"山の名探偵"工藤慎作(早稲田大)が振り返る3度目の箱根駅伝5区と黒田朝日(青学大)との距離感

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"山の名探偵"工藤慎作(早稲田大)が振り返る3度目の箱根駅伝5区と黒田朝日(青学大)との距離感

2月10日(火) 10:00

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3度目の箱根駅伝5区の走りを自身の言葉で振り返った早大・工藤慎作 photo by Satoshi Wada

3度目の箱根駅伝5区の走りを自身の言葉で振り返った早大・工藤慎作 photo by Satoshi Wada





前編:工藤慎作(早大)が挑む己との戦い

箱根駅伝5区の代名詞的選手となった"山の名探偵"工藤慎作は、2番手でタスキを受け、3度目の山上りをスタートした。早稲田大の往路優勝を担い、ひたすら前へ、前へ。10km手前で中央大を捉えて先頭に立ったが、自身の走りには異変が――。

【1分12秒前をいく中大を射程に入れて】今年の箱根駅伝の往路・小田原中継所。早稲田大学の工藤慎作(3年)が、後輩の鈴木琉胤(1年)からタスキを受け取ったのは、先頭の中央大から1分12秒遅れの2位だった。

「思ったよりも上の順位で来たなって思いました。3区の山口竣平(2年)はケガ明けでしたし、4区の鈴木琉胤はもちろんポテンシャルはありますけど、1年生なのでどうなのかなとわからなかったので」

3年連続の5区をまかされた工藤は、自身が想像していたよりも早く、山上りに出発した。

チームが総合優勝を成し遂げるには、主力選手を並べた往路で先行することが絶対条件。早大のストロングポイントと自認していた工藤は「前にいた中大を意識していました」と言い、先頭を奪うべくレースを進めた。

「1分12秒は結構差があるなって感じましたが、いけると思っていました」

単純に計算して、自分が1時間09分00秒で走れば、相手が1時間10分12秒で走らなければ追いつくことができる。中大の柴田大地(3年)は3000m障害で実績のある実力者だが、十分に逆転は可能だと考えていた(1時間09分00秒は従来の区間記録を上回るタイム。1時間10分12秒でも5区の歴代トップ10に入る)。

「前半は余裕を持ちつつ、小涌園前(11.7km)を過ぎたあとぐらいからフルスピードというか、アクセルを踏んでペースを上げていくイメージでレースプランを立てていました」

函嶺洞門(3.5km)までは工藤は誰よりも速かった。突っ込んでいるつもりはなかったが、「平地の走力が上がっているぶん、余裕はありました」と言う。

しかし、函嶺洞門を過ぎて本格的な上りが始まると、「今日はちょっと微妙だな」と感じるようになった。

大平台(7.0km)の通過タイムは黒田朝日(青学大・4年)に次ぐ2番目に下がったが、工藤もまた区間記録を上回るペースを刻んでいた。前回の自身のタイムを比べると13秒も速かった。それにもかかわらず、「うまく走れていない」という感覚は大きくなっていた。

「速くは走れていましたけど、体の張る部分、負荷がかかる部分がいつもと違う場所だったんです」

いつもは臀部とハムストリングス(太もも裏の筋肉)に張りが出るが、今回はそれにプラスしてふくらはぎへのダメージも大きかった。それが「うまく走れていない」ことを表わしていた。

それでも、10kmを前に中大の柴田をとらえ、早々に先頭を奪った。

芦ノ湖までは残り約11km。青学大・黒田にじわじわ差を詰められているとはいえ、まだ2分近い差があった。この時点で多くの人が早大の往路優勝を疑わなかったのではないだろうか。

「工藤のほうが黒田選手よりも入りが速かったですし、これでいけるかなと思った」と花田勝彦・早大駅伝監督。当の工藤も「勝てるかも」という考えが頭をよぎったという。

ただ、トップを走っていても苦しいことに変わりはなかった。

「まずは先頭に立ちましたが、きつかったので、これはまずいなっていう感じもありました。勝てるかもと思いましたけど、油断はできないと思っていました」

後方から青学大の黒田が追い上げてきているのも把握しており、気を緩めるわけにはいかなかった。

【想定していた黒田の出走】実は、事前に工藤が警戒していた5区候補が黒田だった。もっとも、黒田は3年連続の2区起用が濃厚で、"5区に起用されるなら"という仮定のうえでの話だったが、当日変更でそれが現実になった。

1月2日の朝、小田原中継所に黒田が現われると5区走者の間で驚きと動揺が走ったという。だが、工藤は「前日に風の噂で黒田朝日さんが5区に来るっていうのを聞いていました」と言い、当日には特に動じることはなかった。噂を耳にした時点で、自分の走りに徹しようと覚悟を決めていたからだ。

黒田とは小田原中継所の時点では2分12秒の差があった。その差が一気に詰まったのが、小涌園前の付近だった。

「小涌園前のあたりは一瞬傾斜が緩くなるんです。前回は調子がよかったので、ここでギアチェンジしてリズムを作り直したんですけど、今回はそこで休憩するしかなかった。でも、黒田さんはここで(1km)3分4秒とかで走っていて、一気に15秒から20秒も詰められてしまいました」

大平台では1分57秒差だったのが、小涌園前の定点(11.7km)では、1分02秒差に詰まった。さらに、国道1号線の最高点手前の芦之湯(15.8km)では15秒差にまで迫っていた。

「臀部もハム(ストリングス)もパンパンでかなり脚が重たくて、最高点付近では完全に脚が止まっていました」

そう感じるほど限界が近づいていたが、工藤は後ろを振り返ることなく、なんとか脚を前に運び続けた。

初めて黒田を目視したのは、最高点を過ぎて下りに入ってからだった。

「監督からの声かけでは、下りではあまり詰められていないって聞いたんですけど、元箱根の360度のカーブで確認したら、思ったより近くまで来ていたので、こりゃあ抜かれるなって思いました」

そして残り1.5km。ついに追いつかれてしまう。もちろん工藤は食らいつこうとしたが、黒田とはピッチが明らかに違い、なす術がなかった。

「ついていこうとしましたけど、追いつかれた時点で、すでに限界に近い状態でした。あと1kmちょっとなんで、明日のために1秒でも広げられないようにと意識して走りました」

逆転され、突き放されたあとは、ただただ懸命に往路のフィニッシュを目指した。結局、工藤は、黒田から18秒遅れて芦ノ湖にたどり着いた。

「もう、悔しいのひと言に尽きます」

工藤は1時間09分46秒で区間3位と、決して悪い走りではなかった。だが、"山の名探偵"をもってしても、1時間07分16秒という驚異的な区間新記録を打ち立てた"シン・山の神"黒田には太刀打ちできなかった。こればかりは黒田を称えるしかない。

こうして早大の総合優勝のシナリオは、往路で崩れた。

後編につづく〉〉〉「平地のほうが実績はあるんですけどね」"山の名探偵"工藤慎作が挑む初マラソンと最後の箱根駅伝

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