独身時代は同時に「30人の女性」と遊んでいた“車椅子の男性”が、妻との結婚を決意するまで。初対面の義父から「驚きの一言」が

神威龍牙さん

独身時代は同時に「30人の女性」と遊んでいた“車椅子の男性”が、妻との結婚を決意するまで。初対面の義父から「驚きの一言」が

12月23日(火) 15:54

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特撮ヒーローを連想させる車椅子に乗って、その男性は現れた。腕や首にアクセサリーを纏い、サングラスをしている。顔から肩、胸と視線を走らせると、男性の身体が上半身で途切れているかのように思えた。彼の名前は神威龍牙さん(@camuiryuga)――出生時に臍帯が首に巻き付いたことで仮死状態になった。医師からは「1週間も生きられないから、死亡届のために名前をつけてください」と言われるほど生存は絶望視された。

時は流れ、奇跡的に生命を繋ぎ止めた彼は現在、44歳。世界初の“車椅子エンターテイナー”として多くの人々に勇気を届ける。歌手や俳優、モデルとして活躍し、ヒーローショーも主催している。そんな龍牙さんの半生に迫った。

幼稚園のときに「たいへんな状態」と気づく

――最初からお身体の話題で恐縮なのですが、現在のお姿は、出生の際に臍帯が巻き付いていたことによるものなのでしょうか。

龍牙: 全然構いません、僕はNGがないので(笑)。そうですね、原因はわからないのですが、背骨が完全に形成されておらず、ちょうど正座をしているような状態のまま固まってしまったんです。そのためお産のときにうまく出ることができず、長い時間、臍帯が首に絡みついてしまって酸素がいかなかったようです。

――自分と他の人の違いに気がついたのは、いつ頃でしょうか。

龍牙: 家族は足で立っているのに、自分にも足はあるけど小さくてくっついているだけなので、立てません。明らかに違うので、そりゃ最初から気づいてましたよ(笑)。ただ、足が機能しないことが、健常者にとってたいへんな状態なんだと気づいたのは、幼稚園くらいでしょうか。何しろ、自分には最初からないのでわからないんですね。幼稚園では、「足なし人間」と言われもしました。成長してからも、幼い子が僕を見て「足がない!」と驚いたこともあって、「やっぱり健常者にとっては、足がないようにみえるのはショックなことなんだなぁ」と思いました。

鬼ごっこのときには「車椅子から這い出て…」

――非常に大きなハンデになりうると思うのですが、日常生活ではあまり感じたことはありませんか。

龍牙: もちろん便利ではないのでしょうけれど、もともとの性格が勝ち気なんです。たとえば小さい頃に鬼ごっことかをしても、みんな僕が鬼になると高いところに逃げるんですよ。来られないと思ってるから。「なめやがって」と思って、車椅子から這い出て自力で捕まえたりしていました。虫取りなんかも大好きで、草むらのなかに分け入って、同級生よりもたくさんの虫をゲットしたりもしていましたね。“負けず嫌い”のおかげで、この身体でも自分ひとりでたいていのことができるようになりました。

同時に「30人の女性」と遊んでいた独身時代

――龍牙さんとお話をしていると、そのポジティブさから「さぞかしモテるだろうな」と想像するのですが。

龍牙: 否定はしません(笑)。現在は3人の子どもを持つシングルマザーだった女性と結婚して、3人のパパになれたので、女性の影はすっかりなくなりました。でも、かつてはいろんな方と同時に遊びました。

――同時進行ですか!最高人数をお伺いしても……?

龍牙: 数えたことはありませんが、30人はいかなかったと思いますね。30人を超えてくると、1ヶ月でローテーションを回せないじゃないですか(笑)。ただ、僕は女性と親しくなる前に、必ず「好いてくれるのは嬉しいけれど、交際はしたくないので」とはっきり言っていました。同時に、「他にも女性がいるけど」とも。

「結婚を考えた女性」との残酷な別れ

――そこまで頑なに、ひとりの女性に決めなかったのは、なんででしょうか。

龍牙: 高校時代、僕には結婚を考えた女性がいたんです。相手は、僕が入院していた先の病院に来ていた看護学生でした。2年近く交際して、お互いの両親にも会うようになった頃、彼女の様子がおかしいので問いただしてみたんです。すると、相手方のご両親が障害者である僕との将来を望んでいないようでした。彼女自身にどうしたいのか聞いてみても、「やっぱり親には逆らえない」と。

――それはショックでしょうね。

龍牙: もちろん僕のなかで小さい出来事ではありませんでした。ただ、僕は5歳からチェアスキーをやっていて、ジャパンパラリンピックでも優勝するほど打ち込んだのですが、切磋琢磨してきた先輩たちも似たような恋愛事情を辿っているのを知っていました。だから、「とうとう自分にもこういう経験をするときがきたか」と感じました。

とはいえ、どれほど「好きだ」「愛している」と言っていても、終わりが来ればあっけないなと感じたのも事実です。他方で、自分が手塩にかけて育てた娘が、わざわざ障害者と結婚しなくてもいいじゃないかと思う気持ちもまったく理解できないわけではないので。「障害者との将来を考えられない」と言われてしまえば、そこからは僕が相手のご両親を説得するような話ではないと思うんですよね。

妻との出会いと、関係性が劇的に変わった出来事

――翻って、現在は奥様がいらっしゃいます。ということは、「たったひとり」にお決めになった。それはどんな心境の変化ですか。

龍牙: 妻との出会いは、10年近く前になります。地元で僕が主催しているベイブレードのイベントに、妻が子どもを連れてきていたんです。そのときにいくらか言葉を交わしました。それから数年して再会し、彼女が離婚したことを知りました。仲良くなり、僕が運営しているYouTubeチャンネルの手伝いなどをしてもらうようになりました。ただ、このとき、まだ妻は30人の女性のひとりです(笑)。

関係性が劇的に変わったのは、僕のライブのときです。普段、ライブ前は食事を摂らないようにしているのですが、その日に限ってみんなで食事をしたんです。そこで腹を下してしまって、衣類を汚してしまったのです。彼女はそんな僕に嫌な顔をひとつもしないで、すべて洗ってきれいにしてくれて、おかげで僕はステージに立つことができました。

初対面の義父から驚きの一言

――献身的ですね。

龍牙: 元看護師だからか、非常に手際よく処理してくれて、感謝の念に堪えませんでしたね。もちろんそれだけではなく、ある年のクリスマスに“ミニスカサンタ姿”で僕の実家に訪ねてくる奇抜な面もある女性なんです。直接は会っていないものの、インターホン越しにそれを見ていた母が、のちに「あなたに合うのはああいう面白い子に違いない」と言ったほどです。それまで実家で同居していた母は、突然「来年家を出る。きっとあなたは私がいたら結婚しないでしょう」と言い出したんですよね。直接は言わなかったけど、妻と一緒になってほしかったのかもしれません。

一人暮らしになってから、頻繁にお腹を壊してしまう僕を、妻は支えてくれました。ときには夜中になっても来てくれて、面倒をみてくれたんです。結婚を決めたのは、妻の父親の誕生日でした。ひょんなきっかけでご自宅にお邪魔したんですね。そこで初対面のお父さんが、いきなり「結婚してください!」と。一瞬、「僕とお父さんが?」と思うような勢いでした(笑)。

かつて障害があることを理由として結婚を断られた僕にとっては、親御さんから「結婚してください」と言ってもらえる日が来るとは思っていなくて。素直に嬉しかったです。妻のお父さんも、僕とかかわっているときの娘や孫の安心した様子に「この人なら任せられる」と感じてくれたようでした。

「品行方正な障害者」でいることが窮屈だった

――現在、龍牙さんはいろいろなヒーローイベントを企画・主催しています。エンターテイメントに進むことを意識したのはいつくらいでしょうか。

龍牙: それこそ、幼稚園くらいのときは歌手になるだろうなと思っていました。学生時代にはテレビCMに出演させてもらったり、さまざまな活動をしてきました。それぞれ良い体験だったのですが、世の中が“清らかな障害者”を求めすぎていることはずっと感じていました。ある時期には「障害者の希望の星」みたいな扱いをされて、品行方正な障害者という枠組みにいることが窮屈だったんですよね。障害があってもいろいろなことに挑戦していいし、ときには悪態をついてもいいと僕は思うんです。

一方で、僕は昔から、いじめられている子を公然と守って、今度は自分がいじめの標的になることがままありました。僕の根っこにはやっぱり正義感がある。だから、ダークヒーローがちょうどいいのかなと思っているんですけど。

――これからの展望を聞かせてください。

龍牙: 障害があることを理由に、人前で何かをすることをためらっている人は少なくないと思います。けれども、障害者も健常者も関係なく、自分がやりたい表現をすればいいというのが僕の意見です。僕のステージをみて、「こいつがここまでできるなら、自分もやってやるか」って気概を持った人が現れるのも面白い。僕をみてもわかるように、障害があるから清廉潔白って時代でもないし、多様な人がいていいはず。フラットにひとりの人間として、少しでも多くの人たちの心に影響を与えられるステージをこれからも作っていけたらいいなと思っています。

=====

人と異なる姿形で生まれれば、その人格にさえ影響を及ぼしかねない。残酷なことに、どれほど平等や公平が声高に叫ばれても、水面下での差別意識を根絶することは極めて難しいからだ。龍牙さんが届けるエンターテイメントは型破りだ。既成概念も旧態依然の常識も、あっという間に打破する存在感を放つ。

いくつになっても負けることが嫌い。龍牙さんはきっといつまでも、そんな剥き出しの心意気で、日本のエンターテイメントの歴史的な起爆剤であり続ける。

<取材・文/黒島暁生>

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki

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