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本記事では、「手に魂を込め、歩いてみれば」(2025年12月5日公開)の概要とあらすじ、評論をお届けします。
【「手に魂を込め、歩いてみれば」あらすじ・概要】
2025年4月にイスラエル軍によるガザ空爆で命を落としたパレスチナ人の若きフォトジャーナリスト、ファトマ・ハッスーナと、彼女を見守り続けたイラン出身の映画監督セピデ・ファルシの1年にわたるビデオ通話を記録したドキュメンタリー。
イスラエルによるガザ攻撃が続いていた2024年、セピデ・ファルシ監督は現地の人々の声を世界に届ける必要性を感じていた。ガザは封鎖され行くことができないため、監督はガザ北部に暮らす24歳のフォトジャーナリスト、ファトマ・ハッスーナとのビデオ通話を中心とした映画の制作を決意する。
イランからフランスに亡命したため祖国に戻ることができないファルシ監督と、監督の娘と同じ年齢で、ガザから出ることができないファトマとのビデオ通話は毎日のように続けられる。ファトマは監督にとってガザを知る目となり、監督はファトマが外の世界とつながる架け橋となって絆を築いていく。空爆や飢餓にさらされながらも力強く生きる市民の姿や街のわずかな輝きを写真に収め、スマホを通してガザの様子を伝え続けるファトマだったが、度重なる爆撃で家族や友人の命が失われていくにつれ、いつも明るかった彼女の表情に陰りが見えはじめる。そして2人が交流を始めてから約1年が過ぎた25年4月、悲劇はファトマ自身をも襲う。
【「手に魂を込め、歩いてみれば」評論】
●普通の「カメラ女子」が「戦場カメラマン」に転身。ガザの詩情を感じる写真が見どころ(筆者:駒井尚文)
本編が始まってしばらくの間、映っているのはスマホの画面のみ。エジプトにいる本作の監督(画面のこちら側)と、ガザ在住の女子ファトマ(画面の中)が会話しているフッテージがひたすら続きます。
「マジか?この映像クオリティで長編映画が成立するのか?」とかなり不安を覚えますが、そこは「ガザ案件」の強みが勝ります。「天井のない監獄」と言われるガザのヴィヴィッドな実態を、屈託のない笑顔で語る24歳のファトマが、諦観とも開き直りとも解釈できる言葉で裏付けます。「私たちには強みがあるの。失う物は何もないって強みがね」
「忙中閑あり」という言葉を思い出します。この映画では、ファトマの表情が「戦地にも笑顔あり」という趣で、見る者を少しだけ安心させてくれます。しかし、ファトマが暮らすのは空爆の止まない街、ガザ。彼女の表情以外は、残酷なまでに破壊されてしまった街の姿があるのみです。
本編に挿入されるスチル写真(静止画像)は、ファトマが一眼レフで撮影したものが中心です。そして、その写真一枚一枚のクオリティが非常に高いことに驚かされます。詩情を感じさせる戦争写真の数々。正直、写真展が開催できるレベルだと感じました(実際に、日本で写真展が開催されるようです)。
そして「ずっとガザに留まるのか?」という問いに対して、彼女は「ガザを離れたいけど、今、ガザには私が必要だと思う。この状況を世界に伝える必要がある」と覚悟を語るのです。普通の「カメラ女子」なのに、「戦場カメラマン」としての使命を自身に課すというファトマの壮絶な決意には、畏怖の念すら感じてしまいます。この映画の題名は、このファトマの覚悟が由来ということでしょう。
とにかく、本編が始まってからエンドロールまでずっと、胸を締め付けられるような思いで見続けました。
そんな緊張感溢れるドキュメンタリーにあって、映画ファンをニヤリとさせるシークエンスがありました。ファトマが、過去に見た映画の印象的な台詞を語るシーン。「ショーシャンクの空に」で「希望を持つのは危険だ」というモーガン・フリーマンの台詞について、セピデ・ファルシ監督に語るのです。ガザのような最悪の戦地にいて、「希望を持つのは危険な考えだ」という意図で使ったのだと思います。しかしファルシ監督は、「私はその映画を見ていない」と応えています。
おいおい、映画監督なら「ショーシャンクの空に」ぐらい見ておこうよ!って全員が突っ込むところでしょう。そして、ファトマの好きな映画についてもっとたくさん知りたかったという感情もまた込み上げる、印象的なシーンでした。
【作品情報】
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手に魂を込め、歩いてみれば
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