アルピーヌGTAターボにコンバーチブルモデルがあったとは!ワイドボディの過激な1台を味見

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アルピーヌGTAターボにコンバーチブルモデルがあったとは!ワイドボディの過激な1台を味見

12月17日(水) 12:11

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ドイツのスペシャリストであるパンヘンリッヒは、本家のアルピーヌでさえ一度も手をつけたことがないGTAターボのコンバーチブルモデルを制作した実績を有する。マシュー・ヘイワードが感動の一日を振り返る。

【画像】チューニングカーメーカーが手作りで仕上げたアルピーヌGTAのコンバーチブル(写真7点)


リアタイヤはランボルギーニ・カウンタックLP400と同じサイズ…」。熱心なエンスージアストで、この車のオーナーでもあるドミニク・テイラーレインが語った言葉に、私は肩をすくめるしかなかった。リアの車幅が2mに達するほどワイドなフェンダーが与えられたアルピーヌGTA。そのホイールハウスを埋め尽くそうとすれば、極太のタイヤが必要となるのは当然だろう。

イタリアのスーパーカーとリアタイヤのサイズが共通という話題は、パブで披露する格好のネタとなりうるものだが、それがどんな車なのかを地元の仲間が想像するのは難しい。そんなときは、彼らに是非、教えて差し上げてほしい。車名はアルピーヌGTA。ただし、並みのGTAとはわけが違う。なにしろ、この車はワイドなボディキットを装着しただけでなく、コンバーチブルへとモディファイされているのだ。

ここまでの話を聞いて、「アルピーヌもしくはルノーがGTAのコンバーチブルを造ったことがあるだろうか?」と貴方は訝しがるはずだ。実は、1990年代にA610のプロトタイプとしてコンバーチブルが造られたことがあった。しかも、その”元ネタ”となったのは、ここでご紹介するアルピーヌGTAそのものだった。だが残念ながら量産化には至らずに終わっている。近年でいえば、大ヒット作となったA110はポルシェ・ケイマンの強敵となったものの、ポルシェ・ボクスターのライバルとなるモデルがアルピーヌから登場したことはない。実際のところ、アルピーヌがドロップヘッドを手がけた例はA106、A108、そしてオリジナルのA110などがわずかにある程度で、それも会社創設の初期に限られている。これは彼らがラリーにルーツを持つことと無関係ではあるまい。

ドミニクのコンバーチブル
このGTAは、チューニングカーメーカーであるアウトハウス・パンヘンリッヒGmbHが手作りで仕上げた作品である。同社は、ドイツのギュータースローという街でアルピーヌとルノーのディーラー(後者については現在も営業を続けている)を務めていた企業だ。

1980年代初頭、その代表であるウルフガング・パンヘンリッヒは、アルピーヌのラインナップにコンバーチブルがないことに気づき、そのギャップを埋めようとする。彼が最初に手がけたのはA310スパイダーで、車体がバックボーンフレームとG-FRP製ボディで構成されていたこともあり、その作業はどちらかといえば容易に終わった。ワイドボディ・キット、極端に幅広なBBSホイール、短くカットしたドアなどを用いた同モデルは極めてアイキャチーな存在となる。強化されたバルクヘッド、そしてリアにロールオーバーバーを渡したことでボディはいくぶんなりとも補強されたが、現代的な基準でロードテストをおこなえば、ひと目を惹く車以上の存在ではないことが明らかになる。それでも、ベースカーに匹敵する魅力を備えていたのは事実だった。

パンヘンリッヒが企てた次なるプロジェクトは”新型”のアルピーヌGTAターボをベースにするというもので、ここで紹介しているのがその成果である。ドイツで生まれた多くのビスポーク・モデル同様、パンヘンリッヒが造ったコンバーチブルにもTUVの規定が適用され、ここで要求されるすべての基準を満たさない限り、ロードリーガルカーとしてドイツの公道を走行することは許されない。そのいっぽうで、コンバーチブル化に潤沢な予算を投じたこともあり、各部のフィニッシュは素晴らしい水準で仕上げられている。そのことは、実車をご覧になればただちに理解できるだろう。

ボディ構造がよく似た前作同様、コンバーチブルモデルのベースとしてGTAは申し分なかった。ポルシェ911と同じようにリアマウントされるエンジンは、最高出力158bhpの2.9リッター自然吸気V6もしくは197bhpの2.5.ターボとなる。ここで911を引き合いに出したのは、GTAにとって長年のライバルだったからに他ならない。雑誌『Motor』も傑出したハンドリングという点において2台はライバル関係にあると評したが、GTAは耐久性の点でドイツの宿敵に及ばないとも指摘した。

パンヘンリッヒのアルピーヌGTAはかなり過激な仕様で、ゲンバラやケーニッヒのスペシャルモデルと似ていないこともない。ルーフを取り除いたことでリアのボディパネル、そしてこれとピッタリ合うエンジンカバーが必要になったのは間違いないが、それにしても、なぜこれほどまでワイドなボディに仕立てたのか?

パンヘンリッヒは合計で10~12台のオープンGTAを製作したものの、ここまでワイドなボディが与えられたのは、そのうちの5、6台ほどに過ぎない。15インチの3ピースホイールはBBS製で、リム幅はフロントが8インチでリアには11インチのものを装着する。ドイツの規制に照らし合わせれば、これは合法だ。ところで、パンヘンリッヒのコンバーチブルはすべてターボをベースとしているが、過給圧を制御するブリードバルブはセンターコンソール上に設けられている。さらに過給圧をベースモデルよりも高めることで、最高出力は220bhpと推定される。


英国にわたった1台
ここで紹介する車両は、ケーニッヒのビスポーク・インテリアやその他のファクトリープションなどを備えた唯一のモデルとして知られている。完成した当初の来歴には不明な部分が少なくないけれど、おそらくはショーカーか開発車両として製作されたものだろう。残された記録によれば、1985年後半にアルピーヌの工場からドイツに出荷され、そこでコンバーチブルへのモディファイが施された。ただし、1992年後半までドイツでナンバーを取得することはなく、1997年にTUVの認証を受けると、1998年にはイギリスに住むオーナーの元へと旅立っていった。現在つけられているナンバープレートは1990年代のものだが、過剰ともいえるモディファイは1980年代に実施されたと見て間違いないだろう。

この種のコーチビルディングが安く済むはずはない。販売用に製作されたオリジナルのパンフレットによれば、コンバージョンに必要な基本価格は3万6500DMというから、およそ1万2000ポンド(約460万円)にもなる。これにベース車両の価格として3万ポンド(約690万円)、さらには特別なトリムの価格が上乗せされるのだ。同じ仕様のモデルがほかに存在しないのも当然といえる。

そしてこのインテリアの補修に、オーナーのドミニクは多くの時間と労力を割くことになる。まずはくたびれたカーペットを作り替えると、シートはケーニッヒ本来の仕様で表皮を張り直した。ダッシュボードを始めとするプラスチック製内装のほとんどはバーガンディ色のレザーで覆われている。

ドミニクが2023年に購入したときには素晴らしいコンディションを保っていたものの、おそらく10年以上はまともに走らせていなかったので、レストアが必要なことは明らかだった。ここで、アルピーヌGTAのオリジナルパーツを探し出すのは難しくなかった。エンジンはルノーが造る他のモデルにも搭載されていたほか、基本的なパーツはプジョーやボルボとも共用していたからだ。ただし、このモデルのための専用パーツを見つけ出すのは至難の業だった。もっとも、標準仕様のGTAでさえ、リアライトやフロント・ウィンカーはべらぼうに高く、決して買えないわけではないものの簡単には手が出ない値段らしい。

そうしたなかで、おそらくもっとも困難だったと思われるのが、使い物にならなくなっていた極太のリアタイヤを新品に交換することだった。また、実用に耐えるレベルまでルーフを修復するまでには、多大なリサーチが必要だったという。そしてトリムの大部分とラッチ類にはリビルトやレストアが施された。残念ながら、ビスポークを行ったパンヘンリッヒのもとにも当時の資料は残されていなかったようで、ドミニクはドイツに暮らすパンヘンリッヒ・オーナーのひとりを見つけ出すと、ルーフのリビルドに必要な部品を手に入れる方法をその彼から教えてもらったという。

信頼性の点において、GTAの冷却システムはベストとはいいがたい。そこで水温を適正な範囲に保つために電気式のウォーターポンプを追加。ゴム製のシールやホース類、そのほかの消耗品なども総入れ替えした。そしてすべての作業が終わったところで『Octane』に声が掛かり、ワイルドなマシンを味見するチャンスが巡ってきたのである。

ドミニクのアルピーヌは、ビスターに本拠を構えるクラシック・コレクティブ・ワークショップにしばしば展示されている。それにしても、カメラマンのドゥルー・ギブソンがこの車を最初に見たときに浮かべた表情は傑作だった。その異常ともいえるリアフェンダーの曲線を目の当たりにすると、彼は目をまん丸になるまで見開いたのである。

「イギリスで乗るにはルーフの雨漏りが心配ですね」半分冗談でそう訊ねてみると、ドミニクは「雨の降る日にこの車を走らせたことはありません」と語って戸惑ったような笑顔を浮かべた。ただし、私自身は何の心配もしていなかった。ワークショップ内の隔絶された空間に置かれていると、アルピーヌのボディ幅はあまり気にならなかったが、オックスフォードの狭い道に引きずり出せば、幅2mにもなるワイドなヒップのことを思い起こさずにはいられなかった。90°V6エンジンのややしわがれたエクゾーストノートは、ギャレットT3のシングルターボによって少し勢いを削がれていたが、それでもターボチャージャーが発する「ヒュー、ヒュー」という音に私の胸は高鳴った。私たちはもちろんルーフを畳んで走行したが、そうすると60mph(約96km/h〕以上ではやや風が巻き込んでくるようだった。

中速域はトルクが豊富で、苦もなく走れる。低速域ではステアリングにパワーアシストがないことを思い知らされるが、ひとたびシフトアップすればほどよい重さに感じられるだろう。レザーで覆われた小径のステアリングからは活気あふれるロードインフォメーションが伝わってくる。スカットルシェイクは盛大に起きるが、同時代のコンバーチブルモデルであれば症状はもっとひどかったはず。これは、アルピーヌのボディ構造が強靱であることを証明するものだ。

置きの写真を撮影する間、私は迫力あるボディをじっくりと観察したが、そのデザインを完全に理解するのは難しかった。いろいろな角度から眺めれば眺めるほど、より不可解で、奇妙なスタイリングのように思えたのだ。スタンダードなGTAとパンヘンリッヒが造ったコンバーチブルとでは、デザインがまるで異なっていることにも驚いた。それはルーフを閉じているか、開けているかに関わらない。

そうこうしているうちに雨が降り始めそうな気配になってきたので、慌ててソフトトップを取り付けることにした。ただし、作業にはふたりが必要で、そのメカニズムも洗練されているとはいいがたい。とはいえ、慎重に扱う必要があるものの、取り付け位置を正確にあわせて金具をしっかり止めれば、イギリスに降るシャワーでも耐候性に問題が生じるとは思えない。これはこれで好ましいことだが、空が晴れたところで、私たちは静かに、そしてスムーズに、木立が並んだ真っ直ぐな舗装路を走り始めた。これこそ、アルピーヌがもっとも得意とする道だろう。

ワークショップまで戻ってきたとき、ドミニクの顔に安堵の笑顔が浮かんでいることに気づいた。パンヘンリッヒGTAの魅力は、そのステアリングを握った者だけではなく、バーガンディの美しいインテリアを見た者もまた味わえるはず。この車と、いつかまたオープンロードを旅してみたいものだ。ルーフが雨漏りを起こさないことも、イギリス人にとっては実に心強い点だろう。


1985アルピーヌ GTAターボ
(標準生産型クーペの数値を示す)
エンジン:2458cc、90oV6、OHC、レニックス製燃料噴射装置、ギャレットT3ターボチャージャー、リアエンジン
最高出力:200bhp/ 5750rpm最大トルク:29.6mkg/ 2500rpm
トランスミッション:5速 MT、後輪駆動ステアリング:ラック&ピニオン
サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピックダンパー、アンチロールバー
ブレーキ:全輪ベンチレーテッドディスク車重:1210kg
最高速度:248km/h(155mph)0-60mp加速:5.8秒


編集翻訳:大谷達也Transcreation:Tatsuya OTANI
Words:Matthew HaywardPhotography:Drew Gibson
謝辞:ロンドン・ラリー・スクールrally-school.com
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