年末年始は、親戚や友人との再会や家族の恒例行事が重なる一方で、思わぬトラブルに直面する人もいる。楽しいはずの長期休暇が、忘れ難い思い出となったケースも少なくない。
義実家の布団は落ち着かない
遠山正美さん(仮名・40代)は、年末年始になると毎年のように夫の実家へ帰省している。
「着いた瞬間に、『ああ、帰省したな』って思うんです」
親戚が集まり、義実家で過ごす時間自体はイヤではない。ただ、どうしても“慣れないもの”がひとつだけあった。
「寝具です。これだけは、毎年身構えますね」
自宅ではベッドで眠り、腰痛対策として自分に合ったマットレスを使っている。一方、義実家は昔ながらの畳に敷布団スタイルだ。最初の帰省では、「数日だし大丈夫だろう」と軽く考えていたそうだ。
しかし、横になった瞬間に違和感を覚えた。床の硬さが腰に伝わり、寝返りを打っても体が落ち着かないのだ。
「夜中に何度も目が覚めました。『あ、これはダメだな』って思いました」
感謝しているのに眠れない苦痛
翌朝には腰が痛み、「体がバキバキになっていた」という。それでも義母は「よく眠れた?」とやさしく声をかけてくれる。
「腰が痛いなんて、本当のことは言えませんよね」
それから何年も、同じ状況が続いている。帰省の準備をはじめると、自然と気持ちが重くなるようだ。
「頭のどこかで、『またあの布団か』って考えちゃうんです」
対策として、自分が使っているマットレスをプレゼントしようと考えたこともあった。義父母にもよろこばれ、遠山さん自身も助かるからだ。
「でも夫に相談したら、『たぶん受け取らないと思う』と言われました」
実際に義父母へさりげなく聞いてみると、「うちはこれで十分だから」とやんわり断られてしまった。
「押しつけるのもイヤで、それ以上は言えませんでした」
夜になると、義母は「寒くないようにね」と毛布を多めに用意してくれる。その気遣いが“ありがたい”からこそ言葉にできないと、遠山さんは吐露する。
「布団に横になると、今回も体に合わない感覚がすぐにわかります。『やっぱりダメか』って半分諦めながら寝ています」
帰省のたびに、楽しさと憂鬱さが同時にやってくるそうだ。
88歳の母と迎える2人だけの大晦日
高橋信二さん(仮名・60代)が経験したのは、2年前の年末年始のことだった。当時88歳だった母親は、足が悪く車いすを使い、認知症の診断も受けていたという。
「会話はできるんですけど、同じ話を何度も繰り返す感じでした」
母親は田舎の一軒家でひとり暮らしを続け、週2回のデイサービスと、朝夕のヘルパーの支援で生活していた。
「年末年始だけはヘルパーさんが休みになるので、私が泊まるようにしていました」
大晦日、普段は買い物に興味を示さない母親が、「買い物に行きたい」と言い出したそうだ。
「たぶん、年末の雰囲気を感じたかったんだと思います」
連れて行ったものの、結局何も買わずに帰宅。その後は夕食を済ませ、紅白歌合戦を見ながら過ごしていたという。
「正月だから風呂に入る」と言い出して…
「そのとき、急に『正月だから風呂に入る』って言い出したんです」
普段、入浴は、ヘルパー介助が必要だ。「ひとりでは無理だ」と伝えても、母親は「ひとりで入れる」と引き下がらなかった。
高橋さん自身が入浴介助をすることへの抵抗もあり、母親自身もそれを望んでいないだろうと考え、ひとりで浴室に向かわせた。
「私はテレビを見ながら、風呂の音だけは気にしていました。浴室からは“キュッ、キュッ”とバスタブの中で体を動かす音が聞こえていたんです。だから、『大丈夫』だと思っていました」
しかし、30分経っても母親は出てこない。不安になり、脱衣所から声をかけると……。
「ちょっと手伝って!」
扉を開けると、お湯がほとんど抜けた浴槽の中で、裸のまま震える母親の姿があったという。
「一瞬、頭が真っ白になりましたね」
実家の浴槽は、押すと栓が開き、もう一度押さないと止まらないタイプだった。誤って一度押してしまい、そのままお湯が流れてしまったのだろうと、高橋さんは振り返る。
「凍えるほどの寒さではなかったのが救いでした。そもそもお風呂に入らせるべきじゃなかったし、もっと早く声をかけるべきでした」
高橋さんの母親は、今も元気に田舎での生活を続けている。
「次の大晦日は、同じことを繰り返さないようにしたいですね」
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
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