希代のヒットメーカー、ジェームズ・キャメロン監督が渾身の力を込めて放つSF大作「アバター」シリーズ第3弾『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』(公開中)。今冬、世界中で大ヒットを記録し、公開からわずか10日でおよそ7億6千万ドル(約1196億円。※box office mojo調べ。12月29日正午付け、日本円は1ドル157.41円換算)の世界興収を計上するなど、今後も数字を伸ばすのは間違いないだろう。映像革命の急先鋒であるキャメロン監督は、今回も進化した3D映像をスクリーンに刻み込んだ。大空と海洋が広がり、動植物の息吹が聞こえてきそうな惑星パンドラの圧倒的な没入感。そこに世界中から驚嘆の声が上がっているのは言うまでもない。
【写真を見る】「アバター」シリーズ史上No.1の妖艶さ!あのクオリッチ大佐をも虜にした“魔性の女”ヴァラン
とはいえビジュアル的な魅力が際立つのは“おもしろいストーリー”があり、“興味深いキャラクターが存在”していてこそだが、『ファイヤー・アンド・アッシュ』はその点でも抜かりない。また「悪役が強ければ強いほど物語はおもしろくなる」とよく言われているが、まさに本作がその例だろう。そこで今回は、パンドラに圧倒的なヴィランとして殴り込みをかけ、人類と“極悪同盟”を結ぶ新キャラクター、ヴァランに着目しながら、「アバター」最新作の見どころを解説していきたい。
■壮大なドラマはまだ第1章!『ファイヤー・アンド・アッシュ』でも描かれる家族の絆
前2作と同様に、主人公は人間の体を捨てて、惑星パンドラの種族ナヴィとして生きることを決意した、元軍人ジェイク・サリー(サム・ワーシントン)。愛するネイティリ(ゾーイ・サルダナ)と家庭を築くも、前作の人間との戦闘で長男を亡くした彼は悲しみ、さらには家族間の葛藤という現実に直面している。その家族とは、ジェイクとネイティリ、その間に生まれた次男、長女に加え、パンドラの守り神エイワと通じることができる養女キリ(シガーニー・ウィーバー)、そしてジェイク夫妻が養育している人間の子ども、スパイダー(ジャック・チャンピオン)。長男に先立たれたネイティリは人間をより憎むようになり、スパイダーを人間の世界に送り返すべきであると考えているが、ジェイクにはその決心がつかない。そんな家族の苦悶がドラマをおもしろくしている。
パンドラの資源を求めて自然を破壊する人間。これに抵抗する、ナヴィの戦争はさらに続く。1、2作目で人間の軍の急先鋒であったクオリッチ大佐(スティーヴン・ラング)は、今回も憎々しいヴィランとして登場。彼はスパイダーの実父であり、息子を取り戻そうとする同時に、パンドラの豊富な資源を人間のものにしようと、あの手この手で攻撃を仕掛けてくる。利己的なことこのうえないのは前2作と同様で、今回も強敵となる。
■妖術、ドラッグなんでもあり…クオリッチ大佐をメロメロにする“魔性の女”ヴァラン
しかし本作のドラマをスリリングにしているのはクオリッチ大佐だけではない。ナヴィにはジェイクやネイティリのような“森”の部族もいれば、前作で初登場した“海”の部族、本作で初登場する“空”の部族もいる。これらの部族はエイワの信仰という絆で結ばれており、友好的な連携が築かれている。しかし、一方ではエイワを否定する部族がパンドラに存在していることが判明!それが、“炎”を信仰するアッシュ族だ。火山の炎によって故郷を奪われたことから、祈っても助けてくれなかったエイワを逆恨みし、エイワ信仰の部族を徹底的に攻撃する。「アバター」シリーズ初の、ナヴィ内のヴィランだ。
そして、このアッシュ族を率いる女性の族長ヴァラン(ウーナ・チャップリン)のキャラの濃さといったら!アッシュ族以外は全部敵という徹底した好戦性。とはいえ、部族の利になると判断したら手を組んでもいいよ、という戦略的な考え方。ただし、私たちの方が上だからな!というマウント姿勢。とにかく、他者を攻撃するために生まれてきたような、パンドラの異端の極北ともいうべき、とんでもないキャラクターなのだ。
ヴァランというヴィラン(紛らわしい!)について、もう少し詳しく説明しておこう。炎を熱烈に信仰した結果、妖術の様な他者を操る技能を体得しており、アッシュ族で絶対的な権力を持つ独裁者。最初は敵であったクオリッチもこれを利用してジェイクを倒そうと画策する。敵の敵は味方、というワケだ。もちろん、ヴァランはタダではこれを飲まない。クオリッチが持つ人間の銃火器に魅了され、これを激しく欲するようになる。そのため、ドラッグの様な催眠性のある薬品でクオリッチを酩酊させて忠誠を誓わせるばかりか、肉体的にも誘惑する念の入りようで、例えとしては古い言い方になるが、まさに魔性の女でもあるのだ。「アバター」シリーズでセクシャルな要素を露骨に匂わせるキャラクターはいままでいなかっただけに、これには驚かされた!
結果的に、ヴァランは人間の銃火器を大量に手に入れることに成功し、原始的な戦闘が主流だったパンドラに、マシンガンやロケット砲という、戦国時代の織田信長のような戦争の“革命”をもたらす。ジェイクをとにかく倒したいクオリッチにとってもこれは好都合で、ヴァランへの武器提供を惜しまない。何気に現在の世界情勢を風刺しているようでもあるが、もちろんそんな深読みをする必要はない。これまでのヴィランと最新のヴィランが手を組んだのだから、まさに極悪同盟の誕生。これこそが、本作のストーリーをスリリングにしている重要なエッセンスなのだ。
■ヴァランの活躍は続く第4作、第5作でもある?
ヴァランに注目したい理由はほかにもある。「アバター」シリーズはこの後、4作目、5作目が製作される予定となっている。本作を観た方なら容易に想像できると思うが、どうやらヴァランはこの後もジェイクらの難敵となりそうな気配。ナヴィのなかでも随一の身体能力を誇り、炎を自在に操り、カリスマ性にも富んでいる、そんなヴァランが、パンドラをどうかき乱していくのか?本作を観れば、この先を予想しただけでワクワクが止まらなくなる!
ヴァランに扮したのは喜劇のレジェンド、チャールズ・チャップリンの孫、ウーナ・チャップリン。『007/慰めの報酬』(08)や「ゲーム・オブ・スローンズ」への端役出演を経て、このVFX大作でギラギラの悪役ぶりを見せつける。喜劇王の孫とはいえ、本作における彼女は笑ってよいキャラクターには見えない。ヴァランが登場するや、そこに緊張が走る。その怪演だけでもすごいと思わせるものがある。
俗に、悪役が強ければ強いほど物語はおもしろくなると言われているが、ヴァランはそれを証明した格好のサンプルだ。ジェイクはこの手ごわい異端の戦士に、どう立ち向かうのか?一筋縄ではいかないこの敵から、家族を守ることができるのか?彼の家族は苦しんで苦しんで苦しんでなお、エイワ信仰を貫けるのか?とにもかくにも、「アバター」第3作はドラマチックなうねりを見せるシリーズの重要作だ。これは見逃せない。いますぐパンドラへ飛べ!
文/相馬学
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