【写真】幼少期のハサウェイ・ノア(「機動戦士Zガンダム」より)
1月30日(金)に公開を控える「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女」。その主人公ハサウェイ・ノアは、ガンダムシリーズの歴史の中でも特に非業の宿命を負った主人公である。地球連邦軍の名将ブライト・ノアの息子として生まれながら、反地球連邦運動「マフティー」のリーダーとなり、武力行使での抵抗運動に身を投じる。そんなハサウェイの戦いの裏には、かつての戦争を駆け抜けた二人の英雄、アムロ・レイとシャア・アズナブルのあまりに巨大な影があった。彼の思想がどう形成され、その行き先には何が待っていたのか。富野由悠季監督の小説『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』をもとに、その生涯を振り返る。(※本稿は小説を基にしており、映画「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」でまだ描かれていない先の展開も記述しています)
■幼少期に見たニュータイプの輝きとアムロへの憧憬
ハサウェイが初めてアニメに登場したのは、幼少期のときだ(「機動戦士Zガンダム」)。父ブライトが指揮するアーガマの艦内で、彼はカミーユ・ビダンらニュータイプたちの戦いを間近に目撃した。
中でも彼にとって特別な存在だったのが、一年戦争からの父の戦友であり、ニュータイプの象徴でもあったアムロ・レイだ。アムロが見せるニュータイプとしての可能性や、どんな困難でも諦めない姿勢は幼いハサウェイにとっての理想像となった。
後のハサウェイが腐敗した連邦政府に抵抗しながらも、どこかで「人は変われるはずだ」という希望を捨てきれなかったのは、間違いなくアムロという光を見ていたからだろう。
■第二次ネオ・ジオン戦争:シャアの絶望を継承してしまった13歳の夜
ハサウェイの人生を決定的に変えたのが、13歳で経験したシャアの反乱(「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」)である。彼はこの戦いで、初恋の少女クェス・パラヤを目の前で失うという地獄を味わう。さらにこの戦いで彼の魂に深く刻まれたのは、アムロとシャアという宿命の敵同士がぶつけ合った“究極の理想と絶望”の相克だった。
「地球を浄化するために、人類を粛正する」というシャアの過激なまでの選民思想。
「人はそこまで愚かではない」と人類を信じ、奇跡を起こしたアムロの祈り。
二人の残滓――虹色の光を帯びながら小惑星アクシズが地球から離れていくのを見たハサウェイは、アムロの奇跡に心震わせながらも、同時にシャアが絶望した地球の現状を誰よりも理解してしまったのだろう。
戦後、あまりに凄惨な体験をしたハサウェイは、精神的な後遺症を発症する。英雄の息子として期待される日々から一転、彼は深い沈黙の中に沈んだ。その治療と静養のために彼が身を置いた場所が、皮肉にもシャアが粛正しようとした地球であった。
彼は地球で農業を営むクェック・ドーグワ(アマダ・マンスン教授)の下で土に触れ、精神の回復を図る。この時期、彼は植物観察官候補生という肩書きを得て、地球の自然を再生させる学問に没頭した。しかし、穏やかな療養生活は彼に別の絶望を与えた。
地球の美しさを知れば知るほど、特権階級が汚染し続ける現状と、不法居住者を狩り立てるマン・ハンターの非道が許せなくなったのだ。シャアが抱いた絶望を、彼は治療のために降りた地球で実感を伴って継承してしまったのである。
■アムロの祈り、シャアの怒りを抱える反地球連邦政府運動「マフティー」のリーダーとして
それから12年後、宇宙世紀105年。25歳になったハサウェイは、反地球連邦政府運動のリーダー“マフティー・ナビーユ・エリン”として再び歴史の表舞台に現れる。
彼が駆る最新鋭モビルスーツ「Ξ(クスィー)ガンダム」は、かつてアムロが乗ったνガンダムの直系とも言える機体だ。アナハイム・エレクトロニクス社の最新技術が詰め込まれたその白い機体は、まるでアムロの意志を継ぐ希望の象徴としての外見が見える。
しかし彼が選んだ手段は、政府閣僚の暗殺や武力による示威行動という、かつてのシャアを彷彿とさせる過激な手段だった。アムロのように優しさと理想を持ちながら、シャアのように非情な手段を選ばざるを得ない。アムロのような“光”になれず、シャアのような“影”に徹することもできない。
この矛盾こそがハサウェイ・ノアという男の思想の正体であり、彼を蝕み続ける苦悩の根源のように感じられる。
■二人の英雄を超えられなかった悲劇の末路
小説「閃光のハサウェイ」においてのハサウェイの最期は、アムロやシャアのような生死不明の伝説にすらなれない、あまりに現実的で無慈避なものだった。アデレードでの戦闘の末、ケネス大佐率いるキルケー部隊に捕らえられた彼は、テロリストとして処刑される。
処刑を実行したのはケネスだが、彼も自らの手でハサウェイを殺したいわけではなかった。しかし、自分の後任がブライトであると知り、マフティーの正体を悟らせないために、ブライトの着任前に処刑を行ったのだ。これが連邦軍の軍人でありながら、軍への嫌悪、ハサウェイへのある種のシンパシーを抱いていたケネスができる最後の行動だった。
だが、ケネスのミスから連邦軍上層にマフティーの正体が知られ、結果、軍はその事実を利用する。新聞にリークされ、父ブライトがけじめを取り、自らハサウェイの処刑を執行したという捏造まで流された。
宇宙世紀105年、ハサウェイ・ノア死亡。享年25。アムロとシャアという二人の巨星の狭間で足掻いた男の、あまりに孤独な幕切れだった。アムロのような天才にもなれず、シャアのようなカリスマにもなりきれなかったハサウェイの25年は、偉大すぎる先人たちの意志を継ごうとして、その重圧に押し潰された記録とも言える。
ブライトは後に新聞でマフティーの正体を知ることになり、この荒涼としたシーンで「閃光のハサウェイ」の物語は閉じる。このあと歴史がどう動いたのかは、富野監督は筆を取っていない。ハサウェイが劇的に助かるというようなエンタメ的要素を一切排除し、現実に起こりえる一番のことを書いた。多くの読者が、富野監督らしいと感じる最後であっただろう。
映画が小説そのままに描かれるかは不明だが、だからこそどう結末に向かうかは気になるところだ。まずは映画「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女」の物語を早く目撃したい。
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