パリの憂鬱を跳ねのける、暁のレジスタンス|第26回 「トラベルセ・ド・パリ(パリ横断)」冬の部

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パリの憂鬱を跳ねのける、暁のレジスタンス|第26回 「トラベルセ・ド・パリ(パリ横断)」冬の部

1月28日(水) 12:20

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厳戒態勢のヴァンセンヌ
「実はまだ、自分の車でパリ横断(Traversée de Paris)に出たことがないんだ。今度出る時は、ぜひ一緒にお願いできないか?」
DS70周年イベントを主催するフレデリック氏からそんな相談を受けたのが、すべての始まりだった。

【画像】美しきシトロエンDSで、旧車愛好家の情熱があふれるパリ横断に参加(写真34点)

こちらは通算10回以上の出走経験を持つ身。フランスの自動車文化を牽引する氏のデビュー戦をご一緒できるのは光栄なことだ。助手席に娘をナビゲーターとして乗せ、世界最大級の旧車見本市「レトロモビル」の開催を直前に控えた週末、第26回「パリ横断」冬の部の会場へと向かった。

太陽が顔を出す1時間前、集合場所のヴァンセンヌ城はまだ深い闇に包まれていた。城の前では、警察が手際よく道路を規制し、スムーズなスタートを誘導している。一見すると協力的な光景だが、長年このイベントを見続けてきた目には、それが初めて見る異様な緊張感として映る。

昨今のパリ市は、あからさまな「車追放」へと舵を切っている。彼らの鋭い眼光は、参加者の安全を守ると同時に、この時代錯誤な集団を監視しているようにも見えた。

受付を済ませ、フレデリック氏と合流する。彼にとって初めての「横断」だ。絶対にトラブルは起こしたくないと、行きつけのガレージで愛車シトロエンDSを入念に整備し、新車のような輝きで現れた。前回の撮影は雨天だったが、この日は街灯の下でその妖艶なラインがいっそう際立っている。ベテランの目から見ても、申し分のない仕上がりだ。

偶然が描くトリコロール
西に向けてスタートを切る。ふと前方に目をやると、赤と白のフィアット500が2台、そしてフレンチブルーのゴルディーニR8が軽快なエグゾーストノートを響かせていた。交差点でカーブを抜ける瞬間、その3台が重なり合い、冬のパリに鮮やかな「トリコロール(フランス国旗)」を描き出した。助手席の娘も、その偶然の美しさに息を呑む。これだから公道イベントは面白い。

本来なら、最初のチェックポイントはモンマルトルの丘の頂上だ。しかし、今回のコース図からは無情にも外されていた。仕方なく麓で小休止を取っていると、頭上から数台の旧車が降りてくるのが見えた。

彼らは確信犯的にコースを逸脱し、伝統のモンマルトルを回ってきたのだ。「ルールはルール、楽しみは楽しみ」。この自由な精神こそが、パリ横断の魅力であり、フランス的なエスプリと言えるだろう。

トロカデロの攻防、そして青い閃光
コンコルド広場さえもルートから外され(よほど旧車に集まられたくないらしい)、隊列は凱旋門を経てトロカデロ広場へと至る。エッフェル塔を正面に望むこの絶景ポイントでも、ボランティアの誘導員が大袈裟な身振りで「止まるな、進め」と指図をしてくる。だが、ここを素通りできるエンスージアストなど存在しない。

DSを路肩に寄せると、示し合わせたかのようにDSクラブのメンバーたちが合流し、即席の撮影会が始まった。その輪は瞬く間に広がり、英国からの遠征組であるMGBやトライアンフなども加わって、ランドアバウトはさながら多国籍なモーターショーの様相を呈した。

だが、そこは厳密には駐車禁止区域。あまりに目立ちすぎた代償はすぐに支払うことになった。

広場の熱気を切り裂くように、あの神経質な2トーンのサイレンが鳴り響く。

無粋なサイレンと共にパトカーが現れ、拡声器で退去を命じる。車窓越しに迫る『ポリス・ナショナル』のプジョー・リフター。点滅する青い灯火は、至福の時間の終わりを告げる無慈悲な合図だ。

蜘蛛の子を散らすように、あるいは逃走劇を楽しむかのように、旧車たちは次々とエンジンを始動させ、コースへと復帰していく。やはり現代のパリは、自動車趣味に対してどこまでも非寛容だ。しかし、その締め付けこそが、彼らの結束を強めているようにも見えた。

締め付けが生む情熱
トロカデロを後にし、エッフェル塔をかすめ、パリで最も長いボジラール通り(Rue de Vaugirard)を抜ける。13区に入り、ミッテラン国立図書館の威容を横目に走り抜け、再びスタート地点のヴァンセンヌ城へと戻ってきた。

いつもなら寄り道が過ぎて、ゴールする頃には撤収作業が始まっていることも珍しくない。だが今回は、規制のおかげ(?)でお昼前には到着できた。主催であるヴァンセンヌ旧車クラブの活気がまだ残る会場に滑り込む。

ゴール後、フレデリック氏はトロカデロで合流したDSクラブの会長たちと近くのビストロでランチを囲んだ。話題は尽きないが、誰もが数日後に迫った「レトロモビル」の話に花を咲かせている。

パリ市の締め付けがいかに厳しくとも、旧車愛好家たちのエネルギーが枯渇することはない。むしろ逆境を楽しむかのように、その情熱の火はレトロモビルへと続いていくのだ。


写真・文:櫻井朋成Photography and Words: Tomonari SAKURAI
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