人の怒りや喜びを感じる能力、自分の感情を伝える能力、具体的な事例とともに紹介

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人の怒りや喜びを感じる能力、自分の感情を伝える能力、具体的な事例とともに紹介

1月29日(木) 6:00

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馬のこころ──人の相棒になれた理由 『馬のこころ──人の相棒になれた理由』(岩波書店)著者:瀧本 彩加 Amazon | honto | その他の書店

◆心を読み取る術、関係脈々と
AIの開発に伴い、機械に「こころ」をアップロードできるか、が論じられたりする。そこは人類との付き合いの長い馬である。さて、著者の扱いは如何(いか)なるものか。

学生時代馬術部に属したのが、幼少期を除いて、著者と馬との本格的な出会いだったという。馬は基本的に仲間と暮らす動物のようだ。母子の間の愛、仲の良い馬同士の微笑ましい挨拶や、馴(な)れ合う姿が紹介されて、心が和む。そうした馬同士の間柄が、人との間にも特別の関係を築いてきた。

その前提に、家畜化できるための一般的要件も重要らしい。著者は六つを挙げているが、仲間との協働可能性もそこに生まれる。人は、軍馬、使役馬などのほか、祭祀(さいし)、スポーツなど生活のあらゆる場面で、馬と付き合ってきた歴史がある。

一方馬の能力にも著者の筆は及ぶ。数える能力、人の怒りや喜びを感じる能力、自分の感情を伝える能力、観察し学習する能力、記憶する能力などなどが、具体的な事例とともに紹介されている。中でも興味深いのは、困ったときに人の目を見つめることで、意志を伝える方法が、犬猫だけでなく、馬にも、あるいはカンガルーにさえ備わっているという。

とりわけ馬は、人との付き合いの中で、その表情や声音などから、人の感情を読み取る術(すべ)を心得ているようで、それは親しくなった相手だけではなく、初対面であってさえ、優しい顔貌と怒りのそれ、あるいは優しい声と怒鳴り声、などに、生理的に反応することが実験で確かめられるという。

私たち人間も、以心伝心などという次元もあるにせよ、通常は、相手の振舞いによって、相手の心を感じ取ったり、推理したりする。アメリカの心理学者J・B・ワトソンは、すべての心理現象を、「振舞い」(ビヘヴィアー)で捉えきることを提唱した。心理学は「心」理学であることを諦め、「振舞い」理学になるべきことになる。実際、現実には、相手の表情や動作、発する言葉などで、相手の「こころ」を読んでいるし、それ以上でもそれ以下でもないはずだ。

そういう観点からすれば、馬は、人とのかかわりの中で、相手の「こころ」を読んでいると見做(みな)せる徴候があることになろう。では、その逆はどうだろうか。

面白い実験が紹介されている。日常馬と接している人と、そうでない人とに被験者を分けて、馬の様々な表情の写真を見せたところ、前者の回答の正答率が後者のそれを有意に上回った、という。ここでの「正答率」という概念は、なかなか微妙な性格のものだが、とにかく、そういう結果があることは確からしい。そして、馬に慣れた人が注目する特徴の一つに、耳の形、動きがあるのだという。

「正答率」が微妙だ、と書いたのは、既にそこには、ワトソン流に言う馬の「こころ」が、レトリックとして前提されているからだが、その意味では、著者は、何気なく、自分の携わる領域、そして本書で紹介されている様々な研究成果を生み出した領域を、「動物心理学」という名前で呼んでいる。

デカルトは「我惟(おも)う、ゆえに我在り」として、人間の「心」の存在を証明してみせた。しかし、その証明は所詮第一人称単数に留まっている。そこにワトソン流が立ち上がる余地がある。今我々は「機械心理学」の始まりを実見しているのだろうか。

【書き手】
村上 陽一郎
1936年東京生まれ。科学史家、科学哲学者。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。上智大学、東京大学先端科学技術研究センター、国際基督教大学、東京理科大学大学院、東洋英和女学院大学学長などを経て、豊田工業大学次世代文明研究センター長。著書に『科学者とは何か』『文明のなかの科学』『あらためて教養とは』『安全と安心の科学』ほか。訳書にシャルガフ『ヘラクレイトスの火』、ファイヤアーベント『知についての三つの対話』、フラー『知識人として生きる』など。編書に『伊東俊太郎著作集』『大森荘蔵著作集』など。

【初出メディア】
毎日新聞 2026年1月24日

【書誌情報】
馬のこころ──人の相棒になれた理由 著者:瀧本 彩加
出版社:岩波書店
装丁:単行本(ソフトカバー)(158ページ)
発売日:2025-11-18
ISBN-10:4000297392
ISBN-13:978-4000297394 馬のこころ──人の相棒になれた理由 / 瀧本 彩加
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