パリ、コンコルド広場。ルイ15世の命により18世紀に建設され、フランス革命の動乱を見つめてきたこの広場の一角に、ひとつの「歴史的建造物」が静かに、しかし鮮烈な色彩を放って鎮座している。
【画像】色鮮やかなBMW 3.0 CSLアートカーが、静謐な古典主義建築の一角で異彩を放つ(写真9点)
オテル・ド・ラ・マリーヌ(Hôtel de la Marine)。かつての王室家具保管所であり、革命後は長くフランス海軍省の本部として機能してきたこの館の中庭(クール・ドヌール)が、今回の舞台だ。威厳ある石造りの回廊に囲まれた空間に置かれているのは、1975年製のBMW 3.0 CSL。そう、アレクサンダー・カルダーの手による、記念すべき最初の「BMWアートカー」である。
本展示は、来る1月28日からポルト・ド・ヴェルサイユで開催される世界最高峰のクラシックカー見本市「サロン・レトロモビル(Rétromobile)」の開催50周年、そしてBMWアートカーの誕生50周年という、二つの半世紀を祝うためのプレイベントとして企画されたものだ。
それにしても、この光景はどうだ。啓蒙時代の合理精神を象徴するジャック=アンジュ・ガブリエルの建築と、20世紀のキネティック・アートの巨匠カルダーによる原色のカラーリング。3.0 CSL特有の攻撃的なエアロダイナミクス・パーツすらキャンバスの一部として取り込んだその姿は、50年の時を経てもなお前衛的であり、冬のパリの曇天を切り裂くようなエネルギーに満ちている。
このプロジェクトの起源は、フランス人競売人でありジェントルマンドライバーでもあったエルベ・プーランの夢想にある。「高速で移動する物体に、現代アーティストの絵画を施したい」。その荒唐無稽とも言えるアイデアは、当時若きジャン・トッドの仲介によってBMWモータースポーツを動かした。プーラン自身がステアリングを握り、ル・マン24時間レースという極限の状況下でアートを走らせる。カルダーが描いたのは単なる装飾ではない。速度と色彩の融合であり、自動車が工業製品の枠を超え、文化的なコンテクストを獲得した瞬間の証明でもあった。
旧海軍省という、フランスの国家的な記憶装置の中でこの車と対峙することは、極めて象徴的な体験だ。それは自動車趣味という文化が、いまや絵画や建築と同等の「保存すべき遺産」として、フランス文化省の後援のもとに公認されている事実を雄弁に物語っているからだ。
このカルダー・カーの展示は1月26日まで行われ、入場は無料とされている。だが、これはあくまで序章に過ぎない。1月28日から幕を開けるレトロモビル本会場では、この3.0 CSLを含め、ル・マンを駆け抜けた歴代7台のBMWアートカー(フランク・ステラ、ロイ・リキテンスタイン、アンディ・ウォーホル、ジェニー・ホルツァー、ジェフ・クーンズ、ジュリー・メレツ)が一堂に会する特別なセノグラフィーが用意されるという。
半世紀前、ル・マンのストレートを300km/hで駆け抜けた「動く彫刻」は、いま静かにコンコルド広場で次の出番を待っている。レトロモビル50回目の祝祭は、かつてないほどアーティスティックな幕開けを迎えたようだ。
写真・文:櫻井朋成Words and Photography: Tomonari SAKURAI
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