12月16日、長野県須坂市で市議会議員有志が三木正夫市長への不信任決議案を提出したが、反対票が賛成表を上回り、否決された。同市は’25年3月、ふるさと納税の返礼品の産地が偽装されていたことを公表。6月に制度の対象から除外され、2年間、寄付を受けられない状態となっている。
作家の乙武洋匡氏は、「ふるさと納税が“お得な買い物感覚”で広がった結果、起きている深刻な事態」について警鐘を鳴らす。(以下、乙武氏による寄稿)
ふるさと納税と市税流出
長野県須坂市の三木正夫市長に不信任決議案が提出された。理由は、ふるさと納税の返礼品を巡る産地偽装問題。「長野県産シャインマスカット」と謳っていたものが、実は山形県産だった。不信任案は否決されたものの、三木市長は反省の意を示している。
もちろん、産地偽装は許されないが、現状では利用者のすべてが産地を気にしているわけではない。どちらかと言えばふるさと納税はただの「わりのいい買い物」になってしまっている側面があるのではないだろうか。
ここで、ふるさと納税の本来の趣旨を確認しておきたい。総務省にあるふるさと納税の解説ページを要約すると、「地方で育った人が進学・就職などで都市に移住しても、任意でふるさとに納税できる制度」だ。果たして現在のふるさと納税は、本来の趣旨に則っているだろうか。
こう書くと、おそらくは「都会は税収が潤沢にある。もっと地方に振り分けるべきだ」という声も聞こえてくるだろう。だが、「首都圏と地方の税収格差の是正」はすでに地方交付税を通じて行われており、その役割をふるさと納税に背負わせることは本来の趣旨に反するはずだ。
産地偽装より重大なのは住民税の流出に歯止めがかからなくなっていること
ふるさと納税では、主に都市部の税金が地方に流出している。そのあおりを最も食らっているのが東京都だ。ふるさと納税による’25年度の減収額は2161億円。これまでの累計は1兆1593億円に上るという。減収額2161億円の内訳は、都民税862億円、区市町村民税1299億円となるが、たとえば東京都が保育料などの無償化に費やしている予算は763億円だ。862億円もの流出がいかに甚大な“被害”であるかがわかるだろう。
ため息をついているのは、東京都だけではない。都内の基礎自治体からもふるさと納税への寄付(先払い)を通じて、多額の区市町村民税(住民税)が流出している。
たとえば練馬区では、ふるさと納税による’25年度の住民税の流出額を56億円と見込んでいる。練馬区選出の尾島紘平都議は、「50億円あれば学校が改築できますし、ごみの収集・処理などは半年で58億円かかっています。区民の皆様には、ぜひそうしたことも考えていただければ」と顔を曇らせる。
おいしい肉やフルーツが届けば、誰だって笑顔になる。だが、それによって自身が住む自治体の行政サービスが低下していってしまうことは、ぜひとも多くの方に知ってほしい事実だ。
<文/乙武洋匡>
【乙武洋匡】
1976年、東京都生まれ。大学在学中に執筆した『五体不満足』が600万部を超すベストセラーに。卒業後はスポーツライターとして活躍。その後、小学校教諭、東京都教育委員などを歴任。ニュース番組でMCを務めるなど、日本のダイバーシティ分野におけるオピニオンリーダーとして活動している
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