福山雅治演じるラストマン(最後の切り札)こと、全盲のFBI捜査官・皆実広見と、大泉洋演じる複雑なバックグラウンドを持つ刑事・護道心太朗。彼らがバディを組み、さまざまな事件を経て“最強のバディ”になっていった、TBS日曜劇場放送の『ラストマン‐全盲の捜査官‐』。続編熱望の声にこたえて、この冬は映画とSPドラマとして帰ってくる。このタイミングに改めて、ヤングケアラー、キャンセルカルチャー、ネット私刑など、連続ドラマ時に取り上げられたテーマをピックアップしたい。
【写真】福山雅治×大泉洋、最強バディがリアルな社会問題に立ち向かう姿
◆第1話ヤングケアラー問題に向き合う「助けてくれる人は必ずいます」
初回から、大きな問題にぶつかっていった皆実と心太朗。挑んだのは、都内で相次ぐ無差別連続爆破事件だった。早くから犯人の目的が“復讐”だと見抜いた皆実は、渋谷英輔(宮沢氷魚)の家へと行き着く。渋谷は、病を抱える母親をひとりで世話し続けている“ヤングケアラー”だった。
介護のために学業を諦め、就職もできず、誰にも助けを求められぬままに社会から孤立し、絶望していった渋谷。皆実が語りかける。「助けてくれる人は必ずいます。私は多くの人に助けられて生きてきました」と。そして「世の中には不必要な人間なんて、いないんです」と断言した。
放送後は、SNSを中心に“無敵の人”という言葉が飛び交ったが、劇中でそうしたいわゆる“レッテル”は貼っていない。皆実は彼に寄り添って対話し、事件を解決するとともに、渋谷と視聴者に“助けを求める強さ”を説いた。
◆第3話不倫より殺人のほうが…いびつな価値観
若手俳優の本条海斗が刺殺体で発見された。第一発見者は、人気刑事ドラマの主演を務める大物俳優・羽鳥潤(石黒賢)。やがて羽鳥が自首。しかし皆実は羽鳥が真実を隠していると察知し、真犯人がドラマのプロデューサーだと突き止める。
羽鳥がうその自白をした理由に、今の世の中が映し出された。彼は、犯行時刻に共演女優と不倫していた。俳優としての社会的な死を恐れるあまり「不倫がバレるくらいなら、正当防衛の末の殺人として捕まる方がマシ」と考えたのだった。
著名人による過去の不適切発言、不倫やスキャンダルによって湧きおこる、いわゆる“キャンセル(排除)カルチャー”への恐怖を、殺人という重罪を掛け合わすことで、強烈な皮肉を放つとともに、皮肉にとどまらない現実を突きつけた。
◆第8話SNS社会に一石“ネット私刑”が大事件に
さらに“ネット私刑”が事件に向かわせた悲劇を描いたのが第8話。皆実と吾妻ゆうき(今田美桜)の乗ったバスがジャックされた。犯人の清水拓海(京本大我)は乗客に事件をSNSで拡散するよう指示し、ライブ配信をスタート。目的は、2年前に起きた「幼稚園児置き去り死事件」の真犯人を、視聴者に特定させること。彼は、事件の犯人と同姓同名だったというだけで犯人と決めつけられ、人生を地獄に突き落とされた“ネット私刑”の被害者だった。
ジャックされたバスの運転手こそ、当該事件の運転手だったが、不起訴になっていた。清水は銃を手に配信を見ている視聴者に叫んだ。「俺が一番ムカついているのは、今これを見て楽しそうにつぶやいてるお前だよ!」「俺は今からコイツ(運転手)を処刑する。死刑台のスイッチを押したのはお前だ」と。しかし駆けつけた心太朗がさらなる真実を伝えた。不起訴には不起訴になる理由があったのだ。「お前はうわさと書き込みに踊らされて何一つ自分で確かめることもなく、こんなバカげたことをしでかした。お前も想像力もないバカなネット民と全く同じじゃねーか!」との言葉に茫然自失になる清水。
ネット私刑の被害者でありながら、同時に彼自身が、ネットの不確かな情報に踊らされ、別の悲劇を生み出そうとしていたのだった。ネット社会の闇の深さを痛烈にあぶりだした回になった。
◆社会的問題を前に、“その人”に向き合い打破
『ラストマン』は、縦軸に「日本型組織によって隠ぺいされた闇」という巨大な問題を描きながら、各回で横軸として痴漢えん罪や承認欲求の暴走、格差社会など、ほかにも皆が当事者になりうるテーマを放っていった。
それを、物事を心で見る姿勢を貫く皆実が、心太朗をアテンドに、やがて真のバディとなって、事件の奥にいる“その人”に向き合って打破していった。しかし放送から2年半が経つも、『ラストマン』の突きつけた闇はますます深くなっている。(文・望月ふみ)
ドラマ『ラストマン-全盲の捜査官-』は、U‐NEXTにて全話配信中のほか、TVer、TBS FREEにて配信中。TBS公式Youtubeチャンネルでは第1話を期間限定で無料配信中。
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