自然体の魅力で今年もお正月の主役
もはや新年早々の風物詩になりつつある。ジェイソン・ステイサム主演のアクション映画のことだ。24年は『エクスペンダブルズ ニューブラッド』、2025年は『ビーキーパー』、そして今年26年は1月2日から『ワーキングマン』が全国公開される。
年末年始は毎年、家族そろって楽しめるアクション映画がテレビで数多く放送されるので、お正月を迎えるたびに彼の認知度が上がり、今やお茶の間にまで広く浸透した結果だろう。今年も、年末に『エクスペンダブルズ』シリーズ(10~)4作品が、1月に巨大ザメと戦う『MEG ザ・モンスター』シリーズ(18~)が放送される。
新作『ワーキングマン』は、『ビーキーパー』のデビッド・エアー監督と再タッグし、『エクスペンダブルズ』のシルベスター・スタローンが製作&脚本で関わった全米大ヒット作だ。ステイサムが演じるのは建設会社の現場監督で、社長の娘が誘拐されてしまい、人身売買をなりわいとする凶悪なロシアンマフィアに戦いを挑む。
もちろん、ただの肉体労働者ではない。素性は英国海兵隊の元軍人だ。ステイサムが演じるキャラクターは、『ビーキーパー』の主人公がCIAの元エージェントだったように、並外れた身体能力と特殊なスキルを持ち、何度も修羅場をくぐり抜けてきた屈強な男が、今は引退して市井に紛れ込んでいるケースが圧倒的に多い。これは、ライバルであるロック様ことドウェイン・ジョンソンが人間離れした超人的なキャラクターを得意とするのとは対照的だ。
ステイサムは、オリンピック候補まで行った水泳の元飛び込み競技選手。モデルを経て俳優に転じ、ガイ・リッチー監督の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(99)と『スナッチ』(01)で注目され、リュック・ベッソン脚本の『トランスポーター』シリーズ(02、05、08)で人気を得た。格闘家出身ではないため、見た目が筋骨隆々ではなく、アクションや身のこなしも自然体。だから、スパイや殺し屋といった素性を隠して生きる役や、近年はやりの一見ダメおやじなのに実は無敵という “スロブ・ヒーロー”がハマるのだ。
筋肉系スターの最後の生き残り
そう考えると、『エクスペンダブルズ』シリーズの現役の傭兵役というのは、ステイサムにとってはむしろ異色と言っていい。多彩な個性や国籍の寄せ集めチームという設定のおかげで、彼のナチュラルな魅力もしっかり際立っているわけだ。
このシリーズはスタローンが、80~90年代に一時代を築いた筋肉系のアクション主演スターたちを復活共演させて大ヒットした。メンバーであるアーノルド・シュワルツェネッガー、ドルフ・ラングレン、ジェット・リー、ジャンクロード・バン・ダム、ウェズリー・スナイプスらは、アクション映画に特化した専門のスターたちだった。そして、シリーズ4作目『エクスペンダブルズ ニューブラッド』でスタローンから主人公の座を引き継いだステイサムは、その最後の生き残りと呼べる存在。
逆に今=21世紀のハリウッドのアクション映画で主に主演を担っているのは、トム・クルーズ、キアヌ・リーブス、マット・デイモン、ジェラルド・バトラーといった正統派のイケメン・スターだ。さらにはスカーレット・ヨハンソン、シャーリーズ・セロン、ジェニファー・ローレンスら女優たちも。VFX技術の飛躍的な進歩と、アクション・コーディネーターの存在や映画史の蓄積が生む見せ方(演出)の引き出しが、俳優の身体能力を補ってくれる時代になったことで、アクションに特化した俳優は役割を終えようとしているように思える。
でも、だからこそ生身のアクションには価値が生まれる。緊張感や信ぴょう性が高まるから。トム・クルーズが極力スタントダブルを使わないのも、それが理由だろう。『ワーキングマン』でステイサムは、銃火器だけでなく、ジャッキー・チェンのようにその場にある物や日常の道具も駆使して敵を倒していく。おのずとリアリティーが増す。その際の原動力は、“父性”と“約束”だ。『ビーキーパー』では、“恩人への哀悼”だった。トム・クルーズと違って恋愛が介在しないところも、彼のハードボイルドなカッコ良さを引き立てる。最後の生き残り=絶滅危惧種の貴重な活躍から、一瞬たりとも目をそらしてはもったいない!
(外山真也)
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