【写真】第1章で話題となった市街地戦のリアルな演出
ガンダムシリーズ横断の特別企画『Call of Hathaway』が昨年12月5日に発表され、映画「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女」1月30日(金)の公開に先駆けてハサウェイ関連のさまざまな企画が展開されることが分かった。映画第1章のTVアニメ放送や、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」第1章、「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」などの作品が劇場上映されるなど、2026年1月は“ハサウェイ祭り”になりそうだ。そこでWEBザテレビジョンでは注目の映画「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女」をより楽しむための考察記事をお届けする。
■30年前に現代を予見した富野由悠季監督の警告書
「ガンダム」と聞けば、多くの人は少年たちがロボットに乗り込み、成長していく物語を思い浮かべるかもしれない。しかし、その「ガンダム」の生みの親である富野由悠季監督が紡ぐ世界は、常に現代社会が抱える矛盾や葛藤を鋭く映し出す鏡でもあった。特に、1989年に小説として発表され、2021年に村瀬修功監督で劇場アニメ化された「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」は、その社会批評性が極めて色濃い作品であり、今の大人と、これからの社会を作る年齢層にこそ見てほしい重厚なテーマを内包している。1月30日(金)に第2章「閃光のハサウェイ キルケーの魔女」が劇場公開されるにあたり、作品で描かれる“リアル”を考える。
■地球を巡る民族紛争とマフティーの誕生
本作で描かれるのは、地球に住む特権階級と宇宙に追いやられた人々(スペースノイド)との間に横たわる根深い対立、そしてそこから生まれる非民主的な武力行使による反政府運動だ。これは単なるSFアニメの枠を超え、現代社会が抱える格差や紛争、そして正義の危うさを予見していたかのようなリアリティーを感じさせる。
「閃光のハサウェイ」の世界では、地球環境の再生を理由に、地球連邦政府の高官などの特権階級、インフラを担う一部の人々のみが地球への居住を許されている。大多数の人々は宇宙での生活を強いられ、違法居住者を捉えては強制的に宇宙移民をさせる“人狩り”も行われており、地球と宇宙、そこで暮らす両者の間には埋めがたい社会的格差が生まれている。
これは居住地による区別というよりも、地球という「聖地」を独占する者と、そこから排除された者との間の「民族紛争」に近い構造のようだ。
この不平等な社会に対し、武力による抵抗を試みるのが、主人公ハサウェイ・ノアが率いる反地球連邦政府運動マフティーだ。マフティーの目的は、腐敗した特権階級を粛清し、地球環境を真に再生させるという過激なものだった。
■社会を正すという大義のための暴力という矛盾
マフティーの掲げる「地球の再生」という大義は、一面では正しく響くかもしれない。しかし、その手段は“大義の名の下に行う武力行使”である。こうして富野監督は、ハサウェイを単純な正義のヒーローとしては描かなかった。
ハサウェイは地球連邦軍の英雄ブライト・ノアの息子という恵まれた出自でありながら、かつて地球寒冷化作戦を実行したシャア・アズナブルの思想に一部影響を受け、体制への反逆者となる道を選ぶ。その内面では、自らの行為がもたらす罪のない人たちの犠牲への葛藤や、武力行使で本当に世界を変えられるのか、という苦悩が渦巻いている。
劇中では、マフティーの攻撃によって無関係の民間人が犠牲になる様も容赦なく描かれる。大義名分のもとに行われる武力行使は、新たな憎しみと悲劇しか生まない。この作品は、目的が正しければ手段は正当化されるのか、という普遍的で答えの出ない問いを視聴者に突きつける。
■なぜ今「ハサウェイ」を見るべきなのか、1989年の作品が予見した21世紀の現代社会
原作小説が発表されたのは1989年から1990年。米ソ冷戦が終結に向かい、世界が新たな秩序を模索していた時代だ。しかし、富野監督がこのときに描いた「格差の拡大」「特権階級の腐敗」「大義を掲げた武力抵抗」という構図は、驚くほど現代社会とリンクしている。
今我々が生きる時代はグローバル化が進む一方で富の偏在は深刻化し、民族や宗教、あるいは経済的な立場の違いによる対立は世界各地で絶えない。
「閃光のハサウェイ」は約30年も前に、社会の歪みが武力衝突を生み出すというメカニズムを見抜き、現代の我々が直面するだろう危機を予見していたかのようである。単なる勧善懲悪の物語ではない。明確な答えが提示されるわけでもなく、むしろ鑑賞後に重い問いを心に残す作品だ。しかし、この複雑で割り切れない物語だからこそ、社会の理不尽さや矛盾と向き合わざるを得ない大人、そしてこれからの社会を作る世代の心に深く響く。
ハサウェイの選んだ道は正しかったのか。彼の苦悩に視聴者は何を思うのか。この作品を通じて富野監督の意図を見つめ直すことは、混迷を深める現代社会において極めて価値のある体験となるはずだ。
◆文=鈴木康道
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