21年ぶりドラマ主演の56歳俳優が「いまだに若々しい」ワケ。答えは“口元”にあった

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21年ぶりドラマ主演の56歳俳優が「いまだに若々しい」ワケ。答えは“口元”にあった

12月24日(水) 8:46

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1996年にデビューシングル「モラリティー」をリリースした及川光博は歌手としも俳優としても“ミッチーの”愛称で長年変わらずにきらきらした魅力を放っている。常に品があり、モラルを心えた表現性に独自の世界観がある。

今年10月期ドラマ『ぼくたちん家』(日本テレビ系)でゴールデンプライム帯ドラマ初主演と聞いて意外に思うかもしれない。『ミステリー民俗学者 八雲樹』(テレビ朝日系、2004年)以来、21年ぶりのドラマ主演作でもある。

“心優しきゲイ”の主人公を演じる本作でも及川光博は変わらずに若々しい。その理由はどうやら及川固有の口角の上げ方に関係しているようだ。イケメン研究家・加賀谷健が解説する。

返答は“3度の聞き返し”キャラ



八木勇征主演ドラマ『推しが上司になりまして フルスロットル』(テレビ東京系、2025年)の記者会見でマネージャー役を演じるすがちゃん最高No.1がこんな推しエピソードを披露していた。

及川光博ファンである彼が推し本人と会話する機会を得て思わずスカしてしまい、「今日も輝き放ってますね」と感想を伝えたというのだ。

すると及川は「はい? 輝き?」と聞き返したそうなのだが、ほんとにそんなふうに言いそうだなと思った。俳優としての及川光博はどんな台詞でも一字一句何の淀みもなくクリアに発音する。

美しい口跡が特徴的だが、きっと現実の彼も他愛ない会話の中でさえ鋭く涼しい顔をしてはきはき聞き返したりするのではないかと想像する。

そんな及川が“心優しきゲイ”の主人公を演じる主演ドラマ『ぼくたちん家』第1話冒頭にもまさにはきはき聞き返す場面がある。

ゲイのためのパートナー相談所に行った主人公・波多野玄一が担当スタッフから相手のタイプなどを聞かれ、少し躊躇しながらファミリーサイズのアイスクリームを一緒に食べてくれる人と答える。

自分で言って恥ずかしくなった玄一は途中で退席しようとする。引き留めるスタッフに対して「はい?」、「へ?」、「太宰?」とすべてを聞き返す。返答は3度の聞き返しキャラ。ひとまずこれが本作の主人公の特性であるようだ。

“心優しきゲイ”役に新鮮味はあるが……



本作は及川にとって『ミステリー民俗学者 八雲樹』以来、21年ぶりのドラマ主演作であり、さらに意外にもゴールデンプライム帯初主演作品でもある。

そこで本作のドラマレビュー記事をいくつか読んでみると、これまでの及川とは一味違う新境地的な演技だというニュアンスでいくつものレビューが評していた。

飼育員として働き、捨てられた動物たちを狭いアパートで保護する“心優しいゲイ”役を及川が演じることには確かに新鮮味がある。

ただしそれは役柄そのものやGP帯ドラマ初主演という事実に感じる新鮮味でもあり、上述した3度の聞き返し場面など、及川光博らしいなと想像をかきたてる台詞の連打は、及川光博自身が醸す固有の演技。

新境地というべきはむしろ確固たる地位を築いたベテラン俳優が中年男役を華やかかつフラットに演じようとする工夫ではないか。

玉木宏と上野樹里が天才的な音大生を演じたドラマ『のだめカンタービレ』(フジテレビ系、2006年)で及川が演じた音楽批評家・佐久間学役は、素晴らしい音楽にときめく興奮を華麗な早口と手振りで表現した代表的名演だった。

どんな役柄だろうと及川が演じるからにはこうした華麗さが醍醐味になってくる。本作の中年男役からも及川が吹き込むなまめかしい空気感が十分だだもれている。

“ミッチー”が演じる中年男役は若々しい?



第1話中盤、昼時にベンチで隣に座ったことをきっかけに顔見知りになった教師・作田索(手越祐也)の元カレである吉田亮太(井之脇海)と玄一がクレープを食べる場面がある。

玄一が段階的に声を荒げていくのだが、亮太から静かにしてくれと指摘され我に返り「あぁっ」と恥ずかしそうに後ろを向く俊敏な動きは、佐久間役の身振りにも似た瞬発力がある。

玄一役の動作の細部にはいかにも“ミッチー”的なきらめきが宿っている。こうした固有のきらきら要素の重要成分の一つである口角をグッと上げる動きはやや控えめかもしれない。

水谷豊主演の人気シリーズ『相棒』など、毒々しいのにお茶目で圧倒的な品格も備える演技(キャラクター性)を押し上げるように支えるのが、グッと上がる口角だ。口角を上げることは、及川本人が若さの秘訣だというくらい署名的な動き。

今回の中年男役は当然年齢的には若くはない。でも若々しい。及川は、その案配を控えめな口角の上げ方で微調整しながら役柄にコミットしようとしているところがある。

第2話で訳あり少女・楠ほたる(白鳥玉季)と保護者になる契約を結んだ玄一は渋々ながらも語気を強めて「うちの娘がお世話になっております」と言う。その時、口角がグッと一瞬だけ上がるのだがわかる。

さらに第8話、パートナーになった索から「ご飯作ります?」と聞かれて「ですね」とにこやかに答える玄一は自然とあふれる笑顔に合わせて口角を上げる。さりげない口角のが随所でときめきを供給するオーガニックなミッチードラマなのだ。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業X:@1895cu

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