数々の主演女優賞を受賞した『愛を乞うひと』(1998)のほか、『火宅の人』『絵の中のぼくの村 Village of Dreams』『雨あがる』『百花』など、多くの代表作を持つ原田美枝子さん。2026年1月期はドラマ『探偵さん、リュック開いてますよ』『リブート』に出演しています。
スクリーンでは短編映画制作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS」の第8弾が公開。親友の松田美由紀さんが監督・脚本・編集を務める『カラノウツワ』に主演しています。そんな原田さんに、作品のこと、さらにライフステージの変化によって感じてきたことを聞きました。
親友・松田美由紀から主役を依頼されて
――『カラノウツワ』では、原田さん演じるパチンコ店常連の女性・文子と、若い店員・土井(佐藤緋美)の交流が描かれていきます。途中、ふたりが木の枝を触るシーンに、特に共感しました。
原田美枝子さん(以下、原田):
木の枝と握手しているような、あの感覚って分かりますよね。
――そしてその奥に、人と繋がりたいという彼らの寂しさや切なさを感じました。
原田:
そうですね。文子も土井くんも、ともにすごく孤独な人ですから。
――その孤独なふたりが出会って物語が進んでいきます。監督は原田さんの親友でもある松田美由紀さんです。
原田:
はじめは「短編映画の主人公を美枝子にやってもらいたい」と言われました。ただ最初に美由紀が書いた脚本は、全然違った内容で、ちょっと共感しきれないところがあったんです。
それから1年くらいたって、新しい脚本ができたので読ませてもらいました。新しい脚本は、余白がある感じがしてとても面白いなと。それで「やらせてもらいます」と伝えました。
年齢を重ねてくると、女性の登場の仕方が限られてくる
――作品を見ていかがでしたか。
原田:
美由紀の感性がすごくいい形で現れていると感じました。画の切り取り方も、編集や音も、相手が緋美くんだったことも、とてもよかったと思います。それに年齢を重ねてくると、作品の中での女性の登場の仕方って難しいんですよね。全部を包み込む、すごく優しいおばあちゃんやお母さんだったりが多い。もちろんそれはそれでステキなんですけど。
――はい。
原田:
でも実際の女性たちは、もっといろんなことを考えて生きているわけです。だけどそれが描かれることってあまりなくて。今回は、よくある設定の女性とは違う主人公を、同世代の監督が切り取ってくれた。おそらく男性が撮ったら、また違う作品になったんじゃないかと思います。
――女性であり、お芝居もされている松田さんが監督を務めたからこそ生まれた作品ですね。
原田:
はい。今回の作品のなかに出てくる日記の内容に「なんて幸せなの」とあるのですが、それも文子の本音かもしれないし、違うかもしれない。そうした感じもいいですよね。
ワールドシリーズで大谷翔平を応援しながら一喜一憂
――普段の生活のなかで、原田さんが「幸せだな」と感じる瞬間はどんなときですか?
原田:
嬉しい瞬間を共有できるというのは、幸せだなと感じます。たとえばおいしいご飯を食べるにしても、「おいしいよね」と共有できると、さらに幸せな気持ちになる。あと、大谷翔平くんの試合を見ているときとかね。
――ご覧になるんですね。
原田:
ワールドシリーズは、全部見て応援していましたよ。勝ったら嬉しいし、負けるともうがっくり(笑)。きっと、日本中の方がそうだったのではないでしょうか。そうやって一緒に共有できるって幸せなことだなと思います。
子育てには大河ドラマを見るような面白さがある
――原田さんは15歳でデビューされて、一線で活躍し続けていますが、お仕事をしながら、いろんなライフステージの変化も経験されてきたと思います。そうした変化の中で、心身のバランスを整えるために気を付けていることはありますか?
原田:
30代、40代のころは、子育ても仕事もあって、本当に必死で動いていましたが、一番上の子が20歳になったとき「人って育つのに20年かかるんだ」と、すごく実感しました。同時に、その子が生まれたときから20歳までの成長をずっと見られるなんて、まるで大河ドラマを見るかのような面白さがあるなと。
一生懸命頑張ってきてよかったと思うことができました。そして、その頃から自分の楽しみに時間を使ってもいいんだと思うようになってきました。
――それまでは余裕がなかった。
原田:
20代の頃は、趣味を持って楽しんだりしたら、そこにエネルギーを取られてしまうと思って嫌だったんです。すごくストイックだったので、仕事に100%向けたかった。
でも今は、子育ても終わって、自分の楽しみにもエネルギーを割けるようになりました。さらに60歳を過ぎると、もう残り時間も見えてきますから。逆算ができるようになるので、「やりたいことをやりましょう」というカラッとした気持ちです。
大変だったけれど、自分にとっては必要な試練だった
――30代、40代は必死で動いていたとのことですが、振り返ってみると、結果的に、その時間も自分を豊かにしていると思うことはありますか?
原田:
それはありますね。本当に大変で、エネルギーをどんどん取られて、自分の時間はほとんどありませんでした。まだ若いのに、一番いい時間を取られているんじゃないかとよぎったこともあります。
でもそうしたいい時期だからこそ、そのエネルギーを全部注げるんだなと。だからこそ子どもも育つ。時間が経ってみると、そうした経験によって、忍耐力もついたし、周りの人の状態も察してあげられるようにもなったと感じます。
――自然に身についていたと。
原田:
私にとっては必要な時間で試練だったんだなと。人によってそれぞれ通ってくる試練は違うと思います。それが私の場合は、子育てだったのかなと思います。
焦らなくても、楽しいことは増えていく
――現在は、自分の好きなことに時間を割けるようになったとのことですが、とても生き生きされて見えます。イキイキの秘訣を教えてください。
原田:
グチグチ言わずに、好きなことを楽しむことですかね。私はずっと乗馬をやっています。あと何年乗れるかなと思うこともありますが、考えてみると、50歳のときに「たぶん60歳までかな」とか思っていたのが、もうとっくに過ぎてるんです。
――そしてなお続けてらっしゃる。
原田:
あと10年くらい乗れるかなと平気で思っています(笑)。もしかしたらまた10年後には、「あと10年いけるかも」と思っているかもしれません(笑)。
――そうですね。
原田:
しかも昔はできなかったことが、ちゃんとできるようになってきたりするんです。若い方たちには、あまり焦らないでほしいと思います。もちろん、そのときそのときを一生懸命に過ごしていただいて。そうやっていると、絶対に楽しいことが増えていきますから。一遍にやろうと思わなくていいですよ。入口ってそんなに広いものじゃないので。
「私、いま結構楽しいんです」
――入口ですか?
原田:
はい。人生で通っていく入口です。いろんなものを全部持ったままでは通れないんです。だから、いま通れるだけの荷物を持っていけばいい。また次の入り口を見つけたら、また少しずつ持っていく。何かを一遍にやろうとすると、時間がない!と思って行き詰ってしまいますが、「今はこれ」とその都度、一生懸命にやればいいんです。
――とても素敵なアドバイスです。
原田:
乗馬もね、私、本当に楽しくて。乗馬って、女性も男性も年齢差も関係ないんです。競技大会には種目ごとにエントリーしますが、たとえば私と小学生とが同じ種目で競い合うことができるんです。
――そうなんですね!
原田:以前、大会で4位を取ったことがあるんですけど、隣の3位の子は小学生の男の子でした。ちょっと悔しかったですね。
――その悔しいという気持ちも、いいですね!
原田:
いま60代ですけど、若い頃は自分が60歳をすぎて、いろんなことを前に「楽しい」と思えるなんて考えていませんでした。でも私、いま結構楽しいんです。
<取材・文・撮影/望月ふみ>
映画『MIRRORLIAR FILMS Season8』は1月16日(金)より公開
(C) 2024 MIRRORLIAR FILMS PROJECT
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi
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