井上尚弥は現代のボクシングビジネスに一石を投じた2026年はどのような立ち位置になるのか?

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井上尚弥は現代のボクシングビジネスに一石を投じた2026年はどのような立ち位置になるのか?

2月2日(月) 9:45

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井上尚弥(左)と無敗王者のまま引退したクロフォード photo by Getty Images

井上尚弥(左)と無敗王者のまま引退したクロフォード photo by Getty Images





前編:「モンスター」井上尚弥のPFPの位置付けと2026年展望

【無敗王者の華麗な幕引きか?年間4度のタイトル防衛か?】2025年の年末から年明けにかけて、アメリカのボクシング界でもこれまで以上に"Naoya Inoue"の名前を耳にする機会が多かった。この時期、主要メディアをはじめ、各ボクシング媒体が発表する年間表彰の選定が続いたからだ。

現地1月17日、由緒ある全米ボクシング記者協会(BWAA)の年間賞ノミネート選考会議がオンラインで行なわれた。筆者も出席した話し合いの結果、井上尚弥はテレンス・クロフォード、ジェシー・"バム"・ロドリゲス、ドミトリー・ビボル、レネ・サンティアゴとともに"BWAA Fighter of the Year(年間最優秀選手)"の最終候補に含まれた。

同賞はクロフォード、井上の一騎打ちという見方が一般的である。クロフォードは昨年9月、サウル・カネロ・アルバレスとのメガファイトを制して5階級制覇を果たすとともに、3階級で4団体統一という史上初の偉業を達成した。一方、井上は4試合を行い、前評判が高かったムロジョン・"MJ"・アフマダリエフを完封するなど安定した強さを見せつけた。

パウンド・フォー・パウンド(PFP)でもトップ3を堅持してきたこの両雄。いったいどちらが年間MVPにふさわしいか、という議論がしばらく多くのメディアの間でも催されてきたのだ。

「私はクロフォードに投票した。年1試合だけだったが、歴史的に非常に意味のある一戦だった。井上の試合数を評価するという主張も非常に妥当で、考慮されるべきだと思うが、勝った相手のすべてがハイレベルだったわけではない。私が見た限り、ほかの多くのメディアもクロフォードを選出しているようだ」

『リングマガジン』のマヌーク・アコピャン記者がそう述べていたとおり、最終的にはクロフォードを選出する関係者が多そうではある。

スーパーウェルター級から一気に2階級を上げて"カネロ"に挑戦し、クロフォードが完勝した一戦のインパクトはそれほど大きかった。ラスベガスのアレジアント・スタジアムに7万482人の観衆を動員し、『ネットフリックス』で全世界4100万件以上という莫大な視聴者を集めた、いわゆる"Event of the Year(2025年最大のイベント)"。その主役を立派に務め、同時にその後に42戦全勝(31KO)のまま現役引退表明したこともあって、いわば功労賞的な趣でクロフォードを年間MVPに選ぶメディアもいたかもしれない。

クロフォードの引退発表間際に関係が悪くなったWBC(世界ボクシング評議会)こそ井上を年間最優秀選手に選んだが、それ以外はやはりクロフォードを選出する媒体、団体が多い。井上の強さを認識しているファン、関係者も、クロフォードが同賞に選出される結果自体に特に異論はないのではないか。

【PFPトップ10では2025年最多の4試合の意味】もっとも、「Fighter of the Year」選考で"次点"になったとしても、井上がやり遂げたことの価値が変わるわけではない。アメリカのリング界には"Activity matters(活動的であることは重要だ)"という言葉がある。近年のトップボクサーは年2試合かそれ以下が当然になったなかで、去年の"モンスター"井上尚弥は1、5、9、12月とコンスタントにリングに立ち続けた。キム・イェジュン(韓国)、ラモン・カルデナス(アメリカ)、アラン・ピカソ(メキシコ)といった対戦者たちは世界的には無名の存在ではあっても、キム以外のふたりは一定の実力者だった。このレベルの選手が年4戦をこなすことの珍しさは、『リングマガジン』のPFPでトップ10にランクされている選手たちの2025年の試合数を見れば明白だ。

1位オレクサンデル・ウシク(ヘビー級)1試合

2位井上尚弥(スーパーバンタム級)4試合

3位ジェシー・ロドリゲス(スーパーフライ級)2試合

4位ドミトリー・ビボル(ライトヘビー級)1試合

5位アルツール・ベテルビエフ(ライトヘビー級)1試合

6位中谷潤人(バンタム級)3試合

7位シャクール・スティーブンソン(ライト級)2試合

8位デビッド・ベナビデス(ライトヘビー級)2試合

9位デビン・ヘイニー(ウェルター級)2試合

10位オスカル・コヤソ(ミニマム級)2試合

このように頻繁にリングに立つことの負担について、昨年11月のインタビューで問うと、井上はすっきりした表情でこう述べていた。

「常に戦う体勢ができているので、居心地がいいんです。いつでも戦闘モードでいられる感じ。ただ、僕は試合するだけなのでいいですけど、1年4戦だと大橋秀行会長や(大橋ジムの)スタッフの方々の仕事が本当に大変になるので、そっちを心配しています(笑)」

2025年は日本で2戦、ラスベガスで1戦、サウジアラビアで1戦。今では"モンスター"の試合はすべてがビッグイベントとなり、それは試合地がどこであっても変わらない。トレーニング期間、プロモーションの時間、労力なども含め、選手本人、その陣営ともに実際にはかなりの負担だろう。だからこそ、世界最高レベルのボクサーが同時に現役最高級の"戦うチャンピオン"でもあることには大きな意味がある。

アメリカではSNSでのトラッシュトークには熱心でも、なかなかリングに上がらない若手選手が数多い。端的に言って、近年のアメリカ・リング界の人気凋落は、トップ選手たちがなかなか試合をしなくなったことが一因と言える。そんな時代において、多くの時間をボクシングに捧げた井上は一服の清涼剤だった。本人にそういった意図はなくとも、現代のボクシングビジネスに一石を投じたという考え方もできる。

年間最優秀選手に選ばれようと、そうではなかろうと、井上の2025年には大きな意味があった。軽量級選手としてはもう必ずしも若くはない31〜32歳という年齢でありながら、そのような1年を過ごしたことも評価されていい。そのうえ、さらにすばらしいのは、2026年は"モンスター"にとって、もっと大きな1年になるかもしれないということだ。

年間最優秀選手の受賞とPFP1位復帰をどちらも成し遂げる現実的な可能性が見えてきているのである。

つづく

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