レーダー照射に空母、爆撃機!中国軍"連続挑発"の真意と露呈したその"能力不足"

中国空母「遼寧」。中国にとっては空母運用の出発点となった艦。最新鋭空母には劣るものの、近年は積極的な行動が増えており、中国海軍の空母戦力拡大を象徴する存在だ

レーダー照射に空母、爆撃機!中国軍"連続挑発"の真意と露呈したその"能力不足"

12月29日(月) 7:00

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中国空母「遼寧」。中国にとっては空母運用の出発点となった艦。最新鋭空母には劣るものの、近年は積極的な行動が増えており、中国海軍の空母戦力拡大を象徴する存在だ

中国空母「遼寧」。中国にとっては空母運用の出発点となった艦。最新鋭空母には劣るものの、近年は積極的な行動が増えており、中国海軍の空母戦力拡大を象徴する存在だ





2025年12月、日本周辺の海空域で中国軍が立て続けに動いた。空母「遼寧(りょうねい)」は太平洋へ抜け、艦載機は空自機にレーダーを照射。さらに中露の爆撃機が飛来。

どの行動も過去に例はあるが短期間に重なるのは初めてだ。中国は何を試そうとしているのか。空母の航路や各国の動きから探る。

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【空母の航路から読み解くその目的】 高市早苗首相による「台湾有事発言」から約1ヵ月後の12月5日(日本時間。以下同)。米トランプ政権下で初めて、アメリカの今後の軍事行動の指針となる「国家安全保障戦略」が発表された。そこには、次のように明記されている。

「米国は台湾海峡の現状に対する、いかなる一方的な変更も支持しない。第1列島線全域における侵略を阻止できる軍隊を構築する」

第1列島線とは、日本列島から沖縄、台湾、フィリピンにかけて連なる島嶼(とうしょ)線を指し、中国が太平洋へ進出する際の"最初の防衛ライン"と位置づけられてきた。

米国はこの線の内側で、中国による台湾侵攻や軍事的現状変更を食い止める構えを鮮明にした形だ。緊張感を増す日中関係、そして台湾有事を強く意識した牽制(けんせい)と読み取れる。

しかし、この戦略が公表された同日午後2時、中国空母「遼寧」を中核とする艦隊の姿が、沖縄本島の北東約420㎞の海域で確認された。その後、遼寧は東シナ海から沖縄本島と宮古島の間を南進。

ここは公海であるため航行自体は国際法上、認められているが、問題は通過後の行動だ。

レーダー照射した中国の艦上戦闘機J-15。J-15は旧ソ連機を基に開発された中国初の本格的な艦載戦闘機で、主に空母周辺の空域制圧を担う

レーダー照射した中国の艦上戦闘機J-15。J-15は旧ソ連機を基に開発された中国初の本格的な艦載戦闘機で、主に空母周辺の空域制圧を担う



照射された航空自衛隊の主力戦闘機F-15J。F-15Jは、高いレーダー性能で日本の防空任務の要を担ってきた

照射された航空自衛隊の主力戦闘機F-15J。F-15Jは、高いレーダー性能で日本の防空任務の要を担ってきた





海上自衛隊潜水艦「はやしお」艦長や第2潜水隊司令を歴任した元海将の伊藤俊幸氏はこう語る。

「遼寧は公海上にありましたが、その上空は日本の防空識別圏内。航空自衛隊が常時防空監視をしているエリアでした。にもかかわらず、空母から戦闘機を発着艦させたのです。

当然、対領空侵犯措置で空自機がスクランブル対応しましたが、中国軍としてはそんなことをすれば空自機が飛んでくることはわかっていたはずです」

では、なぜ中国はあえてそのような行動に出たのか。遼寧を中国各地で撮影してきたフォトジャーナリストの柿谷哲也氏は、こう分析する。



「目的のひとつは、中国共産党による国内向けのアピールでしょう。こうした行動を取ることで、日本の政治や世論の驚きや焦りなどの反応を引き出し、党の強硬な姿勢を国内に示す狙いがあったと思います。

また、別の目的として、中国海軍と空軍にとっては、自衛隊の対応を実地で確認する機会でもありました。スクランブル対応に変化はないか、護衛艦の動きはどうか、どのような電波を発するのか、甲板上の様子はどうか。そうした点を探りながら、空母運用の練度を高める訓練の意味合いもあったはずです」

中国空母「遼寧」を中核とする艦隊は、東シナ海から沖縄本島と宮古島の間を通過し、太平洋へ進出。中国のH-6爆撃機とロシアのTu-95爆撃機も宮古海峡を通過した。空母と爆撃機の行動が時間的・空間的に重なったのが今回の特徴

中国空母「遼寧」を中核とする艦隊は、東シナ海から沖縄本島と宮古島の間を通過し、太平洋へ進出。中国のH-6爆撃機とロシアのTu-95爆撃機も宮古海峡を通過した。空母と爆撃機の行動が時間的・空間的に重なったのが今回の特徴





実際、翌6日夜、遼寧から発艦したJ-15艦上戦闘機が、スクランブル対応のために沖縄県から飛んだ航空自衛隊F-15Jに対し、約30分間にわたり断続的にレーダー照射を行なった。

これは一触即発の状況を生みかねない行為とも受け取れるが、航空自衛隊那覇基地302飛行隊隊長を務めた元空将補の杉山政樹氏は「レーダー照射をしたことで、むしろ中国軍の能力不足が露見した」と語る。

「空母に搭載される艦上戦闘機の主な役割は、敵機を空母に近づけないよう、相手機と一定の距離を保って飛行し、圧力をかけることです。しかし、J-15はそれを行なわず、約150㎞の距離からレーダー照射を続けました。

ポイントは夜間だったことです。視覚情報に頼れない暗闇の中で、近接飛行する自信や能力がなかったのかもしれません。そのため、レーダーを当て続けることで、空自機の位置を把握しようとした可能性があります」

そもそも、中国軍のJ-15が運用可能とされる主力の空対空ミサイルは、射程約100㎞のPL-12だ。150㎞も距離が空いていたら届かない。そのため、今回のレーダー照射は「撃つため」というより、能力不足を補う形で行なわれたと考えられる。

翌12月7日から8日にかけて、遼寧艦隊は進路を東へ転じ、その後、南へグルっと回った。

米海軍系シンクタンクで戦略アドバイザーを務める北村淳氏は、この動きから、今回の空母接近は別の目的があった可能性を指摘する。



「この南下は、米空母を引き出すための行動だった可能性があります。

中国海軍にとって、海自や空自の対応そのものは必ずしも主眼ではありません。中国が本当に見たいのは、米国がどう動くのか、その本気度です。そのため、空母艦隊を沖縄とグアムの間の海域に展開し、米海軍がどう反応するかを試したのです」

北村氏によれば、第7艦隊の空母ジョージ・ワシントンは12月2日から7日までグアムに滞在していたが、その後出港。8日、真珠湾攻撃から84年の節目の日に、海上自衛隊の護衛艦と共に、関東南方の太平洋上で演習を開始した。中国側の動きと時間的に重なっていることから、米側がこの一連の事態を意識していたことがうかがえる。

【中露の爆撃機が飛来、米も爆撃機で対抗!】 さらに12月9日には、中国軍のH-6爆撃機2機と、ロシア軍のTu-95爆撃機2機、計4機が宮古海峡を通過し、太平洋上へ進出した。編隊は日本南部上空を飛行した後、東京まであと約700㎞という地点で反転した。

ロシア空軍の長距離戦略爆撃機Tu-95。冷戦期に開発された機体だが、現在も核・通常両用の巡航ミサイルを搭載可能な主力爆撃機として運用されている

ロシア空軍の長距離戦略爆撃機Tu-95。冷戦期に開発された機体だが、現在も核・通常両用の巡航ミサイルを搭載可能な主力爆撃機として運用されている





前出の杉山氏は「中露の爆撃機が空母と時期を合わせて飛来したという事実は、真剣に考える必要がある」と語る。

「単なる訓練飛行ではなく、中国だけでなくロシアも含めて、連携して動けるという意思表示でしょう。

自衛隊は台湾有事と対中国を念頭に置いて南西シフトをしていますが、台湾有事で日本が出てくるならば、相手にするのは中国だけではない、というメッセージとも受け取れます」

実際、この中露爆撃機編隊には、遼寧艦載のJ-15も一部区間で随伴したとみられている。過去にも爆撃機が飛来した例はあるが、空母接近と時期を同じくして爆撃機が飛行した点は、これまでより一段踏み込んだ行動だ。

中国空軍の中距離爆撃機H-6。旧ソ連製Tu-16をベースに改良が重ねられ、近年は対艦・対地巡航ミサイルを搭載可能とされる

中国空軍の中距離爆撃機H-6。旧ソ連製Tu-16をベースに改良が重ねられ、近年は対艦・対地巡航ミサイルを搭載可能とされる





これには、中国に牽制したばかりの米国も動いた。12月10日、日本海上の空域で、米空軍のB-52爆撃機と航空自衛隊のF-15、F-35が共同飛行訓練を実施したのだ。

元海将の伊藤俊幸氏は、この演習の意味をこう解説する。



「米国としては、『第1列島線は西半球と同様に米国の国益だ』という立場を、中国側に行動で示したということでしょう。言葉ではなく、動きで確認させた点が重要です」

日米と中露のにらみ合いにまで発展した今回の中国軍の挑発。しかし、トランプ大統領と習近平国家主席は米中会談を重ねており、米中関係は一定の安定を保っているはず。それにもかかわらず、日本周辺で中国が圧力を強めるのはなぜなのか。

多摩大学大学院客員教授で地政学専門家の奥山真司(まさし)氏は、「むしろ米中関係が安定しているからこそ起きている現象だ」と指摘する。

中露の爆撃機の飛来に対し、米空軍のB-52戦略爆撃機と、空自戦闘機F-15、F-35が共同飛行訓練を実施。第1列島線を巡る抑止的なメッセージと受け止められている

中露の爆撃機の飛来に対し、米空軍のB-52戦略爆撃機と、空自戦闘機F-15、F-35が共同飛行訓練を実施。第1列島線を巡る抑止的なメッセージと受け止められている





「大国同士が全面衝突に至らないと双方が認識している局面ほど、周辺地域では摩擦が起きやすくなります。冷戦期に指摘された『安定と不安定のパラドックス』と同じ構図です。

当時、米ソ関係は極度に緊張していましたが、核戦争には至らないという認識が共有されていたため、逆に大国間の関係は一定の安定を保っていました。その一方で、朝鮮戦争やベトナム戦争など、周辺地域では紛争が頻発した。

中国は今、同じ発想で『この程度なら大きな衝突にはならないだろう』という範囲を見極めながら、どこまで行動できるのかを試しているのでしょう」

今回取材した専門家たちは、こうした空母や爆撃機の動きが今後も繰り返されると口をそろえる。中国軍は未完成だが、練度が上がれば、挑発では済まなくなるかもしれない。

取材・構成/小峯隆生写真/防衛省航空自衛隊

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