冬のブローニュの森で開催されている Le Japon en Lumières は、日本文化を紹介するイベントであると同時に、「光」というメディアを用いて日本のイメージを再編集する試みでもある。伝統文化、都市風景、ポップカルチャーといった異なるレイヤーが、一つの園路に沿って連なり、来場者はそれを歩くことで日本像の断片を順に辿っていく。
【画像】光が織りなす作品を通じて、フランスで日本がどのように見られ、どのように楽しまれているのかを可視化する(写真29点)
このイベントの特徴は、文化解説を前面に押し出さない点にある。説明的なパネルや歴史的な文脈よりも、まず視覚体験が置かれ、理解はその後から自然に追いついてくる。鳥居や寺院建築、食、都市、娯楽といった要素は、いずれも”象徴”として抽象化され、ランタンやネオン、映像といった光の装置へと置き換えられている。
会場構成は一方向の鑑賞型ではなく、回遊性を重視した設計だ。園路の曲線や樹木の配置を活かし、視界が一度に開けないよう調整されているため、次の光景は常に少し先に現れる。これは写真撮影においても重要な要素で、被写体と背景の関係が固定されず、歩く速度や立ち位置によって画面構成が変化する。
また、来場者の振る舞いそのものが展示の一部として機能している点も印象的だ。フォトスポットやネオンのブースでは、鑑賞と記録の境界が曖昧になり、光景は「見るもの」であると同時に「写されるもの」へと変わる。スマートフォンを構える行為は、現代における日本文化受容の一側面を象徴しているようにも映る。
フランスの観客にとって、日本はすでに遠い異文化ではない。アニメ、映画、食、観光を通じて断片的に蓄積されたイメージが、このイベントでは一つの夜景として束ねられている。その結果、来場者は「理解しよう」と構えることなく、日本を”体験できる風景”として受け取っている。
写真家の視点から見ると、ここで求められるのは記録性よりも編集感覚だ。すべてを写す必要はなく、どの断片を切り取るかが問われる。光は均質ではなく、強度も色温度もエリアごとに異なる。人工物でありながら自然環境と重なり合うことで、被写体は単なる展示物以上の奥行きを獲得する。
Le Japon en Lumières は、日本文化を忠実に再現する場ではない。むしろ、フランスという場所で、日本がどのように見られ、どのように楽しまれているのかを可視化する空間である。その距離感こそが、このイベントの最も興味深い点だろう。
Le Japon en Lumières
- 会場:パリ16区 ブローニュの森内 ジャルダン・ダクリマタシオン(ダクリマタシオン公園)
- 会期:2025年12月10日〜2026年3月8日
- 開場時間:夜間(18時頃〜)
写真・文:櫻井朋成Photography and Words: Tomonari SAKURAI
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