「リングに上がれず終わるのか」寺地拳四朗を襲った“計量後の悲劇”。「試合直前の深夜」に何が起きたのか。前代未聞の中止劇を振り返る

寺地拳四朗

「リングに上がれず終わるのか」寺地拳四朗を襲った“計量後の悲劇”。「試合直前の深夜」に何が起きたのか。前代未聞の中止劇を振り返る

2月11日(水) 15:53

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2025年12月、前WBA&WBC統一世界フライ級王者の寺地拳四朗が臨むはずだったサウジアラビアでの統一戦は、公式計量を両陣営が問題なくクリアしていたが、その夜、突如中止に。試合に向けた調整は順調で、リカバリーも問題なく進んでいたそうだが、リングに上がることすら叶わなかった。

この試合は、単なる防衛戦ではなかった。3階級制覇、そして同階級に君臨する統一王者ジェシー・ロドリゲスとの対戦へとつながる可能性が広がる一戦だった。その意味で、突然のキャンセルが寺地と陣営に残した影響は小さくない。

なぜ試合は中止されたのか。そのとき現地では何が起きていたのかーー。マネージャーの三迫ジム会長の三迫貴志氏、そして寺地本人から話を伺った。

計量クリア後の「突然のキャンセル」…真相は?

ーー先日行われるはずだったサウジアラビアでの統一戦。現地入りし、調整も万全だったと聞きます。まさかの試合中止が決まったのはいつだったのでしょうか。

三迫貴志: サウジアラビアに到着してからも調整は順調で、気候も良く、全てが良い流れでした。時差もマイナス6時間なのでアメリカに比べれば楽ですし、減量も上手くいっていた。 運営を手伝っている日本人スタッフから連絡が入ったのは、試合前日の22時過ぎです。「中止です」といきなり言われて、最初は状況が理解できませんでした。ロビーに飛んでいって日本人スタッフに食い下がったのですが、「相手選手が勝手に病院に行ってしまった。コミッションの決定だ」と。どうにもなりませんでした。

寺地拳四朗: 僕は部屋でくつろいでいたんですが、23時頃にトレーナーから電話があって、「すぐロビーに来てくれ」と。声が深刻そうだったので、「俺、ドーピングとか何かやらかしたんかな?」と一瞬不安になりつつ慌てて下に行ったら、スタッフ全員がこの世の終わりのような顔をしていて...…。「試合がなくなった」と言われた時は頭が真っ白で……。怒りとか悔しさというより、「ここまで来てリング上がらへんの?計量までしてるのに?」という不思議な感覚で。ただただモヤモヤしましたね。

三迫貴志: 全員が一斉にため息をついていましたね。あの空気は恐ろしかった。何とも言えない沈黙が続いて。

「4団体統一」に繋がるはずだったが…

ーー突然の中止で、精神的に相当なダメージがあったと思います。今回の試合は、単なるタイトルマッチ以上の「大きな意味」を持つ一戦だったと聞いています。その中で、拳四朗選手を突き動かしていた原動力は何だったのか、改めて教えてください。

三迫貴志: 今回の試合は、単なる「3階級制覇」以上の意味がありましたからね。 このIBFのベルトを取れば、同じ階級の3団体統一王者であるジェシー・ロドリゲスとの4団体統一戦が見えてくる。バムは今やスーパースター候補ですから、彼と戦いたいというのが拳四朗の念願でした。世界的権威のある専門誌『リングマガジン』もこの試合を評価してくれていましたし、期待感は最高潮でしたよ。

寺地拳四朗: そうですね。次が見えていたので、モチベーションは管理するまでもなく勝手に上がっていました。練習もハマっていたし、「いい流れで戦える」という確信があった。だからこそ、あんな形で終わってしまったのが、余計にモヤモヤするんですよね。

消えないモヤモヤはリングで晴らしたい

三迫貴志: 確かに後味は悪いですが、次に試合が決まれば、ファンもお客さんも一番期待する「決着戦」になります。恨みじゃないですけど、ドラマが生まれたことで「今度こそ白黒つけてやる」という盛り上がりはあると思います。

寺地拳四朗: 試合で倒してチャラにするしかない。どこでやるにせよ、次は絶対に逃がさないという気持ちでリングに上がるつもりです。

ボートレーサーを夢見ていた時代が

ーーリベンジマッチが今から待ち遠しいです。さて、話は変わりますが、会話の節々からお二人には強い信頼関係がある印象を受けます。お二人はそもそもどのような出会いだったのでしょうか。

三迫貴志: 今から30年ほど前ですかね。私がアメリカのジムに通っていた頃に、拳四朗のお父さん(元東洋太平洋ライトヘビー級王者・寺地永氏)と一緒に練習していた時期があったんです。その縁もあってがデビューした頃から知っていました。「必ず世界王者になる逸材だ」と確信して、東京での興行に出てもらうようになりました。2017年のWBC世界ライトフライ級タイトルマッチで、王者ガニガン・ロペスに挑む世界タイトルに初挑戦を前に、お父さんから「練習環境を整えてほしい」と依頼があり、本格的にマネジメントを引き受けることになりました。

ーーこれまでのお話から察するに、かなり現実的な動機から競技を始められた印象があります。ボクシングを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

寺地拳四朗: 実は僕、体が小さい方が有利で稼げるから、ボートレーサーになりたかったんですよ。ただ、なかなか受からなくて。 そうしたら「プロボクサーになって日本ランク5位くらいに入れば、競艇学校への特別推薦がもらえるらしい」という話を聞いて。「とりあえずプロを目指すか」くらいの軽い気持ちで始めました。でも、日本5位まで行ったら「じゃあ日本チャンピオンなりたいな」、日本王者になったら「世界行けるかな」と……気づいたら世界王者になっていました。

井上尚弥と中谷潤人に対して思うこと

ーーボクシングを始めた原点を伺いましたが、競技を続ける中で「同世代の存在」を強く意識する場面もあったと思います。高校時代には、井上尚弥選手とも対戦されていますよね。

寺地拳四朗: インターハイの決勝ですね。僕は当時3年生で、尚弥は1年生。結果は負けです。当時からめちゃくちゃ強かったですよ。 今はもう、見てるこっちが「負ける想像がつかない」レベルですよね。同じボクサーとして見ても、彼は頭一つ抜けています。

ーー井上選手のように早い段階から評価を確立した選手がいる一方で、試合を通して、着実に評価を積み上げてきたのが中谷潤人選手だと思います。同世代の目から見て、彼の成長をどう感じていますか。

寺地拳四朗: 昔、スパーリングをしたことがあります。当時はフライ級で、そこまで差があるとは感じませんでした。そう思いきや、トントン拍子で階級を上げていくにつれて、体もしっかり大きくなっている。 単に「うまい」というレベルじゃなくて、階級を上げながらちゃんと「進化」しているのを感じます。今後さらに体が大きくなれば、またスタイルも変わっていくんでしょうけど、今の彼を見ると「上の階級の選手だな」という迫力を感じますね。

揺るぎない「3階級制覇」への執念

ーー最後に、IBFとの一連のやり取りもあり、競技外での動きも続いていますが、今後の目標を教えてください。

三迫貴志: チームとしてIBFには強く抗議を入れています。こちらの要望は「王座剥奪」云々よりも、とにかく「試合をさせてほしい」ということ。彼が王者であることを認めるなら、正々堂々とリングで決着をつけさせてほしい。それがファンも一番望む形でしょうし、我々もそこで白黒つけたい。

寺地拳四朗: 目標は変わらず、3階級制覇です。そして、現在のフライ級統一王者であるジェシー・ロドリゲスとの対戦。今回のことがあって流れが一度止まりましたけど、このモヤモヤを晴らすには、もっと強い相手とやって勝つしかない。

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取材の数日後、IBFはスーパーフライ級王者ウィリバルド・ガルシアに対し、指名挑戦者アンドルー・モロニーとの防衛戦を指令。寺地との再戦の可能性は事実上消滅した。寺地陣営からすると、まったくもって納得がいかない結果のはずだ。今回の悔しさを闘志に変え、再びリングで輝く瞬間を心待ちにしたい。

<取材・文/菅原春二写真提供/福田直樹>

【菅原春二】
東京都出身。フリーライター。6歳の頃から名刺交換をする環境に育ち、人と対話を通して世界を知る喜びを学んだ。人の歩んできた人生を通して、その人を形づくる背景や思想を探ることをライフワークとしている。

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