【マンガ】『妹なんか生まれてこなければよかったのに』を最初から読む
「誰も悪くない、でもどうして私だけ」
障害のある妹・桃乃の介助をしている姉の透子。彼女は妹の世話のために、自分を抑えて我慢しながら生きてきました。だけどそれが当たり前ではないと知ったとき、彼女は家を出て妹から離れたいと願うようになります――。
コミックエッセイ『妹なんか生まれてこなければよかったのにきょうだい児が自分を取り戻す物語』は、障害のある兄弟姉妹を持つ“きょうだい児”の繊細な心を丁寧に描き出します。
今回は、著者のうみこさんに、主人公の透子の人物像について、そして、現実の“きょうだい児”を取り巻く問題について伺いました。
■『妹なんか生まれてこなければよかったのに』のエピソードより
高校生になった透子は、妹・桃乃に障害があることを友達に打ち明けられずにいました。
そんなある日、妹とバスに乗ったとき、偶然仲の良い友人たちと遭遇。バスの中で赤ちゃんの泣き声に反応した桃乃がパニックを起こし、その様子を見られてしまいます。
「どう思われるだろう……」と、不安に押しつぶされそうになる透子。けれど、翌日も友達の態度は変わりません。胸をなでおろすと同時に「もしかして私のこと可哀想って思ってる?」と複雑な気持ちに。
そして迎えた友人たちとのお泊まり会。友達の小2の妹が一人で身支度を整え、てきぱき動く姿を見て、衝撃を受けます。「“普通の妹”って、こんなに手がかからないんだ」自分が妹の介助をしている間、友達は自由な時間を過ごしている――そのことをたまらなく羨ましく感じてしまう透子。その頃の透子は、ただただ桃乃と離れたくて仕方なかったのです。
■『妹なんか生まれてこなければよかったのに』著者・うみこさんインタビュー
――主人公の透子は、妹の桃乃のために自分を抑え「私がママを助けなきゃ」といい子でいようとしますね。この透子というキャラクターはどのようにして生まれたのでしょうか?
うみこさん:取材を通して、きょうだい児の方は優しい方が多くて、いい子でいなきゃ!みたいな気持ちが人一倍強い印象を受けました。なので、きょうだい児の方のブログやXでの投稿などを参考に、主人公は何でもそつなく出来る優等生を描きたいと思いました。いい子で自分の本音を隠して生きてきた主人公が、自分を取り戻す再生の話にしたかったです。
お母さんからしたら娘ふたりともかわいい大切な存在だと思うのですが、どうしても障害のある桃乃にかかりっきりになってしまって、何でも出来る姉の透子はほっとかれがちになる。それが幼少期であれば、「私は愛されてないのかな?」って不安に感じてしまうと思いますし、お母さんに愛されたくていい子を演じてしまうんですよね。そういうエピソードはきょうだい児の方に多く共感いただけるんじゃないかと思いました。
それと、きょうだい児の方の問題で挙げられることとして結婚や出産など、ライフステージでぶつかる問題についてもしっかり触れたかったです。
■きょうだい児が悩みを共有できる“優しい場所”が増えるように
――透子にお世話係を任せがちな母と、桃乃の療育には無関心な父。2人とも透子の苦しみについては配慮の及ばない様子が伺えますが、きょうだい児がこのような親との関係性に苦しむケースはよくあることなのでしょうか?
うみこさん:昔は透子の両親のようなケースが多かったのではないかと思います。今の時代は、父親も積極的に育児をするようになってきていますが、数十年前は母親が家事や育児をするのは当たり前の時代でした。障害についてもまだまだ理解が足りていなかったと思いますし、「父親は仕事、母親は家庭」みたいな、世間的な立ち位置があって、それが常識みたいな。だから、当時はそれがおかしいとは誰も思わなかった。
今ようやく、SNSが普及して、みんなが思ったことを言えるようになって、「あれ?うちの家、変かも」と気付ける世の中になってきた。昔に比べたら、少しずついい方向に変わってきているのではないかと思います。
――交際相手の洸平に妹のことをなかなか伝えられず、苦しむ透子の姿が描かれています。実際に、周りの人に打ち明けられない悩みを持つきょうだい児の方は多いのでしょうか?
うみこさん:多いと思います。今まで障害者と関わったことがない子たちは、どう接していいかわからず戸惑うこともあると思います。そういった時の友達の反応などを見て、きょうだい児たちは傷ついてしまう。そういう経験がいつまでもトラウマになって、気軽に人に言えなくなってしまったりするのではないでしょうか。
どんな反応をされるかは人によって違うので、受け入れてくれるかすごく不安だと思うし、それならもう言わない方が楽、という選択をする方も少なくないのではないかと思います。
■「きょうだい児」たちが悩みを共有できる場所を
――お話の後半には、「きょうだい児の会」に参加した透子が自分の気持ちを受け入れてもらえたことに涙するシーンがあります。このような場は、実際にきょうだい児の方々の拠り所として活用されているのでしょうか?
うみこさん:はい。取材させていただいた方にもきょうだい児の会を立ち上げた方がいらっしゃいますし、監修をしていただいたSibkoto(シブコト)さんもきょうだい児支援を積極的にされています。
ただ、障害者の親たちは支援学校などで同じ境遇の仲間が出来ますし、情報交換の場は多いと思うのですが、きょうだい児への支援は、特に地方だとまだまだ少ないのかなという印象です。また、周囲に知られたくないと思う方も多いので、広まりにくいんだと思います。
だからこそ、もっと交流の場が広がってきょうだい児の方の悩みを共有できる優しい場所が増えたら嬉しいです。
***
きょうだい児が抱える不安や孤独は、まだ十分に語られていません。「自分の気持ちを話せる“優しい場所”が増えてほしい。ひとりで抱え込まないでほしい」と話すうみこさん。その願いは、作品を通して多くの共感を呼び、静かに社会の中へと広がっています。
取材・文=宇都宮薫
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