人生に迷ったとき、元気がほしいとき、あるいはただ日常を忘れて泣きたくなるとき――そのような瞬間にそっと寄り添う存在がアニメである。アニメには人生のヒントや生きる力が詰まっている。
本コラム『アニメ大先生』は、「人生で大切なことはすべてアニメが教えてくれる」をテーマに、アニメを通じて得られる学びや気づきを綴る連載である。
連載第15回に登場するのは、11回目の出演となる八木美佐子アナウンサー。今回は”聖夜に観たいおすすめアニメ”として、『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』をピックアップ。戦争という過酷な現実の中で変化していく少年の心情を軸に、本作ならではの切なくも深い魅力を語ってもらいました。
◆聖夜におすすめ『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』
メリークリスマス!みなさん、どう過ごされていますか?私は愛犬に何をプレゼントしようか、まだ悩んでいます。毎年、クリスマスの街はやけに明るい顔をします。イルミネーションやツリー、そわそわと浮き立つ空気。その煌びやかさは嫌いじゃないですが、かえって孤独を感じることもありませんか?え……私だけでしょうか?
クリスマスソングも、名曲ほど失恋ソングが多いそうです。たしかに稲垣潤一の「クリスマスキャロルの頃には」も、Bzの「いつかのメリークリスマス」も聴きたくなります。これは世間があまりに明るいゆえ、悲しい曲で心の均衡を保つためだと私は仮説を立てています。だから、聖夜にあえてエッジの効いたアニメを観るのも一興です。もはや風物詩となった『School Days』最終話を観て「Nice boat.」とSNSで呟くのも良いでしょう。
私はクリスマスの夜にこそ、シリーズ初のOVA作品『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』を勧めたいです。全6話なのも一気見しやすいです。
舞台は一年戦争末期の中立コロニー。戦争の影響は物資不足程度で、日常は平和なままです。だからこそ子どもたちは、戦火でさえ花火のように綺麗だとはしゃいでしまいます。
主人公のアルもまた、戦争に憧れを抱く11歳の少年です。
ある日、まるで『ラピュタ』の序盤のように、被弾したザクが落ちてくるのを見つけます。
――親方!空からザクが!
「ツゥ〜!……まだ熱いや!」落ちたばかりのザクは装甲がまだ熱く、アルはそれすら面白がってしまうのです。出来立てのたこ焼きで火傷をした時の私と同じノリでした。
そのザクから現れたジオン兵のバーニィと出会うことで、物語が動き始めます。
銃口を向けられてもアルは引かず、相手が兵士だと知っても質問が止まりません。公園の戦争ごっこでは物足りない彼にとって、本物は憧れの存在です。
その後、アルはバーニィと行動を共にし、平和だったコロニーに忍び寄る戦争を間近で体感します。やがて、クリスマスに決行される、とある作戦を知ってしまうのです――。
”反戦作品”とも呼ばれるのは、アルの戦争への憧れが少しずつ解けていく過程の描き方が秀逸だからだと思います。これまで見過ごしてきた戦争の本質に気づいて、無邪気さが、どんどん、とことん濁る。観ている私たちもどん底にまで突き落とされます。
「正義/悪」の線引き――戦争にはそのボーダーがないことを、パイロットではない民間人の視点で思い知らされます。
戦争が終わった後、学校の朝礼でアルは一人、涙を流します。しかし、クラスメイトはいつもの調子で「もっと派手な戦争が始まるさ」と彼を慰めます。明るいBGMと日常が続くほど、戦争の顛末を知っている視聴者の胸には、言葉にできない痛みが残るのです。私は初見、数日間は虚無感に襲われました。
『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』は、英雄譚の外側で起きる小さな悲劇を描いた作品です。今年もクリスマスのイルミネーションが眩しければ眩しいほど、刺さるに違いありません。
「嘘だと言ってよ、バーニィ」……有名なこのタイトルの重さを知る時、きっと忘れられないクリスマスになるはずです。よい聖夜を。
【関連写真】八木さんがクリスマスマーケットに行った撮りおろし写真をチェック!
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