12月27日(土) 0:00
在職老齢年金は、65歳以上で厚生年金に加入して働く人が対象となり、給与や賞与を月換算した「総報酬月額相当額」(給与・賞与を月換算した額)と老齢厚生年金額の「基本月額」(加給年金を除いた老齢厚生年金の報酬比例部分の月額)の合計が基準額を超えると、その超過分の一部に相当する額が支給停止される仕組みです。
2025年現在の支給停止基準額は月額51万円ですが、2026年4月からは月額62万円へと大きく引き上げられる予定です。
この変更の最大のポイントは支給停止の基準額が62万円まで引き上げられることで、多くの人にとって老齢厚生年金が減額・停止されにくくなるという点です。
例えば総報酬月額相当額が月40万円、老齢厚生年金の基本月額が12万円の場合は合計52万円となり、現行(51万円基準)では超過分について年金の一部が支給停止となります。しかし、改正後は62万円の基準内に収まるため、満額受給が可能となります。
この改正により、働き方を変えずに支給停止の対象から外れる人が増え、年金の手取りが増える人が出ると考えられます。したがって、高齢期の家計にとって大きなメリットといえるでしょう。
在職老齢年金の支給停止の仕組み自体は改正後も変わらず、総報酬月額相当額と基本月額の合計が基準額を超えると、その超過分の半分が支給停止されます。計算式にすると、次のとおりです。
(総報酬月額相当額+基本月額)− 62万円(2026年4月から)=超過額(×1/2が停止額)
この仕組みにより、どの収入水準から年金が減り始めるのかが明確になります。以下で、具体的なケースで確認していきましょう。
●ケース1:総報酬月額相当額45万円・基本月額12万円
合計57万円 → 62万円未満のため停止なし
これまで減額されていた人も満額受給できるようになります。
●ケース2:総報酬月額相当額50万円・基本月額15万円
合計65万円 → 超過額3万円 → 停止額1万5000円
支給停止は生じますが、改正後は現行制度より受給額が増えやすくなります。
●ケース3:総報酬月額相当額60万円・基本月額15万円
合計75万円 → 超過額13万円 → 停止額6万5000円
高い収入がある場合でも、現行制度より支給停止額が小さくなりやすく、結果として受給できる年金額が増える可能性があります。
全体として、支給停止の対象となる人は大幅に減る見込みで、「働くほど年金が減る」という不公平感が緩和され、高齢者の就労意欲を後押しすると考えられます。
支給停止が減るのはプラスですが、収入が増えるほど税金・社会保険料の負担が大きくなる点は見逃せません。特に影響があるのは、「所得税・住民税」「厚生年金・健康保険料」「家族の扶養条件(社会保険上の扶養から外れる可能性)」の3つです。
たとえ年金を満額分受給できても、税や保険料負担が増えれば実際の手取りは期待より増えないケースがあります。特に賃金が高い人ほど負担増の影響が大きいため、収入ラインをどこに設定するかは慎重に検討する必要があります。
家計の最適ラインは個人差が大きく、「年金の減額幅」「賃金による税・社保負担」「働く時間や体力とのバランス」など、複数の視点で判断することが重要です。
近年は高齢者の就労が当たり前となり、内閣府の「令和6年版 高齢社会白書」によると、65歳以上の労働力人口は過去最多を更新しています。企業側も人手不足を背景に、高齢者雇用の拡大が求められています。
こうした社会状況のなかで、今回の基準額引き上げは「働き続けても損しない環境づくり」「高齢者の就労促進」「年金制度の持続性確保」という3つの目的を持ったものです。
就労と年金の両立がしやすくなることで、選択肢の幅が広がり、家計の安定にもつながると考えられます。
2026年4月からの在職老齢年金の支給停止基準額引き上げは、働きながら年金を受け取りたい人にとって大きな追い風となるでしょう。特に基準額が51万円から62万円へ広がることで、多くの人が年金を満額に近い形で受け取れるようになります。
しかし、手取りは税金や社会保険料の負担に左右されるため、単に収入が増えれば得になるとはかぎりません。
自身の年金額と賃金水準を把握し、無理なく働ける収入ラインを見極めることで、老後の家計をより安定させることができます。制度を上手に活用し、自分に合った働き方と受給方法を選択していきましょう。
日本年金機構 在職老齢年金の支給停止の仕組み
日本年金機構 在職老齢年金の計算方法
厚生労働省 在職老齢年金制度の見直しについて
内閣府 令和6年版高齢社会白書(全体版) 第1章 高齢化の状況(第2節 1) 第2節高齢期の暮らしの動向(1) 1 就業・所得
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
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