ともに岡山県岡山市出身の岡慎之助(左)と太田海也(右)photo by Noto Sunao(a presto)
太田海也×岡慎之助スペシャル対談 前編
2024年のパリオリンピックで注目を集めた自転車競技&競輪の太田海也と徳洲会体操クラブ所属の体操・岡慎之助。とくに岡は金メダル3個、銅メダル1個と輝かしい成績を残し、強烈なインパクトを与えた。そんなふたりはともに岡山県岡山市出身で、同年12月に岡山市内で開催された凱旋パレードにも参加している。現在は生まれ故郷を離れ、それぞれの練習拠点で世界の頂点を目指して研さんの日々を送るふたりが、初対面時の思い出やトレーニング内容について語り合った。
【まさかの「おかジュニ」出身】
――ふたりともパリオリンピック後の凱旋パレードに参加されていましたが、最初の接点はその時ですか。
太田
その時に初めて会って、その後はSNSで僕がちょっかいを出したりしていました。「ご飯行こう」とか連絡をして、「ちょっと忙しいです」みたいなやりとりですね。
岡
そうです。毎日トレーニングしているので、お互いに日程が合わなくて、なかなか会うことができなかったですね。
太田
僕の練習拠点が伊豆で岡選手の拠点が鎌倉だから、公共交通機関だと少し時間がかかるんですよね。
――初めて会った時にはどんな印象だったのでしょうか。
太田
岡選手は金メダルを3個も獲っているのに、全然偉そうじゃなくて優しく接してくれて、「めちゃいいやつやん」と。惚れましたね(笑)。
岡
太田選手の印象は「男前やな」と思いました(笑)。他にも何人かパレードに参加された選手がいて、「岡山県民で同じ舞台で戦った選手がこれだけいるんだな」といううれしさもありました。
――岡選手はこれまで自転車競技を見る機会はありましたか。またどんな印象を持っていますか。
岡
もちろん見たことがあります。僕はケガをした時にバイクのトレーニングをしていたんですよ。30秒全力で漕いで、ちょっと休憩して、また全力で漕ぐというのを5セットくらいやったんですけど、途中で「漕ぎ方がわからない!」みたいな感覚がありました(笑)。限界を突破したらもう「あれ、どうなってるの?」みたいなイメージ(笑)。
太田
「どうやって走るんだっけ?」という感覚でしょ。
岡
そうです。「すごいことをしているな」と改めて感じてます。
――太田選手は体操競技についてどんな印象を持っていますか。
太田
体操は身体能力を一番必要とするスポーツだと思うので、すごく憧れがありますし、今も変わらずやっぱりかっこいいなと思います。実は伝えていなかったんですが、僕、岡山で体操を少しの間、やっていたんですよ。
――プロフィールには入っていないですよね。
太田
そう。小学校に入るまで1~2年間くらいやっていて、そのコーチが岡選手のコーチと同じで(笑)。奇跡的なつながりがあったんです。記憶はおぼろげながらあるんですが、すごく厳しかったから、体操器具のある体育館に入ると、緊張感が走るくらい怖いイメージしかないんです(笑)。
岡
めっちゃ怖かったですよね(笑)。
太田
そう。だからここ(岡選手の練習場)に入る時も、その時のイメージがあったから、怖いというか(笑)。
――だからここに入ってきた時に口数が少なかったんですね。
太田
扉を開ける時に「礼をしたほうがいいのかな」とか、「どうしたらいいんだろう」と思っていました。全員にあいさつするのもあれかなみたいな(笑)。
岡
超厳しかったですよね。太田選手も僕と同じで「おかジュニ」(おかやまジュニア体操スクール)なんです。
約1年ぶりの再会を喜ぶ岡photo by Noto Sunao(a presto)
【筋トレ談義に花】
――ところで、おふたりは互いに素晴らしいフィジカルをお持ちです。太田選手は体づくりで意識していることはどんなことですか。
太田
僕は筋トレをめちゃくちゃやっています。コーチの出したメニューに対してどんな意図でやるのかを理解したうえでやっていますね。とくに下半身が多いです。太もも、ふくらはぎを含め、脚全体です。上半身もやりますが、比率は7対3で脚が多いですね。
岡
体操は自重(トレーニング)ですね。ずっと動いている競技なので、動作的なトレーニングが多いです。ダンベルとかの筋トレはやらず、動きのなかで体を作っていくイメージ。間違った筋トレをして無駄な筋肉をつけてしまうと体が重くなるので、負荷のかかるトレーニングはしません。ケガをしている時は重りを使った筋トレをしますが、その時ぐらいですね。
太田
筋トレをしていなくてこの上半身はすごいですね。
岡
体操をやっていると勝手についていくものなんですよ。
太田
飛んだり跳ねたりしているから自重の何倍も負荷がかかっているということですよね。
岡
Gがすごいんです。
太田
でないと、この上半身の筋肉は理屈に合わないですよね。自重のトレーニングだけと言われても信じられないです。
岡
筋トレをやらないと筋肉がつかない人もいますが、僕の場合は体操をやっているだけで勝手に必要な筋肉がついてくるタイプです。
太田
確かに筋肉のつき方を見るとわかります。しかもめっちゃきれいに筋肉がつくタイプだと思います。バランスがいいですよね。
――さきほど体操のトレーニングを見させていただきましたが、ほとんどの選手が上半身裸で練習されています。みなさん、自慢できるような筋肉があるのでしょうか。
岡
確かに裸族は多いですね(笑)。僕が好きなのは、二頭筋とあばらの脇のところ。
太田
僕は暑いから脱いでるだけなんですが(笑)、自分の好きな筋肉は、最近はないかな。腹筋はよく取材で写真を撮ってもらったりしましたが、岡選手の前だと言うのが恥ずかしい(笑)。
トレーニングの日々を語る太田photo by Noto Sunao(a presto)
【限界越えのトレーニング】
――ともに厳しい練習をされていると思いますが、限界を超えるようなハードなトレーニングをすることもあるのでしょうか。
太田
毎週金曜日はかなりハードなトレーニングをして追いこんでいますね。今はシーズンに向けて追いこむ時期なので、めちゃめちゃ重たいギアをつけて全力で漕ぎ続けるみたいなトレーニングをしています。普通の人だと足が回らないと思います。それを1日4本やるんですが、みんなぶっ倒れていますね。
岡
きつすぎる。限界を超えるやつですね。
太田
そう、限界越えです。3周するんですが、2周目を回ったくらいから足が動かなくなってきて、ぎりぎりでゴールするみたいな練習です。それは1カ月以上前から練習スケジュールに組み込まれているんですが、それを最初に見つけた時には、「練習、入ってる~」とみんな頭を抱えて......。
練習当日の午前中もみんなナーバスで、お昼ご飯も喉を通らないというか......。次の金曜日にもあるんですが、それが終わればとりあえずその練習は一区切りつくので、それまではめちゃ憂鬱です。
岡
きつい練習もありますが、「これも何かにつながる」「金メダルを獲るためにはこれが必要だ」と信じてやっています。今は練習メニューを一新して、練習時間も2時間くらい増えました。最初は「長いな」という感覚がありましたが、これも必要なことだからと、メニュー以外に自分の考えたものをやったりしています。
太田
練習メニューはどうやって決めているんですか。
岡
トレーニングは、おかジュニでやっていたものを今もやっている感じです。それをやりつつ、着地の練習とか、動作チェックとかをやっていますが、そんなに多くはないです。器具を使って回っているほうが断然多いですね。基本が大きな技に派生していくというイメージです。
太田
基本の延長でオリンピックで金メダルを獲れるのは本当にすごいですね。
岡
あとはもう根性と気合いです(笑)。
太田
自転車も根性と気合いが大事なんですが、その度合いが違うのかもしれないです。自分たちはやる練習を全部決められていて、それ以上でもそれ以下でもダメで、自主練も禁止。やりすぎちゃうとパフォーマンスが落ちてしまうから、きっちりやりきらないといけない。その日の気分でもう1本いくとかはないですね。
岡
以前までは筋肉の状態がいい日や調子のいい日に、「これもやってみよう」と思ってやっていたんですけど、それがケガにつながったり、次の日のパフォーマンスが落ちたりするから、「そんな状態になるのは避けよう」とは言われていますね。
対談 中編に続く>>
【Profile】
太田海也(おおた・かいや)
1999年7月27日生まれ、岡山県岡山市出身。高校時代はボート競技で活躍し、全国高等学校総合体育大会で優勝するなどし、U-19代表に選出される。大学でもボートを続けるが、19歳で自転車競技に転身。2021年に日本競輪選手養成所に入所し、早期卒業を果たした。2022年1月に競輪でデビューし、8月にはS級2班に特別昇級。同年からナショナルチーム入りし、数々の国際大会に出場。2024年にはネーションズカップで優勝するなど好成績を残し、パリ五輪の代表入り。本大会では3種目に出場した。
岡慎之助(おか・しんのすけ)
2003年10月31日生まれ、岡山県岡山市出身。4歳からでおかやまジュニア体操スクールで体操を始め、高校から徳洲会体操クラブに所属。2019年には世界ジュニア体操競技選手権で金メダル2個を含む4個のメダルを獲得するなど、将来を嘱望される選手となる。2022年に右膝前十字靱帯断裂の大ケガを負うも、2024年5月のNHK杯の個人総合で初優勝を飾り、パリ五輪の出場権を獲得。本大会では団体総合、個人総合、鉄棒で金メダル、平行棒で銅メダルを獲得した。
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