃げ屋日記5』より

『夜逃げ屋日記5』より

彼女は「お前らは似た者同士だ」「もういい加減認めてやってもいいんじゃないか」とブルさんに言います。実はブルさんも宮野さんと同じように、社長のTV取材の映像を見たのがきっかけで、「一緒に働きたい」と電話をかけてきたのでした…。

『夜逃げ屋日記5』より

後日、傷だらけで出社した宮野さんに、ブルさんは缶コーヒーを差し出します。そして両親から激しい虐待を受けていた過去があったこと、居場所がなくこれまで転々としてきたこと、そんな時にTVで夜逃げ屋の社長を知って感銘を受けたことを語ります。
『夜逃げ屋日記5』より

『夜逃げ屋日記5』より

『夜逃げ屋日記5』より


どうしてその話をしたのかと問う宮野さんに、ブルさんは少し考えてから「この話、漫画に使えばいいだろ」と答えるのでした…。


■著者・宮野シンイチさんインタビュー

――武闘派の副社長・ブルさんのエピソードは、シリーズ全巻の中でも個人的には最も感動的なエピソードでした。ブルさんは最初かなり怖いキャラクターとして描かれていますが、初対面のときの印象はいかがでしたか?

宮野さん:初対面の感想はぶっちゃけ悪いです。というかお互い悪いと思います。夜逃げ屋を漫画にしたいと抜かすバカだと思われてましたし、その感情をガンガン態度に出して来られましたからこっちも「感じ悪い人だなぁ……」と思ってました。
『夜逃げ屋日記5』より


――今回描かれた依頼のエピソードの中でも、DV加害者に対してブルさんが激しく殴りかかる様子がかなりリアルに描かれています。間近でこの状況を見ていた時の心境を教えて下さい。

宮野さん:突然目の前に台風が現れるような感じで、唖然としてしまって、何もできなかったですね。途中、「あ、、、これ相手死ぬな」と思った時に意を決して間に入りましたけど、台風の目に入るのはやっぱり怖かったです。
『夜逃げ屋日記5』より


――ブルさんがかつて両親から受けていた虐待は、とても壮絶なものでした。この話を御本人から聞いた時、宮野さんはどんな思いを抱いたのでしょうか?

宮野さん:本人からこの話が出てきた時はこんなに強い人が幼い頃とはいえ、そんな目に遭ってたのかと驚きがありました。でもどこか闇みたいなものを抱えてる感じがところどころにあったので、納得できた部分はあります。


『夜逃げ屋日記5』より

――「この話、漫画に使えばいいだろ」と、ブルさんが宮野さんのことを認めてくれる瞬間が描かれています。読んでいて胸が熱くなる場面でしたが、ブルさんに受け入れてもらえてもらえたときはどんな気持ちでしたか?

宮野さん:やっぱり素直に嬉しかったですね。憎しみ合う期間がそこそこあったので(笑)。この話を描くにあたって、本人と直接話しましたし、確認も取りまして、「もうそれを描くくらいに話が進んだんだな」って、笑ってました。会ったばかりの頃じゃ考えられないですね(笑)
『夜逃げ屋日記5』より


――『夜逃げ屋日記』の中でダントツで人気なのがブルさんだそうですね。ブルさんのどんなところが人気の理由だと思いますか?

宮野さん:ブルさんを登場させるのは当時は本当に覚悟が必要でした。これだけ闘牛のように暴走するキャラクターを読者の方は受け入れてくれるだろうか、もしかしたら収集がつかない炎上をするんじゃないか、と怯えながら描いてました。「ブル編」の漫画を投稿した後は、炎上してないか何度も確認して、しばらく眠れないくらいでした。

なのに、すごく人気なので本当に驚きました……。夜逃げ屋日記を描いててトップクラスにびっくりしたことです。おそらくですが、怖いけどどこか優しいギャップみたいなものが読者の方たちが受け入れてくださった理由なのかもしれませんね。

『夜逃げ屋日記5』より

――SNSで印象に残っているコメントなどあれば教えて下さい。

宮野さん:やっぱり最初は嫌いだったけど受け入れあったところから1番好きになりました。というコメントが多かったような気がしますし、印象に残りました。やっぱり最初は嫌われてたんだなと思いつつも、作品のキャラクターが受け入れられるのは作者としては嬉しいです。ちなみにブルさんのモデル本人もかなり喜んでます。口には出しませんが……。

***

ブルさんの苛烈な振る舞いには、思わず目を覆いたくなるような激しい描写もあります。しかし、激しい殴り合いを経た上で、宮野さんに自身の壮絶な過去を率直に打ち明けたこのエピソードは、大きな反響を呼びました。危うさを抱えながらも、誰かを救いたいという真っ直ぐな思いを抱くブルさんの人間臭さと不器用さが、多くの読者を惹きつけるのかもしれません。


取材・文=レタスユキ


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