
『徳兵衛はん』(書肆アルス)著者:閒村 俊一
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スマホで新聞が読めるようになり、文章は紙の手触りを失いつつある。そうしたご時世に活字の刻印や装画の色合い等、手仕事にこだわる反時代的な装丁家が著者である。俳人でもあり、本書は第三句集。
本書も装丁作品めいて、挿絵のような句がある。西村賢太急逝に際し「鶯谷北口にきさらぎの反吐」。居酒屋信濃路鶯谷店のカウンターに陣取る顔色の悪い文士が目に浮かぶ。
「德兵衞はん」は曽根崎心中、章題の「おまへんか」「さうでんな」は大阪弁で、少しよそよそしい。同郷の句友に捧げると方言が交じり、抑揚まで聴こえてくる。兵庫県播州の「宍粟(しそう)」合併に思いをはせ「佐藤文香に、シソー市とちやうで」と添えるのは「水眼鏡越しの山河やシソー郡」。ちゃうでは、評者の出身地である神戸市一帯に広がる播州弁。
詞書(ことばがき)に「離れの縁に立ちて見てゐしあれが母 いつも見てゐるだけだつた母」とある「濡れ縁に立ちつくしてや實南天」。兵庫県から上京し、縁遠くなった息子を思う母の造形にグッときた。
目次裏に「少年と鋏と函と春雷と」とある。簡潔極まりない要約であり、「鋏と函」も装丁を思わせる。
【書き手】
松原 隆一郎
1956年兵庫県神戸市生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業。同大学院経済学研究科博士課程修了。 東京大学大学院総合文化研究科教授を経て、2018年4月より放送大学教授、東京大学名誉教授。武道家としても知られる。著書に『ケインズとハイエク』『日本経済論』『分断された経済』『経済学の名著30』『消費資本主義のゆくえ』『失われた景観』『武道を生きる』『経済政策―不確実性に取り組む』『森山威男 スイングの核心』など。
【初出メディア】
毎日新聞 2026年1月10日
【書誌情報】
徳兵衛はん
著者:閒村 俊一
出版社:書肆アルス
装丁:単行本(ソフトカバー)(240ページ)
発売日:2025-10-08
ISBN-10:490707848X
ISBN-13:978-4907078485
