【写真】苦悩する青年として描かれる主人公ハサウェイ・ノア
ガンダムシリーズ横断の特別企画『Call of Hathaway』が昨年12月5日に発表され、映画「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女」1月30日(金)の公開に先駆けてハサウェイ関連のさまざまな企画が展開されることが分かった。映画第1章のTVアニメ放送や、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」第1章・「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」などの作品が劇場上映されるなど、2026年1月は“ハサウェイ祭り”になりそうだ。そこでWEBザテレビジョンでは注目の映画「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女」をより楽しむための考察記事をお届けする。
■富野由悠季監督が「ガンダム」で描く地球の叫び
「機動戦士ガンダム」の生みの親である富野由悠季監督は、そのキャリアを通じて、単なるロボットアニメの枠を超え、戦争や人間ドラマの中に鋭い社会批評を織り込んできた。その中でも一貫して描かれ続けてきたテーマの一つが、「地球の環境破壊」だ。特にその思想が色濃く反映されていると感じるのが、「機動戦士ガンダム」「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」「Gのレコンギスタ」の4作品だと言える。
1月30日(金)からは村瀬修功監督が手掛ける「閃光のハサウェイ」シリーズ第2章「キルケーの魔女」が劇場公開されることから、ここで富野監督が描き出した環境問題への警鐘を紐解いてみたい。
■「機動戦士ガンダム」:宇宙移民の背景にある地球の疲弊
全ての始まりである「機動戦士ガンダム」(1979年)の世界、宇宙世紀0079年。その冒頭、物語は「増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、すでに半世紀が過ぎていた」というナレーションで幕を開ける。この宇宙移民の根本的な原因こそ、地球の環境問題だった。爆発的な人口増加は食糧問題やエネルギー問題、そして深刻な環境汚染を引き起こし、人類はもはや地球だけで生きることが困難になっていたのだ。
しかし、全ての人類が平等に宇宙へ出たわけではない。地球連邦政府の高級官僚や富裕層といった特権階級は地球に残り続け、地球環境を管理するという名目のもと、地球での暮らしを独占する。
この地球に残る者(アースノイド)と、宇宙へ追いやられた移民者(スペースノイド)との間に生まれた差別と確執が、サイド3によるジオン独立戦争(一年戦争)へと繋がる大きな要因となった。富野監督は、環境問題が社会の歪みにまでなり、やがて戦争の引き金になるという構図をシリーズの原点ですでに提示していた。
■「逆襲のシャア」:地球を汚染し続ける人類への鉄槌
宇宙世紀0096年を舞台にした「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」(1988年)では、地球の環境問題はより深刻化している。前時代(宇宙世紀0087年)の「機動戦士Zガンダム」(1985年)ではダカールすら砂漠に呑み込まれつつあると説明され、地球の砂漠化はとどまることを知らない状況となっている。
そしてシャア・アズナブルは、地球に固執し、その環境を汚染し続ける人類に絶望する。彼は「地球がもたんときが来ているのだ!」と叫び、小惑星アクシズを地球に落下させる「地球寒冷化作戦」を実行に移す。これは、地球を一度人間が住めない環境にすることで強制的に人類を宇宙へ上がらせ、地球を再生させようという、矛盾も内包するあまりにも過激な思想だった。
「逆襲のシャア」におけるシャアの真の目的は宿敵アムロ・レイとの決着。寒冷化作戦は全人類を宇宙に上げ、人類の覚醒を早めるという口上でもあるが、地球が汚染される有様を長く憂いていたことは嘘ではないだろう。
シャアの「地球は人類のエゴ全部を飲み込めやしない」という言葉は、地球の限界を無視して豊かさを追求し続ける現代社会への痛烈な批判とも言える。対峙するアムロは人類の可能性を信じてシャアの暴挙を止めようとするが、そこには単純な善悪二元論では割り切れない、地球と人類の未来をめぐる深刻な問いかけが横たわっていた。
■「閃光のハサウェイ」:受け継がれるシャアの思想と環境テロリズム
宇宙世紀0093年を舞台にした「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」(原作小説1989年)は、「逆襲のシャア」から12年後、シャアの思想がある種の正義として受け継がれた世界を描く。主人公ハサウェイ・ノアは、一年戦争の英雄ブライト・ノアの息子でありながら、反地球連邦政府運動マフティーのリーダーとして、地球に居座る特権階級を粛清するための武力抵抗に身を投じる。
マフティーの目的は、地球の自然環境の保全を名目に、一部の特権階級のみが地球に居住することを許す現行の宇宙移民法を撤廃させ、全人類を宇宙に移民させることだった。シャアの思想に一部影響を受けたハサウェイは、連邦政府高官の暗殺という直接的な暴力行為によって、地球の汚染を加速させ、地球を私物化する連邦政府に抵抗する。
ここで富野監督は、環境問題が単なる思想の対立に留まらず、具体的な暴力とテロリズムにまで発展しうるという、より現実的で危険な未来像を突きつけている。
■「Gのレコンギスタ」:打ち捨てられた月面のメガソーラー
宇宙世紀の終焉から1000年以上が経過したリギルド・センチュリーを舞台とする「Gのレコンギスタ」(2014年)。この時代、人類は過去の宇宙戦争の歴史を教訓とし、地球環境の再生と維持を最優先事項としている。作中ではちらりとだが、広大な月面に打ち捨てられ、負の遺物となったメガソーラーを見止めることができる。今まさに環境問題となり、廃棄時のことが考えられていないメガソーラーの跡といった光景だ。
リギルド・センチュリーでは、科学技術の過度な発展を禁じ、地球と宇宙を結ぶ軌道エレベーター“キャピタル・タワー”は、宇宙からもたらされるエネルギー源“フォトン・バッテリー”を供給する神聖な場所とされ、その資源は厳しく管理されている。しかし、一勢力によるエネルギー供給の独占は新たな権力構造と争いの火種を生み出す。これも現在の化石燃料、レアメタルの寡占的な供給を想起させるものだ。
旧時代の過ちを繰り返さないために厳しい掟(タブー)を設けたにもかかわらず、リギルド・センチュリーの人類は再び技術への過信や領土的野心から争いを始めてしまう。富野監督は、環境保護という大義名分が、時として新たな支配や紛争の口実にもなりうるという皮肉な現実を描いているように思わせる。しかし、物語は若い世代がその過ちに気づき、新たな道を模索する姿を描くことで、未来への一筋の希望も示唆している。
■富野監督作品が問い続ける「地球と人類の未来」
「機動戦士ガンダム」から「Gのレコンギスタ」に至る4つの作品を通して、富野監督が描く環境問題は、その時代背景を反映しながら、より深く、より多角的に進化してきた。地球の疲弊という背景設定から、過激な思想による粛清、武力による抵抗、そして未来の教訓と新たな対立の構図まで、富野監督は一貫して現代に警鐘を鳴らし続けている。
これらの作品が投げかける「地球と人類はどうあるべきか」という問いは、気候変動や資源枯渇といった問題に直面する現代社会に生きる我々にとって、アニメというフィクションの枠を超えた、極めて重要な示唆を与えてくれている。
◆文=鈴木康道
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