大谷翔平の2026年の目標は「二刀流でサイ・ヤング賞獲得」なのか? photo by Getty Images
後編:大谷翔平の2025年&2026年
あくなき挑戦心は、とどまるところを知らない。11月25日に行なわれた大谷翔平のシーズン総括会見では、本人の野球に対する姿勢が随所に込められたコメントが多く見られた。来シーズン、大谷が目指すのは、二刀流で「サイ・ヤング賞」を獲得したうえで3連覇に貢献することなのか?
大谷にとって何より重要なのは、極めて難度の高い目標を設定すること。「27歳ピーク説」というMLBの通説をすでに打ち破り、常に挑戦することで進化を続けるその姿勢は、引退のその日まで変わることはないのかもしれない。
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【投手としての進化の証しとサイ・ヤング賞獲得への道】では、大谷翔平は2026年、どのような目標を設定するのだろうか。おそらく、二刀流を続けながら、投手としてサイ・ヤング賞を獲得すること――その一点に照準を定めているはずだ。
11月25日、報道各社のオンライン合同インタビューに応じた大谷は、「投手として復帰し、自己最速も出た。(来季は)サイ・ヤング賞も視野に入るのではないか」と問われると次のように語っている。
「今年に関しては、リハビリが終わったというイメージかなと思います。シーズン中もポストシーズンを通しても、ですね。手術前の感覚に近いかと言われたら、まだそこまではいっていない。まずは、それ以上のパフォーマンスを出せる準備を、キャンプの段階からやっていければいい。その先に、いろいろな賞があるんじゃないかなと思います」
大谷がサイ・ヤング賞に最も近づいたのは、2022年だった。この年、投手として28試合に先発し、166イニングを投げて15勝9敗、防御率2.33、219奪三振、44与四球を記録。シーズン後のサイ・ヤング賞投票では、ジャスティン・バーランダー、ディラン・シース、アレク・マノアに次ぐ4位に名を連ねた。
実際、大谷は2022年と比べ、投手として着実に進化している。直球の平均球速は、2022年の97.3マイル(156.6キロ)から2025年には98.4マイル(158.4キロ)へと上昇した。さらに、直球の被打率も.283から.183へと飛躍的に改善している。投球内容にも変化が見られる。2022年はスイーパーが37.4%と最も多い球種だったが、2025年は直球の使用率が38.8%で最多となった。その結果、スイーパー、スライダー、カーブはいずれも空振り率40%以上を記録し、変化球のキレもひと段と際立った。
もっとも、本人は制球面に課題を感じていたという。ノーワインドアップに変更した理由について次のように説明している。
「TJ(トミー・ジョン手術)明けは、どうしても細かいコマンド力(制球力)が落ちる傾向がある。それは一度目の手術の時にも感じていましたし、リハビリの過程でも感じていました。だったら、今年は楽に球速を出す方向にシフトしたほうがいいのではないかと思い、ワインドアップにしたのが始まりです」
四球が極端に多かったわけではない。しかし、自身が求める水準の制球力には届いていないという実感があったのだろう。サイ・ヤング賞を本気で狙うのであれば、2025年の投票で1位から3位を占めたポール・スキーンズ(ピッツバーグ・パイレーツ)、クリストファー・サンチェス(フィラデルフィア・フィリーズ)、山本由伸という、大谷より若い3人を上回らなければならない。競争のレベルは極めて高い。それでも大谷は「目標を高く設定することが、最も重要だと信じています」と語ったとおり、再び自らを最難度の挑戦へと置こうとしている。
【WBCへの強い意欲は変わらず】加えて大谷は、野球という競技のなかで投手が担う役割の重要性についても、強く意識している。
「緊張感という点では、マウンドにいると間違いなく(打席に立っている時よりも)大きい。ひとりで試合を台無しにしてしまうこともあるし、同時に勝利に最も大きく貢献できるポジションでもある。だから、私のなかでピッチャーというのは、本当に特別な役割だと感じています」
その言葉には、投手としての責任と覚悟がにじむ。MLB移籍後、大谷は右肘を2度、左肩を1度、計3度の大きな手術を経験してきた。リスクだけを考えれば、打撃に専念するほうが安全だという見方もある。しかし、大谷はそうは考えない。二刀流について問われると、「引退するその瞬間まで、やり続けるのがベストだと思う」と、迷いなく言いきった。
2026年、大谷は二刀流を続けながら、投手としてサイ・ヤング賞を狙い、ドジャースの3連覇に貢献する――。その目標は途方もない。だが、これまで彼が積み重ねてきた歩みを振り返れば、決して絵空事ではない。
会見では、2026年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)についての質問も多く出た。前回大会(2023年)でMVPに輝いた大谷は、あらためて大会への思いを口にしている。
「アメリカだけじゃなく、各国にすばらしい選手がいて、すばらしいチームがある。そのなかで、日本を代表していろいろな選手と対戦できるのは、非常にいい経験になると思います。ワールドチャンピオンとは別に、大きな大会のひとつとして、今も、そして今後も重要になっていくのではないでしょうか」
2026年は、開幕から二刀流で復帰する予定だ。直前に行なわれるWBCへの出場はリスクにならないのか。そう問われると、率直な思いを明かした。
「WBCにはずっと出たい、選ばれたいと思っていました。前回が初めての出場でしたが、それまではタイミングが合わず、気持ちとは裏腹に出られなかった。前回は本当にすばらしい大会でしたし、来年はそれ以上になるんじゃないかなと思います。選ばれること自体が光栄なので、楽しみにしています」
一方で、役割や起用法については慎重な姿勢を崩さない。
「起用法については、まだわからないというか、コミュニケーションを取らないといけないので何とも言えません。投げる、投げないに関わらず、何通りかのプランを持っておくべきだと思っています。ドジャースと話をしながら、WBC後のキャンプをどういう形で入っていくのがいいのか、プランに沿って選んでいければと思います」
WBCで投手として登板するなら、調整は早めに始めなければならない。一方で、ドジャースの主戦投手として10月末まで投げ続ける可能性も念頭に置く必要がある。2026年は32歳になるシーズン。その判断は簡単ではない。
【「27歳ピーク説」のMLBの通説を破り続ける大谷の進化】選手としてのピークをどう感じているのかと問われると、大谷はこう答えた。
「トレーニングの反応や体の状態を考えると、今がピークあたりなのかなとは思っています。ただ、このままオフシーズンをどう過ごすかで、どこまで持っていけるかは変わってくると思います」
MLBには、「27歳ピーク説」と呼ばれる通説がある。セイバーメトリクスの研究によって、WAR(*1)やwRC+(*2)、OPS+(*3)、FIP(*4)といった指標を大量の選手データで平均化すると、野手の総合的なピークは26〜29歳に集中するという結果が示されてきた。スカウトの目から見ても、身体能力は20代前半から半ば、打撃の完成度は20代後半から30代前半が最も高いとされている。投手も同様で、球速のピークは20代半ばに訪れ、年齢とともに故障リスクは高まっていく。だからこそ、多くの選手は30代に入ると「維持」を最優先する。
*1=打撃、走塁、守備、投球を総合的に評価して選手の貢献度を表す指標/*2=打者が1打席あたりにどれだけ得点に貢献したかを示す指標/*3=打者の得点力を測る指標/*4=投手自身の能力=「奪三振・与四死球・被本塁打」のみで投手の失点リスクを評価する指標
しかし大谷は、その枠組みから外れている。27歳で初めてMVPに選ばれ、翌年にはサイ・ヤング賞投票で4位。30歳で50本塁打・50盗塁という前例のない領域に踏み込み、31歳の今もなお、球速と投球内容の両面で進化を示している。
大谷は「今がピークあたりなのかな」と語った。だが彼が更新しているのは、単なる自己記録ではない。年齢によって規定されてきたはずの「ピーク」という概念そのものである。スポーツにおけるピークとは、年齢が与えるものではなく、挑戦によって引き延ばされ、書き換えられるものなのだ――。大谷翔平は、そのことを世界最高峰の舞台で、静かに、しかし決定的に証明し続けている。
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