「スマホ禁止、丸刈り、毒ガスで涙が止まらない」韓国の若者全員が経験する兵役の壮絶リアル。BTSも例外なし

「極限状態を共有することで連帯感が生まれるので、韓国では兵役を肯定的に語る人が多いですね」(前列右から二番目がスンジュン氏)

「スマホ禁止、丸刈り、毒ガスで涙が止まらない」韓国の若者全員が経験する兵役の壮絶リアル。BTSも例外なし

12月27日(土) 8:53

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日本からもっとも近い国として知られる韓国。だが、大きく両者の文化として異なるものがある。

国防義務としての兵役の存在だ。

「韓国で兵役に行ったかどうかは、男として一人前かを判断する材料の一つになりますね。日本人にはまったく理解できない文化や過酷な兵役の現場も少なくありません」

そう語るのは、ソウル出身で京都大学卒業後、リクルートを経て現在は登録者数3万人のYouTubeチャンネル「韓国語は『発音』が9割」を運営するスンジュン氏だ。

自身も兵役を経験したスンジュン氏に、身体的にも、精神的にも過酷だという「日本人の99%は想像できない壮絶な兵役体験のリアル」を語ってもらった。

免除されるケースもあるにはあるが…

ーー入隊までの流れを教えてください。

スンジュン: 18歳になる年に、国から「入隊前の身体検査を受けてください」という一通の手紙が届きます。検査当日は体の各部に異常がないかを細かく確認され、体力や心理面の適性検査も行われます。その結果に基づき、1〜7級の「兵役判定」が通知されます。

多くの人は現役として入隊しますが、重い持病がある場合は免除となることもあります。過去に、体格や視力の問題で免除されることがありましたが、少子化の影響で基準は以前より厳しくなっています。

例外的に、家庭の事情で家計を支える必要がある人や両親を亡くした人、オリンピックやアジア大会でメダルを獲得した人、犯罪歴のある人などは免除されることがあります。

ただ、上記のような特別な事情がない限り、ほとんどの韓国人男性は入隊することになります。入隊前は定番の儀式もありますね。

バリカンで丸刈りにし、恋人に泣きながら手を振る

ーー入隊前になにか儀式をするのでしょうか?

スンジュン: 入隊日が近づくと髪を丸刈りにします。入隊前日に友人と美容院を訪れ丸刈りにして、その後に酒を酌み交わしながら別れを惜しみます。入隊当日には、韓国南部にある訓練所に家族や恋人が見送りに訪れます。親は涙をこらえて「体に気を付けろ!」と背中を叩き、恋人は泣きながら「待ってるね!」と手を振る光景をよく見かけました。

ーーそれだけ韓国では大きな儀式なんですね。

スンジュン: そうですね。そのため、韓国では初対面の男性同士であっても「兵役に就いたかどうか?」「どの部隊にいたか?」が、相手を評価する基準となっています。

韓国での兵役は「やる・やらない」を選べるものではなく、精神的な疾患や重い障害など、よほどの事情がない限り、避けることはできません。ほぼすべての男性が対象であり、行かないことのほうが圧倒的に珍しいです。

ーー本当にほぼ全員一度は経験するんですね。

スンジュン: そうですね。BTSやBIGBANG含め、芸能界や政界も例外ではないです。兵役はその人が信頼に足る人物かどうかを測る指標になっています。

スマホ・タバコは当然禁止。10歳年下に敬語を使う

ーー兵役の現場はどのような環境なのでしょうか?

スンジュン: 訓練所での1ヶ月間は敬礼・整列・歩き方・発声から始まり、射撃や手榴弾の投擲まで、軍人としての基礎を徹底的に身につける期間になります。スマホやタバコは当然禁止で、一般社会とは完全に切り離された環境です。

軍隊への入隊は基本的に、18歳から28歳の間に行われます。多くの人は大学1年を終えた時期に休学して入隊するのが一般的ですね。

一般社会とのわかりやすい違いとして、軍隊が徹底した階級社会であることが挙げられます。序列を決めるのは年齢ではなく入隊時期のため、自分より年下の男性が上官になることも珍しくありません。

28歳が18歳に敬語を使うことが当たり前の世界なのです。そのため、年下から命令を受けることにストレスを感じないよう、韓国人男性はできるだけ早めに入隊しておこうと考えるのが一般的です。

また、少しでも体力があるうちに行った方が楽だという人もいます。芸能人の場合は、若いときにたくさん働いて、28歳前後で兵役に行くことも少なくありません。BTSはまさに、このパターンでしたが、ほとんどの人は大学生のときに入隊します。

ーー部隊にはいくつか種類があるのでしょうか?

スンジュン: 韓国には陸軍・海軍・空軍・海兵隊の4つがあり、入隊時に志望を出すこともできます。それぞれ服務期間が異なり、現在の基準では陸軍と海兵隊が18か月、海軍が20か月、空軍が21か月となっています。各部隊には、「個人の特技を生かせる職種」も用意されていますね。

冷蔵庫、電子レンジ、シャワーつきの個室が与えられる部隊も

ーー「個人の特技を活かせる職種」とは?

スンジュン: 例えば、楽器が得意な者は軍楽隊、運転免許を持っていれば運転兵、語学が得意であれば通訳兵に配属される可能性があります。

英語力のある人は在韓米軍と共同で勤務する部隊である「KATUSA(カトゥサ)」に志願することもできます。KATUSAはかなり人気です。なぜなら居住環境がよく、個室または2人部屋に加え、冷蔵庫や電子レンジ、シャワーなどの設備が整っているからです。さらに、週末の外出が認められているだけでなく、食堂でステーキやパスタが提供されることもあります。

ーー同じ軍隊といっても、かなり差があるんですね。

スンジュン: 過酷さにも差があります。たとえば、海軍に所属する海兵隊は、とても厳しい。ただ、厳しいと同時に、海と陸の両方で戦える精鋭部隊としても知られているため、海兵隊出身者はプライドを持っている人が多いです。

そのため、兵役が終わったあとも、相手が海兵隊出身者とわかったら、「キミ、海兵隊だったの?何期生?」と互いに確認して盛り上がることが多い。海兵隊は「過酷なあの訓練を乗り越えた同士」という認識が強いのだと思います。

喉や皮膚が焼けるような痛みに襲われ…

ーー海兵隊でなくとも、かなりキツい訓練があると聞きました。

スンジュン: 特につらいと言われているのが「ガス実習訓練」です。化学兵器や生物兵器、毒ガスなどによる攻撃を想定した訓練でかなりキツいです。まず、防毒マスクと防護服を素早く装着してガス室に入るのですが、装着手順を誤るとガスが直接体内に入り、強い苦痛を伴う。

その後、教官の「マスクを外せ!」という指示に従うと、目が強くしみ、喉や皮膚は焼けるような痛みに襲われ、涙や鼻水、よだれが止まらなくなります。

ーーそれを成人男性が訓練として受けるのはかなりキツいですね…。

スンジュン: いや、これでもマシになったんですよ。かつてはガス室内で軍歌を歌わせたり、体操をさせたりする訓練も行われていました。が、現在は安全面への配慮から、ガスの刺激を数分間体験して終了する方式に改められています。

ーー他にも厳しい訓練はありましたか?

スンジュン: 私が印象的だったのは、訓練所生活の終盤に行われる「行軍(こうぐん)」です。内容は20キロ近いリュックと約3〜4キロの銃を担ぎ、山道を含む長距離を歩き続けるというもので、足よりも肩のほうが本当につらく、もげそうになります。

それでも脱落する人はほとんどいませんでした。行軍中は軍歌を歌って互いに声を掛け合う。韓国ドラマに出てくる軍隊のイメージのそのままです。

深刻ないじめ。自ら命を断つ人も…

ーーあまりにも普段の生活とは切り離された環境なので、耐えられない人もいるのではないでしょうか?

スンジュン: そうですね。精神的な負担も大きいです。閉鎖的な社会であるがゆえに、かつてはいじめが深刻な問題となり、自ら命を断つ人も少なくありませんでした。

プライベートでの制限が大きいため、精神的な負荷はかなりのものになります。ただ、2010年以降は設備の見直しや理不尽な体罰・過度な上下関係の縮小など環境改善が進められています。

恋人に手紙でフラれ、途中で投げ出す兵士も

ーープライベートでの制限とは、具体的には?

スンジュン: 訓練期間中はスマホの使用が制限されているので、外部との連絡手段は手紙などに限られます。私も最初はかなりきつかったです。社会から切り離された感じになり、久しぶりにスマホを触ったときは使い方を忘れていました(笑)。

兵役に就いている人の元に家族や友人、恋人から毎日のように届く手紙が心の支えになる一方、そこに書かれた言葉が大きな事件を起こすこともありました。

もっとも印象的だったのは、恋人から別れを告げる手紙を受け取って、途中で帰ってしまった同期がいたことです。実は、訓練を途中で中断すると、最初からやり直しになってしまうんです。だから周りの人は「おまえ!ここまで頑張ったのに、振出しに戻っていいのか!?」と説得したのですが、それでも耐えられなかったようでした。

私たちはスマホの持ち込みができないので、その後、彼がどうなったかは誰もわかりません。もちろん女性側もかなりツラいものになります。そのため、軍隊に行った彼氏を待つ女性たちが集まるオンラインコミュニティもあるほどで、情報交換をしたり、互いに励まし合ったりしながら支え合っています。

数少ない楽しみは“お菓子を食べられる”宗教活動

ーーひたすら過酷なエピソードが多いのですが、楽しみはなかったのでしょうか?

スンジュン: 多くはないですが、宗教活動はとても楽しみでした。週末になると部隊内の教会や寺院で自由に宗教活動に参加でき、実際には信仰心のない兵士も参加していました。

理由は、宗教活動に参加するとチョコパイやスナックなどのお菓子が配られるからです。兵役中は食生活も管理されているため、お菓子はとても貴重な存在です。私はチョコパイをもらえるこの時間が一番の楽しみでした。

また、兵士を励ます目的でアイドルが部隊を訪れて公演を行うのですが、これも楽しみでした。女性アイドルが慰問(いもん)に訪れると、久しぶりに女性を見た兵士たちが熱狂的に歓声を上げる。想像すると、かなり非日常なことがわかるのではないでしょうか。

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スンジュン氏はかなり過酷な環境を過ごしたと当時を振り返るが、それでも兵役に参加してよかったと振り返る。

「兵役は単なる義務ではなく、忍耐力や友情、責任感、そして日常のありがたさを学ぶ時間でもありました。私は今、日本に住んでオンラインの韓国語スクールを運営していますが、資金が底をつきかけてツラい時期もありました。が、兵役の経験があったので『絶対に乗り越えてみせる!』と思い乗り越えられました。そんな精神力が身についたのは間違いなく兵役のおかげです」

もし、あなたが韓国人だとしたら、この過酷な環境を乗り越えられるだろうか。

入隊すれば、日常のありがたみを今以上に感じることができるかもしれない。

<取材・文/鈴木俊之>



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