【講談社・野間省伸社長×クロエ・ジャオ対談】ハリウッドに“ガーデン”となる新たなスタジオを立ち上げた真意

クロエ・ジャオ(左)、野間省伸社長(右)

【講談社・野間省伸社長×クロエ・ジャオ対談】ハリウッドに“ガーデン”となる新たなスタジオを立ち上げた真意

12月24日(水) 11:00

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野間省伸代表取締役社長率いる講談社が、ハリウッドに新たなるスタジオを立ち上げた。“Inspire Impossible Stories”を掲げているグローバル戦略を推進する同社が設立したのは“Kodansha Studios”。そのパートナーとなるのは、アカデミー賞受賞監督であるクロエ・ジャオ氏と、彼女が一緒に立ち上げた制作会社“Book of Shadows”の共同創業者COOのニコラス・ゴンダ氏だ。野間省伸代表取締役社長と、クロエ・ジャオ氏に話をうかがった。(取材・文・写真/関口裕子、編集/大塚史貴)

――Kodansha Studios設立、おめでとうございます。そして東京国際映画祭でのクロエ・ジャオさんの黒澤明賞*受賞もおめでとうございました。まず、野間省伸社長にお聞きします。Kodansha Studiosの最高クリエイティブ責任者に、映画監督で制作会社Book of Shadowsのクロエ・ジャオ氏を、同社の共同創業者COOのニコラス・ゴンダ氏をCOOとして迎えようと考えられた理由を教えていただいてもよろしいでしょうか。

野間我々も、さまざまなハリウッドの関係者の方にお会いしてきました。その中で、クロエやニック(ニコラス)と個人的な信頼関係を築けたというのが一つ。なおかつ、中国で生まれ、英国やアメリカで教育を受け、東洋、西洋の文化を理解する非常に稀な映画監督であるクロエなら、東と西の文化の架け橋になってくれるのではないかと思いました。しかも、日本の漫画、アニメなど様々な文化に対しても深い造詣がある。パートナーになっていただくならクロエ以上に適任な方はいないだろうと我々は考えました。

――このスタジオは、日本の漫画やアニメーションなど、多数のIPと関わりを持つことを強みにしていくわけですね。

野間必ずしもそれだけではありません。日本も世界の一部、地球上の一つのエリアに過ぎない。日本ということを必要以上に意識せずに、ユニバーサルに通用するコンテンツを映像の世界で展開できればと思っています。クロエたちが、それらをどのように料理をしてくれるのか、非常に興味深く思っております。

――クロエ・ジャオ氏にお聞きします。信頼にもとづいた依頼があってスタジオを作ることになりましたが、そこには漫画というIPと深く関わりを持つ会社との仕事であることへの魅力もあったのでしょうか?

ジャオ中国にいた子どもの頃は、「美少女戦士セーラームーン」に夢中でした。その後、大きな影響を受けたのは、「金田一少年の事件簿」や「攻殻機動隊」です。10歳の少女の頃にこういった作品に触れたわけですが、漫画やアニメはそこからさらなる進化を遂げ、例えば「進撃の巨人」などのように、より質や奥深さを増しながら、世界中に広まっていきました。日本の漫画やアニメはまさに私の骨と肉を作ったといえます。

――漫画やアニメのどんな部分に惹かれたのか、もう少し説明いただけますか?

ジャオ少女の頃の私は、漫画やアニメはパンクでアウトサイダーなものというイメージを持っていました。しかし、今日ではここまでメジャーになっている。こんなふうになるなんて誰が予想できたでしょう。おそらく大きな要因は、漫画やアニメが人間の内面にあるあらゆる側面を包含している点にあり、誰も排除しないからなのだと思います。そこが若い世代に上手くフィットした結果なのではないでしょうか。彼らは作品に自分を投影し、見出しているように感じます。ハリウッドで望まれるストーリーテリングの多くは、勧善懲悪など白黒がはっきりしていて、曖昧な部分のないものが多いように思います。でも若者は、明るい面だけでなく、暗い部分を含む、あやふやな感情を見たいと強く求めている。私はその多様性を持つ日本の漫画やアニメに惹かれたのです。

――マーベルのMCUシリーズとして作られた、クロエ・ジャオ監督の「エターナルズ」(2021)を拝見したとき、それまでのシリーズ以上に曖昧な闇を感じ、興味深く思ったことを思い出しました。

ジャオありがとうございます。

――Kodansha Studiosから発信される作品には、そのような新しい世界を見ることができるのでしょうか。スタジオを持ち、自社で制作していくことの展望、注力する方向性など語れる範囲で教えてください。

野間理解しているのは、この事業は、我々にとって非常に大きなチャレンジであり、クロエやニックという強力なパートナーと進めるにしても、簡単に成立するものではないということです。まず会社としてのチームワークをしっかり固め、人間関係の構築、制作やプロモーション、事業展開など、我々がまだ経験してない部分を、彼らの経験、人脈、ノウハウをお借りしながら、一歩一歩時間をかけて、一緒にやっていこうと思っています。もちろん日本でも、ハリウッドでも全ての映画が成功するわけではありません。だからこそ一緒に、考えながらやっていく。特に、ここを気を付けなければということではなく、通常のビジネス同様、大切なことは地道に行なっていく。その上で、我々にないものは彼らに求め、彼らに対しては我々の持てるものを出していくという形で、良いものを作っていければと思っています。

――ジャオ氏以外の作家、ディレクターが作品を手掛けることも考えているのでしょうか?

野間もちろん。

ジャオもちろん。

野間講談社の作品だけではなく、我々がお付き合いのあるさまざまな作家さんの作品も含め、権利の委託を受けることができれば、喜んで彼女に紹介したいと思っています。クロエは、もちろん才能あふれる監督ですが、素晴しいプロデューサーでもある。クロエが「この監督を」と指名することもあるでしょうから、そこはもう幅広く考えています。

――ジャオさんはKodansha Studiosは“ガーデン(庭)”であってほしいと設立発表会見でおっしゃっていたことが非常に印象に残りました。ガーデンとはどういう意味なのか。そしてどのように仕事を進めていきたいと考えているのか教えてください。

ジャオ「エターナルズ」のとき、私は長い時間をマーベルで過ごしました。プロデューサーのケビン・ファイギは、私たちにその場を提供し、映画製作者にとってより良い環境をどう創り出すかを教えてくれました。それはまさにマッチング。つまりガーデンを作り出すことでした。植物に例えますと、適切な土壌温度と、それに即した植物をマッチングさせ、育てるということ。

つまり適切なストーリーテラーが、適切な作品と結びつくことができるようにしたいのです。映画の作り手や脚本家には、原作者の話に耳を傾け、作品が描くものを読み取れる人を選ぶ。そして、そんな彼らが働きたいと思える環境をKodansha Studiosが用意する。ある意味、結婚のようなものです。結婚がうまくいくかどうかは、8割がた最初の原作とフィルムメーカーの組み合わせにかかっていると思います。その後はスタジオのシステムに邪魔されないよう、十分な時間と支援を与えること。伝統的なハリウッドスタジオの仕組みには、人事による去就など、プロジェクトの進行を妨げるさまざまな外的要因があるからです。フィルムメーカーとプロデューサーがそのような外的要因に惑わされることなく、腰を据えて作品作りに取り組める環境が必要なのです。私たちはそれをガーデン(庭)と呼んでいます。そうすることで彼らは真に創造的にあり続けられる。ガーデンの小さな苗木は、そうして根を張り、強くなるのです。

――非常に素晴らしい考え方、コンセプトだと思います。「ノマドランド」の時も、常に居場所を明かさないフランシス・マクドーマンドさんに、どうにか連絡を取り、出演をオファーされたと聞きました。人と人との繋がりを大事にされるクロエさんならではのエピソードだと思いました。

ジャオ本当に重要なのは、正しいことを一緒に行う人を見つけることなのです。

――これまでも、長きにわたってウォルト・ディズニー・スタジオさん、オンラインゲーミングプラットフォームのRobloxさんらと、さまざまな形で提携をされてきた講談社さんですが、今回のフェーズは明らかにそれとは異なるものなのですね。

野間はい。今回は我々も積極的に関与していくところで大きく異なります。日本のクリエイターの方々も参加することによって、また新しいやり方も構築できるのではないかと思っています。これまではライセンスなど全ての権利を、スタジオにお預けすることが多かったのですが、企画会社としてKodansha Studiosを介在させることで、日本の作家、クリエイターも積極的に意見できる場にしたいと考えています。ライセンスを供与して終わりではなく、アイデアを提供し、制作に関与し、そこをスタートするつもりでかかわっていく。クロエのガーデンにいろいろな種を植え、花や木を育てていきたいと思っています。

*日本が世界に誇る故・黒澤明監督の業績を長く後世に伝え、新たな才能を世に送り出すため、世界の映画界に貢献した映画人、映画界の未来を託していきたい映画人に贈られる賞。

【作品情報】
エターナルズ

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