【モーリー・ロバートソンの考察】失敗から学んだ  「転び方」を知る者だけが チャレンジャーになれる

週刊プレイボーイでコラム「挑発的ニッポン革命計画」を連載中のモーリー・ロバートソン氏

【モーリー・ロバートソンの考察】失敗から学んだ 「転び方」を知る者だけが チャレンジャーになれる

12月29日(月) 7:00

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モーリー・ロバートソン「挑発的ニッポン革命計画」 『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、停滞する日本社会における「チャレンジャー」のあり方について考察する。

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「パラサイト・シングル」などの造語を世に出したことで有名な社会学者の山田昌弘氏が、2004年に提唱した「希望格差社会」という言葉があります(『希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』筑摩書房)。雇用が不安定化し経済も成長せず、努力しても報われる保証がない社会に生きる若者たちは、人生に過度な期待を抱くことをやめ、リスクを極端に避ける精神構造にならざるをえなくなっている、と。

それから20年余りたった今、こうした傾向はより顕著になってきていないでしょうか。若者は上の世代に比べても「チャレンジすることに意味を感じない」――そんな意識調査も実際にあるようです。

山田氏は、そうした若者たちが見いだしたのが「推し活」であり、選挙さえも「推し活化」していると分析しています。失敗して傷つくリスクを負い続けて自分の人生を必死に生きるより、「推し」に希望を託す。推しが成功すれば、自分も報われる。いうなれば「達成感の代理体験」であり、「希望の外部委託」です。

円安の進行もあり、今や海外旅行も留学も簡単に行けるものではなくなりました。そんな状況下では、若かろうがなんだろうが、各個人にとってはリスク回避型の生き方をするのが「賢い」のかもしれません。閉塞感の中で「推し活」にベットすることも、ある種の合理的な防衛本能と言えるのでしょう。

しかし、その個人の集合体である社会はどうなっていくでしょうか?

ここ20年、日本で生まれた"イノベーター風味のヒーロー"のほとんどは、実際に社会を前に進めたわけではなく、「既存の仕組みをハックしてうまくやった」人々です。本当の意味で無謀なチャレンジャー、純粋な革命家が歓迎されないことはずっと変わりません。このような社会は、「みんなで少しずつ沈没していく」ことを選ぶ――そんな悲観がどうしても頭をもたげてしまいます。

人がチャレンジを恐れるのは、「失敗したら終わり」だと思うからでしょう。だからこそ、今を生きる日本人、特に若い世代には、柔道でいう受け身、つまり「転んだときに頭を打たないためのスキル」を習得してほしいのです。

そして、禅問答のような話になってしまいますが、そのために必要なのは「失敗の経験」です。時代環境も個人としての背景も違う私の経験談が役に立つとは思いませんが、私自身、かつては相当に無謀なことを繰り返しました。

アメリカで青春時代を過ごした頃に周囲が溺れていた薬物にこそ手を出しませんでしたが、パンクバンドのメンバーを自腹で韓国に呼び寄せ、ライブを強行して警察沙汰になりかけたり、シルクロードを横断する旅の途中、旧ソ連圏のカザフスタンやキルギスで警察のゆすりたかりに遭ったり......。その経験が、今の自分の背骨になっているように思います。

私が尊敬し、大学時代にファンレターまで出した革新的な作家ウイリアム・バロウズも、「転び方はわかっておけ」と強調していました。社会のシステムが制度疲労を起こしている今、必要なのは空気を読んで正解を出す優等生ではなく、「推し」に希望を託す傍観者でもない。果敢にアクションを起こし、盛大に失敗しても上手に転べる、「受け身」の取れるチャレンジャーです。

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