東京都千代田区に誕生した「CineMalice(シネマリス)」(2スクリーン、131席)は、本日2025年12月19日に開業した真新しいミニシアターです。
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【フォトギャラリー】神保町・お茶の水エリアに生まれた新たなミニシアター「CineMalice(シネマリス)」
有数の古書店街として知られ、“日本のカルチエ・ラタン”とも称される神保町・お茶の水エリアは、かつて「岩波ホール」があった地域で、映画ファンにとって“ミニシアター発祥の地”とされる場所。その地に誕生した同館は2スクリーンを備え、シアター1ではロードショーおよび特集上映を実施。シアター2では準新作や旧作を中心に上映する。上映作品は、メジャーからインディペンデントまで国内外を問わず幅広くセレクトする。シアター2では、同館最大の特徴である「サブスク制」と称する鑑賞システムを導入。月額2500円、または年額2万2000円(ともに税込)の会費を支払うことで、年間約50本の上映作品が見放題となる。
支配人を務める稲田良子さんは、「映画館で映画を観る楽しさを、より多くの人に届けたい」と語り、特に「若い世代にこそ映画館へ足を運んでほしい」と思いを明かす。もともとは法律事務所で秘書としてキャリアを重ねてきた稲田さんだが、仕事に区切りを感じたことや後輩たちの成長を目の当たりにしたことで、「新しいことに挑戦したい」という思いが芽生えたという。
そんな折、ミニシアターの先駆けである岩波ホール(2022年7月29日閉館)や、稲田さんが足繁く通っていた飯田橋ギンレイホール(22年11月27日閉館)が相次いで閉館。一方で、東京・墨田区菊川にある個人経営(※)の映画館「Stranger」(22年9月16日開業)の存在を知り、「こうした形で映画館を続ける道もあるのではないか」と考えるようになったという。実際にStrangerを訪ね、映画館オープンのための知識やコツ、運営のノウハウを学ぶなどして開業に向けて準備を進め、その過程を随時X(旧Twitter)で情報発信してきた。そこでは協力を名乗り出てくれた人々もいたそうだ(※2024年2月よりナカチカ株式会社が運営)
映画館の立地は、複数の候補地の中から神保町・お茶の水エリアに決定。「ミニシアター発祥の地」とされる点に加え、かつて近隣に存在した「文化学院」の創設者・西村伊作氏が掲げていた「小さくても善いものを」という理念を知り、シネマリスが目指すミニシアター像と重なるものを感じたという。
館名とロゴの由来もユニークだ。「まずは名前に小さな動物を潜ませよう」と考え、「リス」をモチーフに選択。“Malice”は英語では「悪意」を意味するが、フランス語では「茶目っ気」「いたずら」といったニュアンスも持つことから、新しいミニシアターにふさわしいと判断したという。「リス」のロゴマークは、YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」を手掛けたアートディレクターの清水恵介氏が、キャラクターは日々の生活のあれこれをシンプルな線画で表現しXで人気を集め、書籍「日常蒐集録「ねずみ絵日記」を出版したジンボアユミ氏がデザインしている。
館内デザインにも映画愛が息づく。シアター1は、今年1月に亡くなったデヴィッド・リンチさんが手がけたテレビシリーズ「ツイン・ピークス」をイメージした赤色、シアター2は映画「ブルーベルベット」を想起させる青色で統一。また、その入場口の頭上には、シアター1には1匹の、シアター2には2匹のリスが潜んでいる点にも注目だ。
開業に先駆けて2025年6月から8月にかけて実施したクラウドファンディングでは、目標金額の293%にあたる2143万9800円を調達。支援者数は1479人にのぼり、新規ミニシアターとしては異例ともいえる高い支持を集めた。この数字からも、映画ファンの大きな期待がうかがえる。
こけらおとし作品は、【オープニング上映作品】として、第24回上海国際映画祭 金爵奨審査員グランプリなどを受賞し、「タレンタイム優しい歌」(09)の名匠ヤスミン・アハマドらと2000年代のマレーシア映画界を牽引した女性監督、タン・チュイムイの「私は何度も私になる」、東京・吉祥寺にあるひとり出版社「夏葉社」の島田潤一郎を追ったドキュメンタリー「ジュンについて」、岩波ホールに敬意を表したチリ発の社会派ドキュメンタリー「最初の年民意が生んだ、社会主義アジェンデ政権」「チリの闘い武器なき民の抵抗」(※三部作)が並んだ。
さらに【開館記念特集上映】第1弾として「レスリー・チャン特集+1春夏秋冬、張國榮」を実施。【サブスク上映作品】には、ビクトル・エリセ監督の「ミツバチのささやき」と「瞳を閉じて」、アキ・カウリスマキ監督の「枯れ葉」、スマッシュヒットを記録したアニメーション映画「ロボット・ドリームズ」が上映される。
最後に、稲田さんに「人生を変えた1本があるか」尋ねた。少々長くなるが、経緯も含め、稲田さんの言葉をできるだけ詳細にお伝えしたい。「レスリー・チャンが好きで、『さらば、わが愛覇王別姫』『欲望の翼』『君さえいれば』などを観ていましたが、俳優として有名な彼が、実は歌手であることも知り、そのステージを目にした時に、金の粉を浴びて彼の虜になりました。『ブエノスアイレス』公開までに広東語を勉強しに行き、当時は予約システムがなかったので、朝1番に同作を見るために始発で向かって、渋谷のシネマライズに並びました。その時、前後に並んだ、同じくレスリーファンの女性たちと待っている間に自然とおしゃべりをして友達になって、今でもその仲が続いています」
「だから、人生を変えた1本と言うと大げさになってしまうかもしれませんが、それらがすごく楽しい出来事で、今こうして映画館という形で、映画に携わるという道が開けて、さらにレスリー・チャンの特集上映も実現できたのは、本当に幸せなことだなと思います」と、言葉をひとつずつ噛みしめるように語ってくれた。
新たに誕生したミニシアターを、古書店巡りや老舗飲食店とあわせて訪れてみてはいかがだろうか。
【作品情報】
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さらば、わが愛覇王別姫
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撮影:映画.com(以下、特に記載のないものはすべて編集部撮影)