この記事は「F50はF40を凌駕できるのか?|フェラーリの2強スペチアーレを徹底比較【前編】」の続きです。
【画像】それぞれ独特な魅力を放つ、F40とF50のエンジンルーム(写真4点)
F40に試乗する
まずはF40から試乗する。これは2010年にイギリスにやってきた1台で、1992年9月に新車としてイタリア国内に納車されると、すぐにミケロットへ送られて、調整可能なスポーツサスペンション、LM仕様のブレーキ、軽量なボンネット、出力アップ、スポーツエグゾースト、レース用ハーネス、OZ製レース用ホイールなどのアップグレードを施された。こうした要素は2台の違いとは無関係だが、それでF40が強化され、それぞれの個性が強調されているのは間違いない。
実質、288GTOと同じチューブラーシャシーを、カーボンとケブラー製の11枚のパネルで覆っている。塗装が薄いため、その編み目が透けて見えるが、それがまた、市販車として史上初めて200mphに達した凄みを視覚的に訴えてくる。車内も、外観やアンダーボディと同様、洗練さは皆無で、これ以上ないほどベーシックだ。スライド式のサイドウィンドウに、ひもを引いて開くドア。ペダルには大きなドリルホールがあり、ドアの内側はカーボンがむき出しで、アシスト類は一切なく、7個ある計器類は昔ながらのヴェリア製だ。シートが押さえるのは胴体ではなく肩で、軽量化の形跡があちこちに見て取れる。
後方に向けて高くなるハードルのようなシルを乗り越えて腰を下ろす。完全なレース用ハーネスだから、居心地のよさは求められない。インテリアはかなりスパルタンなので、すべてを把握するのに時間はかからず、発進する用意がととのった。さっそくフラットプレーンV8のガトリング砲のような轟音が背後で忙しく響き始める。アイドリングから激しいが、いくぶん熱が入ると落ち着いた。
動き出してみると、驚くほど従順だ。ギアシフトも、いったん温まれば、反抗的というより協力的になってくる。この時代のフェラーリはどれもそうだが、シフト操作には力がいるものの、リズムに乗ってしまえば気持ちよく動く。この日は乾燥して温かく、直線の多いルートだったが、ラウンドアバウトが点在していたので、いい意味でも悪い意味でも、F40の本領のほんの一部しか味わえなかった。おかげで、ふらつきやすいという評判を心配する必要はなかったので、我を忘れて興奮にひたり、路面に張り付く硬い乗り心地を楽しめた。直線を疾走しながら、ずっしりしたスロットルを軽くあおって、ターボが回り始める3500rpmまで上げてみる。
その衝撃!まさに麻薬だ。ターボが回り始めたとたん、 335/35ZR17のタイヤが悲鳴を上げ、押し寄せるトルクの大波に乗って、地平線に向かって放り出されるように突進する。とはいえ、軽い車重と470bhpの最高出力を考えれば、パワーデリバリーは伝説で聞くほどの(とりわけ濡れた路面での)獰猛さにはほど遠い。パワーウィンドウは比較的狭く、7000rpmに届く頃には、音と光の壮麗なショーにも陰りが見え始める。
ノンアシストの滑らかで非常にダイレクトなステアリングや、サーボなしの4ポットブレーキ、重いスロットルペダルは、生き生きしてくれば、剃刀のようにシャープなハンドリングを引き立ててくれるが、それはペースを上げたときだけで、のんびりしたペースでは生命力がまったく感じられない。また、F40は思っていたほど騒々しくない。乗り心地は硬く、地面に張り付くようなライドハイトなので、悪路ではガシャン、ガタガタと鳴るものの、叫ぶというより少し声を大きくする程度で楽に会話を続けられる。いずれにしても、おしゃべりをしたいとは思わないだろう。2.9リッター、DOHCエンジンの猛烈なパワーと凶暴なターボを操ることができ、甲高い回転音で夢見心地になれるのだから。
洗練されたF50
どれを取っても、いい古されたことばかりだが、F40がほぼ飼い慣らされた野獣だとすれば、F50は洗練そのものだった。至るところにカーボンの織り目が見える点は同じだが、F50ではデザイン上の装飾であって、ロッソのペイントの層を減らして重量を削った結果ではない。インテリアも大人びて、キルティング加工のヘッドライニングが施され、ありがたいことに、ダッシュボード中央にエアコンのつまみもある。
フェラーリは、F40は実験室ではなくマシンだと胸を張っていたが、F50では明らかに考え直したのだろう。カーボン製タブを採用し、ポストターボ時代の最初のF1エンジンから派生したV12を搭載して、6段のトランスアクスルと組み合わせたが、どちらも洗練性は上辺だけに留まらない。エンジンのルーツがF1にあることは、まるでそれだけが取り柄というように、当時から大きく取り上げられ、今ではさらに強調されている。しかし、最高回転数は60%で、排気量が2リッター多く、ニューマチックバルブでもないから、実際はそれほど似ていないのだ。それでも驚異的なエンジンであることに変わりはない。
試乗したF50は、1996年3月にイギリスのディーラー、マラネロ・エガムに納車された。洒落たデジタルディスプレイによれば走行距離は1万5000マイル足らずだ(単位がないのでキロメートルの可能性もある)。ディスプレイのモダンさにごまかされてはいけない。ほかの部分は素晴らしくアナログなのだ。窓は巻き上げ式だが、ドアの開閉機構をはじめ、F40よりたしかにステップアップしている。スターターはF40と同じプッシュ式で、ドライビングポジションも同じように左から右へやや角度が付いており、突き出たノーズの先端に向かう。V12はアイドリングの時点からF40のV8ほど騒がしくない。F50はすべてにおいて、F40より軽やかで敏感で、即座に反応する印象だ。とくに低速域ではっきり感じる。
6段ギアボックスは、サスペンションの支持に使われており(これはまさにモータースポーツの技術)、紛れもなくフェラーリらしい。だが、ドッグレッグパターンではなく通常のHパターンなのでユーザーフレンドリーだし、動きがいっそうクリーンかつスムーズで、中央に向けて押すバネの力も強い(ほんの少し強すぎる気もするが)。クラッチの動きはやや軽く、シフトもクラッチも、重すぎてドライビングやその楽しさから注意がそれるようなことはない。左足の運動になっていたとようやく気づいたのは現代のハッチバックに乗り換えてからで、油圧を失ったのかと思うほどクラッチペダルが軽く感じられた。
F40同様、ノンアシストで小径のステアリングも実に素晴らしいが、エンジンも独特のやり方で夢のような時間を作り出す。F40のV8と違って、低回転域の力強いトルクやドラマチックな派手さはないが、激しくも安定して加速していく様は、第二次世界大戦中の空襲警報で使われた手回しサイレンの音を思わせる。スロットルペダルを踏みつけるたびに、心臓が口から飛び出すような衝撃に襲われるわけではない。こちらは品格を感じさせるエンジンで、F40では届かなかった回転域に達すると、いよいよ本領を発揮する。高回転域でのサウンドは神々しいばかりで、この洗練された音に比べれば、F40のエンジン音が野卑に思えるほどだ。
同様にハンドリングも穏やかで、対してF40は我が強かった。バランスも完璧、乗り心地もしなやか。F40では重さにあらがう力を必要としたあらゆる操作について、F50は従順で、積極性すら感じられる。車重の増加は走行しながら感じるし、それが刺激を鈍らせているのは間違いないが、おかげで、スーパーカーにしては車内空間に余裕があるし、低い位置にあるシートは快適で、上半身全体を側面からしっかり支えてくれる。このレベルのパフォーマンスを備えながら、これほどドライブしやすい車も、簡単にペースアップできる車も、ほかにはない。それこそがF50のスーパーパワーなのだ。
この車なら、フランス横断ドライブも悠々とできるだろう。いや、海峡の向こうの道路状況は素晴らしいから、どちらの車でも可能かもしれない。ただし、一方の車で目的地に到着したら、胸はいっぱいだが、肉体も精神も疲れ果てて倒れ込む羽目になる。対してもう1台なら、車から降りたその足で、颯爽とカクテルバーへ歩いていけるだろう。
昔から、ジャーナリストとレーシングドライバーはほかの何よりもF40を崇めてきた。その一方でコレクターは、F50市場の残り火に静かに燃料をくべ続け、おかげでその価値は高止まりを続けている。自動車雑誌を読んでいると、F50の需要の高さが不思議に思えるかもしれないが、理由は簡単だ。ジャーナリストやレーシングドライバーが車を体験するのは一度きりだが、オーナーやコレクターは数年、いや数十年も車と人生を共にする。したがって、両者の視点はまったく異なる。一方は即座に味わえる満足感やその瞬間の感情がすべてで、一方はもう少し慎重で現実的なのだ。
そういうわけで、我ながら意外ではあるけれど、常識に反する結論を下そうと思う。F40は、まさに予想どおりの走りをした。筋金入りのスリルには事欠かないし、ターボの回転音とエンジンの咆哮が混ざり合ったゾクゾクするようなカクテルの味は、永遠に忘れられないだろう。だが、F50ほど予想を裏切られた車はない。数あるアナログなスーパーカーの中でも最高のドライバーズカーだ。
この企画にF40も加えると決めたとき、私たちは無意識に、F50に足りないものを浮き彫りにする役割を期待していたように思う。ところがふたを開けてみれば、F50がいかに完成度の高い車であるかを強調する結果となった。あれほどパワフルでエキゾチックなものを、あれほどドライブしやすくフレンドリーな車に仕上げたことは、スーパーカー界における最大級の驚きだ。誕生から30年を経た今、F50は、エンジニアリングの傑作として、あらゆる点でF40を上回るといっても過言ではない。まあ、ルックスだけは別かもしれないが…。
1992年フェラーリF40
エンジン:2936cc、V型8気筒、DOHC、32バルブ、フラットプレーン式クランクシャフト、IHI製ターボチャージャー2基、ウェバー・マレリ製IAWエンジンマネージメント、ミドシップ
最高出力:478bhp/7000rpm最大トルク:58.8kgm/4000rpm
変速機:5段MT、トランスアクスル、後輪駆動ステアリング:ラック&ピニオン
サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピック・ダンパー、アンチロールバー
ブレーキ:ベンチレーテッド式ディスク車重:1100kg最高速度:324km/h0-100km/h:4.1秒
1996年フェラーリF50
エンジン:4699cc、V型12気筒、DOHC、60バルブ、ボッシュ製モトロニック・エンジンマネージメント、ミドシップ
最高出力:520bhp/8500rpm最大トルク:48.0kgm/6500rpm
変速機:6段MT、トランスアクスル、後輪駆動ステアリング:ラック&ピニオン
サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン、インボード式コイルスプリング/ダンパーユニット、プッシュロッド&ロッカーアーム、電子制御式バリアブルダンパー、アンチロールバー
ブレーキ:ベンチレーテッド式ディスク車重:1230kg最高速度:325km/h0-100km/h:3.7秒
編集翻訳:伊東和彦 (Mobi-curators Labo.)原文翻訳:木下 恵
Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.)Translation:Megumi KINOSHITA
Words:James ElliottPhotography:Sam Chick
THANKS TO V Management, v-management.com.
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