ギャンブラー、インフルエンサーのZ李とオカルト研究家・角由紀子が「開運」をテーマに語る対談、第三回。裏社会の「開運テク」からスピリチュアル産業のえげつない実態について言及した第二回に続き、今回はさらに一歩踏み込んで、前世と量子力学にまで話が広がった。二人がたどり着いた「スピとの正しい付き合い方」の最終結論とは……。
ーーZ李さんはところで、角さんの本でどの部分が印象に残りましたか?
Z李
「ハイヤーセルフ」について書かれた部分は共感しましたね。
角
そうなんですね。自分自身を見つめる、もう一つの視点みたいなのは必ずありますよね。
Z李
最近、特にSNSでバズったり有名になったヤツは、自分で作ったキャラに飲まれて壊れていくパターンが多い。自分で作り上げた自分のペルソナ、アバターですよね。
角
アバターに本体が食われちゃう。
Z李
もともとは「こう見られたいな」っていう外向けの顔だったはずなのに、いつしか「自分はこうあるべきだ」と思い始める。で、その作られた自己像に忠実であろうとすると、当然どこかで無理が出る。演じてる存在だから。
角
普通だったら小説家が小説の登場人物を作るみたいなもので、本来は自分とは別のキャラですもんね。
Z李
誰に頼まれたわけでもないのに「自分は◯◯系インフルエンサーだからこうしなきゃいけない」とか、「俺は◯◯系だから」ってアクセルべた踏みしてるみたいなヤツ。そうして、そのまま事件を起こしてしまうケースもある。フォロワーの数が増えたりバズったりすると、「もっとすごいことをしなきゃいけない」と思い始める。たまたま盛り上がった一発芸みたいなもんなのに、それが標準装備かのように錯覚してしまう。
角
SNSって「見られている自分」を勝手に膨らませてくれる装置ですよね。フォロワー数とかエンゲージメントとか、数字でキャラが補強されるから。
Z李
アバターは本来、「ログインしてる間だけ動かすもの」でいいと思うんですよ。そこを切り分けられないと、人って簡単に壊れちゃう。家族を養うお父さん、またはお母さんが抱えるプレッシャーとは違って、他人が期待してる像のほうだからね。
自分が作り出した「設定」に飲み込まれると終わる
角
私も本を出してから、スピ系の講演依頼がめちゃくちゃ増えたんですけど、「教祖コースに乗ってしまう」と思って全部断ったんです。実際、「あれは効きませんでした」とはっきり言いたいモノもありますからね。でも、私みたいに本名で顔出ししてやってる人は、どうしたらいいんですかね。アバターと本体がもうべったりなんですけど。
Z李
それも「世間が見ている角さん」と「本当の角さん」に分けるしかないと思いますよ。そこをごっちゃにすると、誹謗中傷一発でメンタル全部持ってかれるんで。「このキャラに石投げられてるだけ」と思えれば、本体はわりと無傷でいられる。俳優だって、ドラマの中の悪役が嫌われてるだけで、本人が嫌われてるわけじゃないじゃないですか。
角
確かに……。Z李さん自身は、SNSの「Z李」というアバターに飲み込まれてる感覚はないですか。
Z李
俺はそこはけっこう超越してますね。「世間はこういうZ李を見たいんだろうな」というのはわかるけど、「だからといって、四六時中そのキャラをやる必要はない」と思ってる。仕事的にバズらせるためのZ李と、家で猫撫でてる俺は別。
角
飲み込まれないように気をつけてることって、具体的に何かありますか。
Z李
一番良いのは「ログアウトする時間をきっちり作る」ことですね。SNSを見ない時間をちゃんと取る。あと、「こうあってほしいZ李像」に合わせて判断しない。フォロワーが喜びそうかどうかじゃなくて、「今の自分にとって無理があるかどうか」で決める。
角
ペルソナと本体をちゃんと分けるのが、スピでもメンタルでも最低限の防御ラインだと思います。ハイヤーセルフ、「高次の自分」がいわば、ただのバグったアバターだったりするから。
Z李
そう。「本当の自分の声」だと思って聞いてたら、ただのエゴと承認欲求の塊だったりする。そこを間違えると、自分が設定した“悪魔の声”に従って、変な方向に突っ走るだけですからね。
人口が爆増しているのに、「前世記憶」が存在するのは変か
ーー前世や魂の話も、「設定ビジネス」の一種と言えるでしょうか。
角
そうですね。私は一応、前世肯定派なんですけどね。
Z李
俺は「あるかもしれないけど、条件が多すぎない?」派ですね。人口が爆増してるし、卵子と精子がくっついた瞬間に魂がインストールされるのか、着床したときなのか、生まれた瞬間なのか、そのへん全然定義されてないじゃないですか。
角
バージニア大学の前世記憶の研究(※)では、「これはさすがに作れないだろ」と思えるケースも山ほどあるんですけどね。
(編集部注:医学博士イアン・スティーブンソンの研究「The Evidence for Survival from Claimed Memories of Former Incarnations The Winning Essay of the Contest in Honor of William Jame」を起点とし、現在まで同大学において続けられている)
Z李
ただ、その研究をまとめて論文を書いているのも結局大人だから、「盛ってる」可能性もゼロじゃない。俺はFBI心霊捜査官とかも全部漁るタイプなんで、「やらせ」も一通り見てきてるんですよ。
角
身も蓋もない(笑)。もう一つは、私は心霊スポット取材とかしてると、憑依体験というか自分とは全く別の人間の感情が入ってくることがよくあるんです。急に子供を亡くした母親の気持ちになっちゃったりとか……それで、他人の記憶って結構出入りするものなのかなって。それと前世が多分ごちゃごちゃになってるのかなとも思います。
Z李
だから、「霊魂が体を旅してる」というよりは、もっと量子的な現象なんじゃないかって気がしてます。どこかにアカシックレコードみたいな情報の海があって、脳の状態によって、それがたまにジャブっと流れ込んでくるだけ、みたいな。
角
アカシックレコードを持ち出すと、もうなんでも説明がついてしまいますよね。そうじゃないと人口の件も辻褄が合わない。
Z李
そうそう。だから水木しげる先生みたいな幽霊像じゃなくて、乱数とシナプスの話。50年くらいしたら、もうちょっとマシな説明が出てくるんじゃないですかね。
角
その量子的な話でいくと、「シュレディンガーの猫」実験とギャンブルの相性はすごく良いような気がしています。
Z李
めちゃくちゃ相性いいですよ。トランプを6デッキ、シューターに突っ込んでシャッフルした時点で、「順番が全部決まってる」とも言えるし、「めくられるまで結果は決定してない」とも言えるじゃないですか。シュレディンガー的には後者なんですよね。
角
観測するまでは、生きても死んでもいる猫というわけですね。
ギャンブルも、量子力学的に念じると勝率が10%上がる⁉︎
Z李
そう。で、バカラでカードをめくるとき、ただ無心でペッペッてめくる人と、「頼む、ここはこっちで来い」と念じながらめくる人で、勝率が体感10%くらい違うんですよ。若い頃にバカみたいに1万ゲームくらいやって検証した結果なんですけど。
角
検証の仕方がギャンブル依存症(笑)。
Z李
まあそうなんだけど(笑)。でもほんと、姿勢とか、カードの扱い方とか、「敬意を払ってるかどうか」で、確率の揺らぎ方が変わる体感がある。もちろん科学的には証明できないけど、「観測するまで未決定」って前提に立つと、「観測の仕方」が結果に影響してても不思議じゃない。
角
資格試験の合否通知とかも、封筒開けるまでシュレディンガー状態ですもんね。
Z李
だから俺は、ギャンブルでも試験でも、「結果を見るまで、自分がいる世界線をちょっとでもマシなほうにずらそう」と思って動いてます。負け濃厚な世界線から、ちょっとマシな隣の世界線にジャンプするイメージ。
角
それでいくと、悪い世界線に自分から居座りにいってる感じの人も多く見かけます。
Z李
たとえばネットで「中国人出てけ」とか「クルド人いらない」とか1日中ヘイトを書き込んでる人は、自分の時間とエネルギーを全部「他人の足を引っ張ること」に投資してるから、本来自分の人生を良くするために使えたはずのリソースが全部消えてる。そりゃいいこと起きづらくなるでしょ、って話です。
角
引き寄せや開運って結局、「どの世界線に乗り続けるか」の話なのかもしれないですね。
Z李
そうだと思います。善行積んで、人に恨まれないようにして、自分のキャラと本体をちゃんと切り分けて、変なスピに依存しない。それやってれば、とりあえず「最悪の世界線」だけは避けられるんじゃないですかね。
角
地味だけど、一番現実的なスピリチュアルですね。
Z李
それくらいがちょうどいいと思いますよ。
【Z李】
座右の銘は「給我一個機会、譲我再一次証明自己」。経歴不詳、表と裏の境界線上にいるインフルエンサー。X(旧Twitter)のフォロワー90万人超。週刊SPA!にて2021年より長編小説『飛鳥クリニックは今日も雨』を連載、2023年に書籍化。2025年にてドラマ化もされた(配信サイトLeminoにて視聴可能)。新著『君が面会に来たあとで』(幻冬舎)。
【角由紀子】
オカルト研究家。上智大学文学部を中退後、2013年にオカルト専門メディア「TOCANA」を立ち上げ、約8年間編集長を務める。自身のYouTubeチャンネル「角由紀子のヤバイ帝国」は登録者数30万人超。主な編集本に『見つけてください』(横澤丈二著/徳間書店)、著書に『引き寄せの法則を全部やったら、効きすぎて人生バグりかけた話』(扶桑社)など。
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