3月に公表された、大手牛丼チェーン「すき家」のネズミ混入問題。ネズミが混入した味噌汁が客に提供されるというショッキングな出来事で、実際の写真がSNS上に広まったこともあり、大きく社会の関心をひいた。
あれから約9カ月たった今、早くもすき家は復活しているようだ。都内の複数の店舗で従業員に取材したところ、「(客足は)今は通常どおり」「減っていない」「もう普通に戻っている」といった声が聞かれ、女子高生のグループ客で賑わう店舗もみられた。
4~9月の既存店売上高は前年同期比1%増となるなど、各種業績データをみても前年並みに戻っているが、あれほど大きく世間を騒がせたにもかかわらず、なぜ早くも復活を遂げることができたのか。その要因を運営元に取材した。
「珍しくない」大手外食チェーンの異物混入
大手外食チェーンで異物混入が発生するのは珍しいことではない。2015年に商品への人の歯やプラスチック片の混入などが相次いで起きたマクドナルドでは、22年には「マックフライポテト」に人の爪とみられるものが、23年にはハンバーガーにゴキブリが、同年には「グラコロ」に虫が混入するという事例が発生。
すかいらーくグループの「ガスト」は、22年にポテトフライに異物が混入していたと公表。23年にはイタリアンレストランチェーン「サイゼリヤ」のサラダにカエルが、うどんチェーン「丸亀製麺」の「丸亀シェイクうどん」に同じくカエルが混入。
そして今年だけでも、ファミレスチェーン「ジョイフル」のピザに使われたベビーリーフへのカタツムリ混入、ラーメンチェーン「来来亭」のラーメンへの虫混入、「すき家」を運営するゼンショーホールディングス(HD)の「はま寿司」での吸水シート混入、「ミスタードーナツ」のドーナツへの金属製の混入などが発生している。
完全になくすのは難しい
ちなみにサイゼリヤは問題が起きたサラダに使用されていたカット野菜について、玉の状態で納入したレタスから工場で従業員が目視で異物を除去し、洗浄して店舗に搬送したものだと説明。再発防止策として葉を1枚ずつ剥がして裏表を確実に点検するとしていた。飲食店の経営支援を手掛けるコンサルタントはいう。
「大手チェーンでは野菜に付着する虫について、目視チェックと洗浄の過程で取り除いて各店舗に送るという流れが多いが、その段階で非常に小さい虫が残ったままになり、忙しい店舗の厨房で細かくチェックされずに、大きく成長した虫が入った状態で顧客に提供されてしまうということは起こりえる。また、飲食店は客の出入口や原材料の搬送口などを通じて屋外と店舗内が空間的につながっているため、外から虫や異物が入り込むことを完全に防ぐことはできないため、異物混入をなくすのは難しいのが現実」(飲食コンサルタント、以下同)
例えばマクドナルドは国内に3000店舗以上を展開し、同社の公式サイトによれば30分の間に600個ものハンバーガーをつくる店舗もあり、一日の全店売上高が20億円を超えることもある。一チェーンだけでそれだけ大量の商品を毎日、顧客に提供していることから、一定の確率で異物混入が生じてしまうのは避けられないともいえる。
迅速な対応が功を奏し、騒動前の水準に
すき家のネズミ混入では、運営元は1月に問題の発生を把握していたにもかかわらず公表まで約2カ月かかったことに批判的な意見も寄せられたが、公表後の対応は迅速だった。
国内のほぼ全店舗を清掃のために4日間にわたり一時休業とし、害虫などの侵入経路の根絶が難しいと判断した店舗の改装、害虫などの誘引を防止するために廃棄物を保管する各店舗のゴミ庫の冷蔵化、定期的な害虫の発生状況の確認検査、駆除専門事業者による駆除施工などを実施。さらには、ウリだった24時間営業を廃止して毎日午前3時から4時までの1時間を清掃業務にあてる運用への変更も行った。
混入公表直後の4月こそ既存店客数は前年同月比16ポイント減の84.0%となったものの、こうした一連の対策が功を奏したのか、その後は客数は徐々に回復し、9月は同99%と前年並みに。11月は同104.8%と前年同月を上回るまでに回復し、4~9月の既存店売上高は前年同期比1%増と横ばいをキープ。6カ月トータルでみると、すでに騒動前の水準に戻ったといえる。
ちなみに4~11月の牛丼チェーン各社の業績をみてみると、すき家の既存店売上高は4月を除く全月で前年同月比プラス、吉野家は10月を除く全月でプラス。単純比較はできないが松屋フーズホールディングスの松屋、松のや、マイカリー食堂の合計での既存店売上高は全月が前年同月比プラスとなっている。
様子見していた常連客が戻ってきた?
「すき家は一部店舗の改装など衛生管理強化の取り組みを進める一方で、比較的高単価の期間限定商品を切れ目なく発売するなど攻めの取り組みについても手を緩めなかった。“すき家派”“吉野家派”といったかたちで、頻繁に使用するチェーンが固定化している人も一定割合おり、一時的に様子見していたすき家の常連客が戻ってきたという面もあるのでは」
すき家は問題公表翌月の4月には、「うな丼」(980円/並盛/税込)、うな丼と牛丼をあわせた「うな牛」(1190円)、ナポリタンと牛丼をあわせた「ナポリタン牛丼」(690円)を発売し、5月には「スパイシーキーマカレー丼」(690円)と「めかぶオクラ牛丼」(同)、6月には「ぷりぷりエビのビスクソースカレー」(850円)、7月には「ニンニクの芽牛丼」(690円)、9月には「月見すきやき牛丼」(750円)を発売し、その後も断続的に期間限定メニューを投入。話題性で集客を図るとともに、レギュラーメニューと比較して高価格の設定をすることで、売上の底上げにつながった。
また、使用する米について吉野家と松屋は国産と外国産のブレンド米なのに対し、すき家は100%国産米となっている点や、牛丼(松屋は「牛めし」)の並盛の価格が大手牛丼チェーン3社のなかでもっとも安い点なども、実質賃金の上昇で家計が苦しくなるなかで、消費者から選ばれる要因になっているのかもしれない。
「ゼンショーHDはすき家以外にも『はま寿司』『なか卯』『ココス』などさまざまなジャンルのチェーンを国内外で1万5000店以上展開しており、グループ全体としての圧倒的な調達力や原料加工プロセスにおけるスケールメリットなどが、価格競争力に反映されている」
すき家側の見解は?
すき家の業績が早くも回復した理由について、同社広報担当に取材した。
「店舗の衛生環境改善に向けた取り組みが、お客様に一定のご理解をいただけた結果と認識しています。すき家では一部の店舗を除き、4月5日より24時間営業から23時間営業に切り替え、1時間営業を休止して清掃のみ実施する時間を設けています。
また、害虫などの侵入経路となり得る建物の隙間など、懸念箇所に対する点検を全店に対して2度実施し、その点検結果に基づく修繕対応も適宜実施しています。さらに、店舗従業員への衛生教育の一環として、毎月衛生知識テストを実施しています。今後も上記取り組みを継続し、安全・安心でおいしい商品を提供してまいります」(すき家広報担当)
すき家の復活により、牛丼チェーン市場の競争はますます激化しそうだ。
<TEXT/山田浩二>
【山田浩二】
飲食チェーンや学習塾、小売り企業を経てIT企業でシステム開発業務に従事。現在はフリーのライターとして主に企業・ITなどのジャンルに関する取材・記事執筆を行っている。
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