2026年F1の行方は? ホンダとレッドブルは「真価が問われる」 浅木泰昭が期待する組織内の「突然変異」

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2026年F1の行方は? ホンダとレッドブルは「真価が問われる」 浅木泰昭が期待する組織内の「突然変異」

1月11日(日) 6:50

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元ホンダ・浅木泰昭 連載

「F1解説・アサキの視点」第5回 後編

2018年にトロロッソ(現レーシングブルズ)と組んで始まったレッドブル・グループとホンダのパートナーシップ。翌2019年、ホンダはレッドブルにもパワーユニット(PU)の供給を開始し、その後ホンダが突如2021年シーズン限りでのF1撤退を表明するなど紆余曲折があったが、ホンダとレッドブルは2025年シーズンまでともに戦い続け、大きな成功を収めた。

そして、2026年からホンダとレッドブルは袂(たもと)を分かち、新たな挑戦をスタートする。レッドブル・ホンダを成功に導いた立役者である元ホンダ技術者の浅木泰昭氏に8年間にわたるパートナーシップを振り返ってもらうとともに、それぞれの未来について語ってもらった。

2023年には全22戦中21勝という偉業を達成したレッドブル・ホンダ photo by Sakurai Atsuo

2023年には全22戦中21勝という偉業を達成したレッドブル・ホンダ photo by Sakurai Atsuo





【築き上げた勝つための信頼関係】レッドブルとはパートナーシップを組んで1年くらいすると、勝つためにお互いが全力を尽くすという信頼関係が築けていました。レッドブルからは「こういうことをやりたいので助けてほしい」という話もありましたし、逆にホンダからは「PUでこういうことをすれば車体側の性能向上ができるんじゃないか」と提案したこともありました。

たとえばホンダからは「油温をもっと上げることができる」と提案したことがありました。油温をできるだけ高い温度でオペレーションできれば、ヒートエクスチェンジャー(熱交換器)を小さくすることができ、車体側の空力性能を向上することに役立つだろうと考えました。

ホンダは油温を上げてもPUの馬力と耐久性が落ちない開発をしていました。でも、耐久性が落ちて多少はPUの馬力を落とさざるを得ない場面があったとしても、車体の空力性能が上がってトータルで競争力が上がればよいのです。私はレッドブル・ホンダというパッケージのなかでラップタイムが上がる方策をつねに取るように指示を出してきました。

それはレッドブル側も一緒だったと思います。レッドブル・ホンダとして速くなるために何をすればいいのかという考えのもとで、両陣営が勝つことだけに集中して仕事に取り組むことができていました。

【真価が問われる2026年の戦い】レッドブルとホンダはお互いを認め合い、最高のパートナーシップを築き上げることができましたが、2026年からホンダはアストンマーティンと、レッドブルはフォードとそれぞれ組み、新しい挑戦を始めます。

レッドブルはフォードと提携して初めて自社製のPUを作ってきます。技術者としてどんなPUを開発してくるのか興味がありますし、2026年はチーフテクニカルオフィサー(最高技術責任者)を務めたエイドリアン・ニューウェイさんがチームを去ったあとの初めて新型マシンが登場します。

ニューウェイさんのレッドブル離脱は2024年5月に発表され、2025年3月からアストンマーティンに加入していますが、これまでのレッドブルのマシンはニューウェイさんが設計したものをベースに進化させたものです。

新しいマシンレギュレーションが導入される2026年には、ニューウェイさんがいっさい関わっていないマシンが初めて投入されます。ニューウェイさんがいなくなった影響はどれほどのものなのか。2026年にはっきりと出ると思いますので、その点を注目しています。

ホンダにもまったく同じことが言えます。アストンマーティンと組んで新たなチャレンジを始める後輩たちには当然頑張ってほしいですが、浅木というリーダーがいなくなったあとのホンダのPUはどうなるのか、というのは見どころだと思います。

「浅木はうぬぼれている」と言われるかもしれませんが、いくら組織のなかで丁寧に後継者を育てるというやり方をしても、世界のトップを狙える人材やリーダーが必ずしも出てくるとは限らないのです。それは、どの分野や業界でも共通していると思います。

マックス・フェルスタッペン選手やニューウェイさんの後継者が簡単に出てこないのと一緒だと思います。飛び抜けた才能やセンスを持った人物が登場するのは、突然変異みたいなものだと私は考えています。

そういう意味で言うと、技術者vs技術者のガチンコの開発競争が行なわれるF1のようなものをやらないと人材は育ちませんし、突然変異が起きにくい。

誰もが世界一を目指して必死に戦う究極のレースで、ニューウェイさんやフェルスタッペン選手と一緒に仕事をしたり、浅木の背中を見たりした何百人かのなかから才能やセンスのある人間が突然変異のような形で浮かび上がってきて、世の中を変える画期的な商品を生み出したり、世界一になるという快挙を達成したりする、というのが私の仮説です。

それがF1で技術者を育てるということで、だからホンダはF1を続けるべきだと私は思っているのです。

とにかく2026年のレッドブルとホンダは真価を問われるシーズンになると思います。リーダーがいなくなっても組織がしっかりとしていれば問題がないという説もありますが、実際のところはどうなのか。そこは大きな見どころだと思っています。

【技術者の魂を見せてほしい】私がリーダーだった時は、ホンダはどん底にいて、そこから這い上がることが使命でした。アストンマーティン・ホンダに関しては、車体はレッドブルから移籍したニューウェイさんが手がけますし、ホンダはここ数年、つねにタイトル争いに加わってきました。過去の実績を見れば、いきなりトップグループを走ってもおかしくない。

アストンマーティン・ホンダが優勝することができるのであれば、ホンダが彼らを勝たせてあげたと言ってもいいぐらいの高性能のPUを作ったということになると思います。そうなったら、ホンダの後輩たちには自分たちは能力があったと胸を張ってほしい。

2026年シーズンはマシンのレギュレーションが変わり、すべてのチームがゼロからのスタートです。前回、PUの新レギュレーションが導入された2014年はメルセデスがライバルを圧倒しましたが、その再現があるかもしれません。もしかしたらホンダがマクラーレンと組んでいた頃(2015〜2017年)のようになってしまう可能性もゼロではありません。

成功するか失敗するか、確率は半分半分だと思いますが、だから面白いんですよね。仮にホンダがどん底に落ちたとしても、そこから這い上がる技術者の魂を見せてほしい。それに本質的な意味では、どん底から這い上がる時のほうが人は育ちます。それもF1の醍醐味のひとつだと私は言いたいですね。

第6回につづく

<プロフィール>

浅木泰昭あさき・やすあき /1958年、広島県生まれ。1981年に本田技術研究所に入社し、第2期ホンダF1、初代オデッセイ、アコード、N-BOXなどの開発に携わる。2017年から第4期ホンダF1に復帰し、2021年までパワーユニット開発の陣頭指揮を執る。第4期活動の最終年となった2021年シーズン、ホンダは30年ぶりのタイトルを獲得。2023年春、ホンダを定年退職。現在は動画配信サービス「DAZN」でF1解説を務める。初の著書『危機を乗り越える力 ホンダF1を世界一に導いた技術者のどん底からの挑戦』(集英社インターナショナル)が好評発売中。

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