大学時代からの唯一の友人が双極性障害、いわゆる躁うつ病になってしまった場合、どう対処するのが正解なのか。“外務省のラスプーチン”と呼ばれた諜報・外交のプロ・佐藤優が、その経験をもとに、読者の悩みに答える!
死にたいと言う友人とどう付き合えばよいか
★相談者★コルトバン(ペンネーム)会社員41歳男性
躁鬱になった大学時代の友人から「死ね」と言われます。私には友人が彼以外にいません。彼は工学研究科博士課程まで進んだ後、企業社会への適応へ失敗したようで、今は家族に養ってもらいながら、時折作業所へ通いストレスは酒で紛らわせる生活を送る日々のようです。ここ2、3年、彼から「死にたい」「助けてくれ」とLINEが来るようになりました。
「大丈夫」「医者に相談しなよ」と当初は返信していましたが、正直に申し上げます。うんざりしてしまいました。彼の「自分は復帰できるだろうか」の質問に、突き放す言葉を返した際、彼から罵倒の言葉が届き、「死ね」と言われました。彼には転職相談に乗ってもらったりと大いに世話になった義理がありますが、私はどうすればいいのでしょうか。
佐藤優の回答
私の友人にも2人ほど双極性障害(いわゆる躁うつ病)になった人がいます。双極性障害には1型と2型があります。
1型は誰でもわかる激しい躁状態になりますが、2型の場合、気分の落ち込みや活動性の低下が続く鬱状態のときが長いので、鬱病と間違えられることがよくあるようです。
相談内容からすると、あなたの友人は2型のようです。友人が「死ね」と言ったのは、躁状態のときだと思います。友人は病気のせいで発言をしたにすぎないので、あなたは気にする必要がありません。人間は誰でも例外なく心の底に闇を抱えています。
精神科医で心理学者のユングは、こんなことを言っています。
〈無意識の探究によって元型が意識に近づけられると、個体(Individuum)は人間本性の底なしの対立性と向い合うことになり、かくして光と闇、キリストと悪魔とを直に体験することが可能となる。
むろんそれは最良の場合でも最悪の場合でも単なる可能性にすぎないのであって、その体験をはっきり保証してくれるものではないからである。というのも、この種の体験は人間的手段によって必ず招き寄せることができるとは限らないからである。そこにはわれわれの制御できない諸要因がはたらいているのである。
対立性の体験は知的な洞察力にも、感受性にも左右されない。
むしろそれは運命と名づけるのがふさわしいような体験なのである。〉(『心理学と錬金術Ⅰ』36頁)
あなたの友人も、自分の心の底を旅しているのだと思います。そして友人の意識が元型に近づく過程で、心の中に混乱が生じて、あなたに「死ね」と言ったり、「死にたい」と漏らしたりするのだと思います。友人に対しては、あなたがしているような「医者に相談しなよ」という対応が正しい対応です。
さらに「カウンセラーを紹介してもらうといい」と付け加えるといいでしょう。友人は大学院工学研究科博士課程まで進んでいるのですから、高度に専門的な知識が必要とされる問題については、専門家でないと解決できないことはよくわかっていると思います。
躁うつ病は、精神疾患の中でも、薬物療法が難しく、その治療には熟練した高度専門家の助けが必要になります。そのことを、友人が躁もしくは鬱の状態でないときに、あなたが丁寧に説明しておく必要があります。
そして、躁もしくは鬱状態の友人の発言は「こいつの脳内分泌物が言わせているのだ」と割り切って気にしないことが重要です。病気と正面から向き合う重要性を友人に伝えることが誠実な対応と思います。
★今週の教訓…… あなたの友人は自分の心の底を旅している
※今週の参考文献『心理学と錬金術 Ⅰ』C・G・ユング〔池田紘一・鎌田道生訳〕人文書院
【佐藤優】
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数
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