パリ郊外に現れた空の移動回廊|Câble C1が示す立体的交通ネットワークとその課題

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パリ郊外に現れた空の移動回廊|Câble C1が示す立体的交通ネットワークとその課題

1月7日(水) 12:11

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2025年12月13日、イル=ド=フランス地域圏初、そして全長約4.5kmでヨーロッパ最長の都市型ロープウェイ Câble C1 が開業した。メトロ8号線終点クリテイユ・ポワント・デュ・ラックから、ヴァル=ド=マルヌ南部の住宅地を結び、5つの駅で日常の通勤・通学を支える新たな公共交通インフラとしてスタートした。

【画像】観光ではなく、都市部の移動手段としてのロープウェイ(写真18点)

都市部の交通といえば地下鉄やバス、あるいはトラムを思い浮かべるが、このロープウェイはあえて「空」を移動の層として活用するという発想である。地上には高速道路とTGVの線路、地下にはメトロ、そしてその上空には航空機の動線が広がる複合立体交通の中に、Câble C1は静かに組み込まれている。

このプロジェクトを設計・建設したのは、長年ロープウェイの設計・製造・施工実績を有するオーストリアのDoppelmayr(ドッペルマイヤー)グループのフランス法人である。世界的なロープウェイシステムのリーダー企業であり、都市交通を含む多数の事例を手がけてきた企業が、この都市型ケーブル交通の実装を担った。

始発駅のあるクリテイユ周辺は、1970〜80年代に計画的に整備された郊外ベッドタウンである。かつてのフランソワ・ミッテラン政権期に開発が進められ、通りの名も「アヴニュー・フランソワ・ミッテラン」と名付けられている。その沿道に掲げられた彼の肖像は、この地域が共和国的公共性と都市計画の理念の下で築かれてきたことを物語る象徴でもある。歴史的景観が乏しいこのエリアでは、空中のインフラが驚くほど日常風景に溶け込む。

現地で搭乗してみると、Câble C1は都市交通としての使い勝手を最優先に設計されていることがわかる。各キャビンは10席の座席のみを備え、全員着席が前提だ。乳母車や車椅子は1キャビンにつき1台まで対応可能で、安全性が重視されている。停車せずにゆっくりと進む方式のため、乗降はスムーズで、日常の移動として受け入れられやすい仕組みだ。

ロープウェイは、パリ中心部から延びる既存の都市交通との接続点として機能する一方で、地域内の移動格差を是正する役割も担う。従来ならバスで40分以上かかる区間を、Câble C1なら最短18分で結ぶなど、時間効率の改善にも貢献している。

しかしながら、この路線が通る地域には社会的・治安面での課題もある。伝統的な都市基盤を持つパリ中心部とは異なり、郊外のこの一帯には経済的困難や犯罪が比較的多い地区も含まれる。フランスでは毎年恒例となっている年越し期間の車両放火問題が、2025〜26年の大晦日にも大きな社会問題となり、1173台もの車両放火が報告され、505名が逮捕、403名が拘束されたことが伝えられている。このような社会的背景は、ロープウェイという新しい公共交通が今後どのように地域社会に受け入れられ、安全に運用されていくのかという点に、やや不安と課題を残す。交通インフラの整備は進んだ一方で、利用環境や地域の安全文化がどのように育っていくのかは、まだ見えてこない部分がある。

空中を進むキャビンから見下ろすパリ郊外の風景は、地上の交通と異なる視点を与えてくれる。メトロ、バス、高速道路、鉄道、航空機の動線が三次元で重なり合うなかで、Câble C1は新たな移動の”層”として成立しつつある。その存在は、単なる交通インフラではなく、都市のレイヤー化した交通ネットワークの未来を象徴している。


写真・文:櫻井朋成Photography and Words: Tomonari SAKURAI
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