日本を代表する脚本家・荒井晴彦の監督最新作で、吉行淳之介の小説を綾野剛主演で映画化した「星と月は天の穴」の撮影初日のメイキング写真と場面写真が公開された。
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【フォトギャラリー】「星と月は天の穴」メイキング写真
荒井監督の長年の念願だった吉行淳之介氏による芸術選奨文部大臣受賞作品を映画化。過去の離婚経験から女を愛することを恐れる一方、愛されたい願望をこじらせる40代小説家の日常が、エロティシズムとペーソスを織り交ぜながら綴られている。
クランクイン初日は、綾野剛演じる矢添と彼の大学時代の友人が会話を交わすシーンからスタートした。友人を演じたのは、柄本佑だ。助監督の竹田正明氏によると、綾野と柄本という荒井組の勝手知ったる俳優同士のシーンから始めた方が現場のリズムが出るのではないかという配慮から、本編でも冒頭にくるシーンで撮影は始まった。日本映画界屈指の名キャメラマンで、荒井映画の全ての撮影を担当してきた川上皓市氏ら気心しれたスタッフが集結した現場は、活発に会話がなされ、キャストとスタッフという境界線のない現場だったとのこと。
そんなファーストシーンについて綾野は「佑くんの声を初日から聞けて、“柄本佑フリーク”の自分としては、堪らない時間でしたし、朝からあのピストルのような速度のセリフを浴びることができて……それはもうただただ幸せでした。段取りのとき、佑くんの早いセリフ回しが心地よくてずっと見ていたら、自分のセリフを忘れてしまいましたから(笑)」と振り返っている。
柄本は3度目となる荒井組について「荒井組って撮影が順調に進めばスムーズに終わってしまうので(笑)僕のシーンは2時間ないくらいの短い時間でした。荒井さんは自分が書かれたホン(脚本)のセリフを役者がどう咀嚼して持ってくるかというのを愉しまれているところもあるので、“こうしてくれ”“ああしてくれ”というのはあまり言われないんですが、撮影が終わった後お昼休憩に入って“荒井さん、じゃあまた”と声をかけたら、『(撮影現場から)自宅が近いからうちに来て弁当食って行くか』と言われて。驚いて『え!』って言ったら荒井さんが『コーヒーくらい出すぜ』って言ってくれて、なんか荒井さんの脚本の中のセリフみたいだなと思ったのが印象的でした(笑)」と貴重なエピソードを明かす。綾野との共演は「綾野さんは初日の一発目なのに『花腐し』でかなり濃密に荒井さんと過ごされているので、バッチリと矢添という役を掴んで、脚本の世界にどっぷりと浸かっているなという印象でしたね」と回想する。
その後は、画廊で初めて矢添と、咲耶演じる紀子が出会うシーンが撮影された。初共演一発目のシーンとなり、よい緊張感が生まれたようだ。荒井監督、川上キャメラマン、そして綾野は演者の立場から、このシーンの構成を相談しながら進めていったという。竹田氏曰く「綾野さんは『自分がこうしたい』と主張することはなく、荒井さんや川上さんがやりたいことを理解した上で、『だったら、僕がこうしたらどうですか?』という受動的な立場でクリエイティブな話し合いに参加してくれた。これは前作から引き継がれていることではあるが、今作はより荒井さんの意図を汲んで、より荒井さんと相談しながら表現しようとしているように感じられた」とのこと。
映画出演はほぼ初めてとなる咲耶のファーストカットだったが、「咲耶とも積極的にシーンの在り方を話してくれていて、そのお蔭もあって咲耶が堂々とそこに立っていたのかもしれない」とした上で、「初日、佑さん、咲耶と並んだ綾野さんの矢添像は、人間として微妙な何かが決定的に欠けているのに、どこかゆったりと自信に溢れていて、発している文学的な言葉も相まって、いい意味でちょっと変なズレ方をした相当面白い人だな、と可笑しく感じた」と竹田氏は振り返っている。
荒井監督曰く「真面目な人」、咲耶も「綾野さんの優しさと気遣いに多々助けていただいた、綾野さんがお相手で幸運だった」と語る通り、作り上げる役柄だけでなく、座長として人間として、現場で多大な信頼を寄せられていた綾野の姿をスクリーンで確認してほしい。
「星と月は天の穴」は、12月19日から東京・テアトル新宿ほかで公開。
【作品情報】
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星と月は天の穴
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