’25年末に始まり、すでに2400人以上もの死者が報告されているイランの反政府デモ。この事態に対しトランプ大統領はイラン政府を強く非難、軍事介入の可能性も否定しなかった。ガザやウクライナへの和平提案、マドゥロ大統領の拘束、そして中台問題と多方面に介入するトランプ大統領。
信州大学特任教授の山口真由氏は「トランプ大統領の一見バラバラに見える介入は、正義ではなく“自国に得かどうか”だけで世界を切り分ける発想に基づいている」と指摘する。(以下、山口氏の寄稿)
世界は戦国時代に突入か
犬、猿、雉を連れて“モモタロー”は鬼を退治し、“キンタロー”は熊、鹿、猪などと遊んでいた。一方で、“ドンロー”主義を掲げるトランプ大統領は、お伴だったはずの欧州も日本も振り捨てて、中露という鬼ヶ島と戦おうとしている。いや違う、中露と勢力圏を分け合おうとしているのだ。
南北アメリカ大陸を自らのテリトリーとして、そこから欧州の影響力を締め出した19世紀のモンロー主義。これを現代風にアレンジしたドンロー主義は、西半球から中露を締め出す外交政策と一般的には説明される。実際、マドゥロ大統領の拘束は、地理的には自らの裏庭に存在するのに、ロシアと同盟を結び、中国に石油を輸出するベネズエラへの制裁なので、ドンロー主義から説明できる。ところが、今度はデモに苛烈な制裁を加えるイランへの介入を示唆するトランプ大統領。地理的に離れた中東への関心はドンロー主義からは解き明かしにくい。考えてみれば、就任以降ガザやウクライナへの和平提案を含め、あっちこっちでランダムに戦線を拡大しているかに見えるトランプ大統領の行動に、果たして外交戦略としての一貫性はあるのか。
トランプ大統領が描くパワーゲームの遠因
いまだにそのパワーゲームの全体像が見えにくい遠因は、おそらくトランプ大統領の“勢力圏”が地政学的な距離のみならず、資源の存在その他の条件によっても定められているからだろう。そういう意味で南北アメリカ大陸のみならず、産油国のイランにも本質的な関心がありそうだ。逆に、それ以外は単なる交渉材料かもしれない。例えば、仲介に乗り出しているはずのウクライナだが、南米などアメリカにとってより重要な地域から退くのと引き換えに、将来的にはロシアのテリトリーへの組み込みを黙認する可能性もある。もしウクライナが納得しないなら、そこは欧州に頼ってください、とばかりに。
そのパラレルが台湾にも当てはまるとしたら……。すなわち、中国の支配圏に置くことを前提に、待ったをかけたいなら日中で協議するなり、「力による解決」に及ぶなり、どうぞご勝手に、ということなら。それこそ、我々の最大の懸念が現実味を帯びてくる。
一つ言えるのは、正義の味方のモモタローが必ず鬼を倒すというおとぎ話の時代はどうやら終わりを告げたということだ。いまやアメリカは正義の唯一の供給源としての立場を降り、中露を含むいくつかの大国がそれぞれボスとなって勢力圏を分け合う。いわば日本のかつての戦国時代に世界は逆戻りしていっている。
この群雄割拠の現実に即応せねばならない。それができない国は“浦島タロー”状態になってしまうのだろう。
<文/山口真由>
【山口真由】
1983年、北海道生まれ。’06年、大学卒業後に財務省入省。法律事務所勤務を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。帰国後、東京大学大学院博士課程を修了し、’21年、信州大学特任教授に就任
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