大竹しのぶ(中央)、梅沢昌代(右)、彩輝なお(左)
12月26日(金) 12:00
伝説のシャンソン歌手エディット・ピアフ、その激動の生涯を描いた音楽劇『ピアフ』(パム・ジェムス作)が2026年1月、6度目の上演を迎える。2011年の初演に始まり15周年記念公演となる今回まで、大竹しのぶ主演、栗山民也演出の不動のタッグとともに、15年をともにして来たキャストがふたりいる。ピアフの友人トワーヌ役の梅沢昌代、そして女優マレーネ・ディートリッヒ役の彩輝なおだ。制作発表記者会見に登壇し、晴れやかな再スタートを切った大竹、梅沢、彩輝が、会見後の緩やかな雰囲気の中で、6度目の挑戦について和やかに語り合った。
15年でも何年でも、『ピアフ』ができる嬉しさを嚙み締めて――初演からずっと一緒に歩んで来られたお三方です。4年ぶりにまた『ピアフ』の世界をともに生きる今のお気持ちからお聞かせください。
大竹 もう4年も経ってしまったのか……というのが率直な気持ちですね。あっという間だったね。
彩輝 そうですね。どこか昨日のことのようにも思えますし。4年ぶりといっても、この間にしのぶさんの舞台を観に行ったりもして。
大竹 そう〜、梅ちゃんもいつも来てくれて、時々SNSのメッセージや電話で話してるから。
彩輝 そう、私の母が亡くなった時には優しいお言葉をいただいたりして、そういったことに凄く支えられたと感じています。
梅沢 芝居を観に行ったりしているから、そんな久しぶりな感じではないですよね。しのぶちゃんが凄く忙しいからなかなか会えないけど。
大竹 いやいや、お互いにね。でも電話ではよく話しています。
彩輝 また『ピアフ』が出来る、その嬉しさはもちろんありますね。
梅沢 本当に楽しみです。
――制作発表には皆さんと一緒に、今回初参加となるマルセル・セルダン役の廣瀬友祐さん、そして2013年公演以来13年ぶりの出演となるイヴ・モンタン役の藤岡正明さんがご登壇されました。また、土屋佑壱さんもルイ・ルプレ役で初参加ですね。新たなチームへの期待をお話いただけたらと思います。
大竹 そうだ、土屋さんも初めてだった。
梅沢 すっかり忘れてた(笑)。
大竹 土屋さんは今回、辻萬長さんが初演から4演まで演じていらした役ですね。昔、萬長さんが「車椅子になっていても俺はこの芝居に出るからな。だからずっとやれ」って言ってた。私たちが「無理だよ、もうおばあちゃんだよ〜」とか言っても「いや、お前は出来る」ってね。萬長さんがいないのは寂しいです。でも“初めての現場”という気持ちを持った新しい人が入って来ると、私たちも新たな気持ちで頑張ろう!と身が引き締まります。藤岡君は以前も出てくれて、私は彼の歌が凄く好きなので、今回また一緒にやれるのが嬉しいですね。
梅沢 私は15年でも何年でもやれるならやりたい、という気持ち。新しい人が入って来ると、やっぱり良い緊張感が出てきますよね。上手くいかない時も皆で「こうしてみよう」って話し合って。
大竹 助け合いながらね。
梅沢 そんなふうにしてモノ作りの楽しさを、いつも感じています。もちろんしのぶさんや彩輝さんとは、言わなくても通じるなというところもありますけど。前回をなぞるのではなく、新たに挑戦という感じ。やっぱり歳も歳なので、えいっ!と思わないと出来ないですよ(笑)。でもそうやって、年配のお客様に「あ〜私も頑張ろう」と思ってもらいたいなと。だから私たち怪我をしないように、今回もなんとか頑張りたいですよね。ま、しのぶちゃんはまだ若いけど。
大竹 ちょっとだけね(笑)。
彩輝 廣瀬さんは私、今回初めて共演するので、どんなマルセルになるのか楽しみにしているんです。藤岡君は以前もご一緒しましたけど、このあいだ振付のお稽古があって、なんか凄いパワフルになっていて楽しかったですよ(笑)。
大竹 私も見た。凄いよね〜。
彩輝 見ました?凄すぎて笑いが止まらないというか(笑)、パワーアップしてカムバックして来ましたね。何気なくやっているのかもしれないですけど、彼がこの何年ものあいだに培って来たものを存分に放っている、そのワクワク感が伝わって来ます。芝居に対するエネルギーに凄く刺激を受けますね。
梅沢 藤岡君、歌の稽古も凄く良かったよ。ちょっと(音楽監督の)甲斐さんに言われたら、ガラッと変わるから。
彩輝 そう、引き出しが多い。
大竹 早く見たい〜。
常に前よりも強く新しく、進行形で向き合う稽古場――初演から前回の5演までの道程で、大竹さんのピアフを始め、それぞれに変化、進化したと感じること、また「ここは変わらない」といったことなども伺いたいです。
彩輝 この作品に出会い、つねに同じように深い、充実した時間を過ごして来たので、同じ目線でお互いを見て来たと思うんですね。だから「こう進化された」なんて偉そうなことは言えないかなと(笑)。それぞれにきっと、ピアフも演じるなかで感じたことが血肉になっていらっしゃるだろうし、自分もマレーネを演じながら、同じようにリアルに感じたものを蓄積していっているように思うので。
梅沢 15年生きてきたぶん、世の中も変わっているし、それぞれ個人的にいろんな事件があったりした中で芝居を作るわけだから、それはどこかしら変わっているんでしょうけどね。でも芝居する時に「あそこ変わったね」ということはないですね。
彩輝 そう、振り返って感じるというより、いつも進行形みたいな感覚なんですよね。
大竹 そうだね。振り返るということはまったくしないので。今回、すでに個人での歌稽古は始まっていますけど、全員揃っての本稽古からが、また一からのスタートなんです。こう変化してきた、とかはまったく分からないし、ここからどう変化していくのかも分からないけれど、良い方向に皆で持っていかなくては、とは思いますね。初演から再演、再々演と、やればやるほど難しく感じますし、お客様に「前のほうが良かったかな」って思われるのが一番悲しいじゃないですか。「やっぱり『ピアフ』、良かった!」と思ってもらうためには、本当に前以上に若く(笑)、強いエネルギーを持って、新しく挑んでいきたいなと思います。
梅沢 むしろ、お客さんに聞いてみたいね。何度も観ている方がいたら、どこが違いますか?って。
大竹 もちろん初演に比べたら、もっと細かいところまで心が行き届くようにはなってきていると思います。そうじゃないと再演をする意味がないので。初演の時は無我夢中だったのが、もっと分かり合えるようになっているというか、ねえ?
彩輝 それはありますね。
――初演時、栗山さんがテオ・サラポ(ピアフの最後のパートナー)役の俳優さんに「ギリシャの太陽のように出て来てほしい」と演出された話がとても印象に残っているのですが、稽古場で、皆さんに対してそういった栗山さんの印象的な名言!?があれば、ぜひ教えていただきたいです。
梅沢 私は、「金!金!って感じで」ですね。(一同笑)劇の序盤のトワーヌはとにかくお金がないから、体を売るしかない少女なので。あとは「下品なのをどんどんやって」みたいな。
大竹 フフフ、梅ちゃんには特に言うよね。
彩輝 私は、マレーネはドイツ人だから、日本語の台詞を「ドイツ語っぽく喋って」というのが印象に残っています(笑)。マレーネ・ディートリッヒという世界的に有名な女優さんの華やかさ、その立ち居振る舞いについては、逆に「出来て当然でしょ」みたいな感じでしたけど(笑)。それより後半に出てくる、ピアフの世話をするマドレーヌ役のほうを、初演の時の稽古で「面白いね」と言ってもらえて、え、そうなんだ〜と(笑)。本当に細かい指摘をしてくださるので、楽しいです。
大竹 栗山さんは、私には結構優しいかも。「しのぶちゃん」と言って、いつも優しい(笑)。梅ちゃんが「なんで私は「梅!」で、しのぶちゃんは「しのぶちゃん」なんだ!」って(笑)。
梅沢 フフフ、「梅!梅!」だからね。
大竹 私は梅ちゃんもさえちゃん(彩輝)も、もの凄く信頼しているので。栗山さんの言葉はいろいろあり過ぎて……。ただ、何か栗山さんが喜ぶことをしたいとは思いますね。栗山さんに「あ〜、いい芝居だね」って言ってもらえるような芝居をしたいなと思います。
「目の前にいる人が、本当に人生を生きている!」と感じてもらえるように演じたい
――劇団公演というわけでもなく同じ作品に6度挑むのは、稀なことだと思うんですね。あらためて『ピアフ』はご自身にとってどんな作品か、お話いただきたいと思います。
彩輝 初演の頃はやはり今とは感じ方が全然違ったと思います。再演する毎に多くのことを感じ、学ぶことが出来て、何か育てられている部分もあるなと思いますね。だから毎回、マレーネに関してはドキュメンタリーなどいろんな情報をもう一回さらって、この人の生きざまをどうにか自身に取り入れたい、渾身の思いで演じられたらと。また今回、何が感じられるんだろうと楽しみにしています。
梅沢 この『ピアフ』を何度も観てくださる方がいらっしゃるんですよ。「また観たい。劇場の、あの雰囲気の中で観たい」と。そして「何回も観ているから、あの場面でこうなると分かっているのに感動する」とおっしゃってくださる。今回も「分かっていたけど、ますます良かった」と思われる舞台にしたいですね。また、私が演じるトワーヌは実在した人で、本当に社会の底辺を生きた、その代表のような人。今も世界中にそういう貧しい人がいっぱいいるわけで、その人たちが生きるためにどうしていったのかを考えたりしますね。その人たちを代表する気持ちで演じられたら……と思う時もあります。
彩輝 この6演目のお話をいただいた時に、母はもう寝込んでいたんですけど、「また『ピアフ』をするよ」と話したら「あら〜良かった!」と本当に喜んでいたんですね。「生きる励みになる」と言って楽しみにしていたけれど、叶わなくて……見せてあげたかったです。だから、そうやって人の心を支えている作品なんだなと。
大竹 そうね。やっている自分たちはそんなに意識していないですけども、愛がテーマのお話なので、やっぱり愛というものの大きさ、人間にとって基本であり大事なところなんだとあらためて感じます。だから観る人が癒されたり、生きる希望を持ったり出来るのだろうなと。それだけピアフの歌が凄いのだけれど、歌だけだったらピアフの歌を聴くほうがいいに決まっている。でも、舞台はそこに彼女の人生が入ってくるので、より分かりやすいのだと思います。誰もが皆、愛したいし、愛されたい。その思いがストレートに響いて来る作品なので、とにかく劇場で、生のお芝居を観てほしいですね。「目の前にいる人が、本当に人生を生きている!」と感じていただけるよう、私たちは演じます。
取材・文:上野紀子撮影:杉映貴子
<公演情報>
上演15周年記念公演『ピアフ』
作:パム・ジェムス
翻訳:常田景子
演出:栗山民也
出演:
大竹しのぶ
梅沢昌代 / 彩輝なお / 廣瀬友祐 / 藤岡正明 / 上原理生
山崎大輝 / 川久保拓司 / 前田一世 / 土屋佑壱 / 小林風花
【東京公演】
2026年1月10日(土)~1月31日(土)
会場:日比谷シアタークリエ
【愛知公演】
2026年2月6日(金)~2月8日(日)
会場:御園座
【大阪公演】
2026年2月21日(土)~2月23日(月・祝)
会場:森ノ宮ピロティホール
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2562413