【Jリーグ連載】「怒られないし、指示されない」元祖・天才が語る、他とは一線を画していた読売クラブの指導哲学

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【Jリーグ連載】「怒られないし、指示されない」元祖・天才が語る、他とは一線を画していた読売クラブの指導哲学

2月10日(火) 9:50

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東京ヴェルディ・アカデミーの実態

~プロで戦える選手が育つわけ(連載◆第34回)

Jリーグ発足以前から、プロで活躍する選手たちを次々に輩出してきた東京ヴェルディの育成組織。その育成の秘密に迫っていく連載の第3章。ここからは、同クラブのアカデミーで育ち、指導者としても後進の育成に尽力してきた菊原志郎氏と冨樫剛一氏が、同アカデミーの歴史、伝統、環境、哲学、本質......すべてを語り尽くしていく――。

読売クラブのアカデミー時代を振り返る菊原志郎氏photo by Takahashi Manabu

読売クラブのアカデミー時代を振り返る菊原志郎氏photo by Takahashi Manabu



Jクラブのみならず、いわゆる街クラブが日本全国に数多く存在する現在、育成年代の指導においても、その標準レベルは上がった。当たり前になっている常識が増えた、と言い換えてもいいだろう。

たとえば、周りをよく見ること。

首を振る、などと表現されることもあるが、つまりは、周囲の状況をしっかり把握してプレーしよう、ということだ。今では育成年代の指導における、"いろは"の"い"かもしれない。

ところが、小学生時代から読売クラブで育った菊原志郎(現FC今治U-12監督)には、コーチから「周りを見ろ」などと言われた記憶がない。だからといって、菊原が周りを見ることの重要性に気づいていなかったかと言えば、そうではない。

なぜなら、菊原いわく、「相手のプレッシャーは速いし、いろんなところからボールをくれって言われるし、常に(周りを)見ざるを得なかった」からだ。

「なにしろ、見て感じ、頭で考える。そうやって、いろんなチャレンジをしていく。その繰り返しでした。そのなかで読売がよかったのは、子どものアイデアとか、発想とかを、すごく大事にしてくれたこと。子どもがいろんなことにチャレンジできるし、失敗しても、何度でもやれる。その環境がすごくよかったと思います」

当時はまだ、一般論で言えば、スポーツの現場に根性主義が強くはびこっていた時代である。だからこそ、と言うべきか、菊原は「(読売では)怒られないし、指示されないから、サッカーが面白くてしょうがなかった」という。

「自分で考えて、何でも試せる。その環境が子どもたちの脳を発達させて、体の動きを発達させて、テクニックを発達させていった。やればやるほど、それが自然と身についていくっていう感じでした」

読売の指導法は、他とは一線を画していた、と言ってもいいだろう。

「他の少年団とかは、一生懸命走って、蹴って、怒られてっていうサッカーをやっていたなかで、僕らは相手をよく見て、細かくパスをつないで、どうやって崩していくのかっていうことを徹底してやっていた。外から見ると、ちょっと不思議なチームだったんじゃないですか」

ただし、そこで重要なのは、自分で考えるという点である。

菊原が「感性というか、よいものや大切なことを感じる力とか、観察力とかが長けていないといけなかった」と表現する環境は、菊原には適していたかもしれないが、ひたすら指示を待ち、サッカーを教えてもらいに来ていた選手には向いていなかった。

「僕は『感性を鋭くしなきゃいけない』とか、言葉で聞いたことはないし、思ったこともない。ただ、なにしろ見て、感じないといいプレーができない。それがすごく体に染み込んでいきました。

僕は今(ヴェルディを離れて)いろんなところで指導していますけど、(選手が)習い事に来ているような感じがすることがあります。『今日は何を教えてくれるんですか?』みたいな雰囲気になっている。でも、僕らはそういう育ち方ではなかったんです。

自分で判断する楽しさですよね。指示されて、言われたことだけをやっていたら、たぶん楽しくなかったと思います」

最近は指導の標準レベルが上がるにつれ、育つ選手の標準レベルも上がってきた。

だがその一方で、選手に個性がなくなった、とはよく聞かれる指摘である。

いわゆる、決め手を持つ選手、あるいは、違いを生み出せる選手。そうした選手が才能の芽を出すためには、菊原のような考え方、すなわち読売的な考え方が、今の時代にも必要なものなのかもしれない。

「今だと、一回失敗すると怒られて、次から『チャレンジしたいけど、やめておこうかな』みたいな気持ちになってしまう選手もいます。でも、読売は何度失敗しても試せる環境だったから、細かい部分に異様にこだわる人たちがいたんです。『この人、勝ち負けより、スルーパスのことしか考えてないんじゃないのかな』みたいな人が(笑)」

ただ、菊原は「Jクラブのコーチたちは結果で評価されることも多いので」とも言い添え、「特に(カテゴリーが)下に行けば行くほど、若いコーチや経験の少ないコーチを配置することが多く、彼らはどうしても結果を出さないといけないっていうプレッシャーもあるのだろう」と、アカデミーでの指導の難しさにも気を配る。

「その辺を、いかにクラブが整理できるか。小中学生の時にチーム戦術で勝つのではなく、徹底して個人の能力を高めることによって、『一人ひとりができることを増やしていけば、自ずと勝つ確率は上がるよね』っていうふうになっていくのもひとつの手段かもしれない。

僕が15歳で(トップチームで通用する)ある程度のレベルまで行けたっていうのは、やっぱり読売の指導があったから。指示されたことだけを忠実にやっていたら、15歳で大人の世界に入って、自分で判断してプレーするなんてことは、たぶんできなかった。そういうところは、もしかしたらヒントになるのかなって思います」

(文中敬称略/つづく)

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