アンミカと高市首相は似たところがある――強烈なキャラを演じるエネルギー|ドラマ『もしがく』

アンミカ。『もしがく』場面写真©フジテレビ

アンミカと高市首相は似たところがある――強烈なキャラを演じるエネルギー|ドラマ『もしがく』

12月10日(水) 15:46

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高市早苗首相が誰かに似ていると思ったら、アンミカだった。顔ではない。存在である。むやみに明るく前向きで、頑張ればできる、頑張った者こそが勝つことを信じて疑わない感じが似ている。

“ほどほどがいい”時代に、とことん頑張る!



アンミカは高市首相を支持しているわけではないようだが、「働いて働いて働いて――」の高市首相と、「HLLSPD」(「ハッピーラッキーラブスマイルピースドリーム」)を唱えるアンミカではベクトルが違うが、大きくニッカーと口を開いた笑顔から受ける強烈なエネルギーの質量が似ているような気がするのだ。

そんなふたりを強く信奉する人もいれば、ついていけないと目を背ける人もいる。肯定するにしても否定するにしてもそこには熱狂が伴う。

頑張りすぎない、ほどほどでいい、自分らしくていい、というふわっとした考え方が好まれる時代に、出る杭は打たれるを体現し続けるアンミカ。彼女にはなぜか過剰な反応がついてまわる。発言が炎上しがちなのはそれだけ注目されているからだろう。

アンミカの徹底したポジティブシンキング



アンミカが一般に広く認知されるようになった理由は、賛否両論ある彼女の「ポジティブシンキング」である。それも根拠なきポジティブではなく、徹底的に考え抜いて、実践し、妥協を許さないやり方だった。

パリコレモデルだったことを生かした、『林修の日曜の初耳学』(TBS系)のなかのワンコーナー「アンミカ先生が教えるパリコレ学」は2019年の放送だったからギリ許されたのだろうか。今ならハラスメント認定されそうな、否定、否定。否定で、容赦がなく、それに耐え、あるいはあらかじめアンミカのチェックをすべてクリアーできるように入念な準備をした奇特な人だけが栄光を手にする。

放送当時は楽しんで見ている人も少なくなかったし、関西弁で意識高いアンミカというキャラが全国区に周知された代表作である。

アンミカの自信が根拠のないふんわりしたものであったなら、より容易に絶大に支持されたかもしれない。とことんやりぬくガッツが、誰もがそんなにできないよ――とアンミカから距離をとらせる。



『もしがく』ではパワフルなストリッパー役



モデルやコメンテーターのイメージの強いアンミカだが俳優もやっている。あの強烈なキャラでは様々な役を演じるというよりは、そのキャラを生かした役をオファーされるという印象である。

『もしがく』こと『もしも世界が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(フジテレビ系、水曜夜10時~)はまさにそれ。とうの立った(言い方)場末のダンサーで性格はきつめ、何事にもめげないパトラ鈴木をアンミカは演じている。パトラは腰に爆弾を抱えながらも厚化粧して舞台に立ち続けている。

女を捨てず(言い方)前向きに生きるパトラは年下の劇場の用心棒・トニー(市原隼人)とつきあっている。目下、このドラマで最も評価の高い、おいしい役を演じている市原隼人と、アンミカが恋人役という皮肉なカップリングは狙いなのか偶然なのか。市原隼人が見たくてドラマを見ると、漏れなくアンミカとの2ショットがついてくる。しかも熱烈なシーンが。

アンミカ×市原隼人の回だった



『もしがく』第9話はトニーとパトラの回だった。どん詰まりで用心棒というような暴力にものを言わせるような仕事しかないトニーだったが、劇場がストリップではなくシェイクスピア劇をやることになったとき、たまたま役者を手伝うことになる。真面目な性分で、やりはじめたら徹底的に稽古をして臨むため、演出家のクベ(菅田将暉)を驚かせるほど演技が上達する。

だが、9話では、劇場のオーナー(シルビア・グラブ)のかなり危険なブツ(昆布茶ババロア)の取引にしぶしぶ行くはめに。そのせいで警察に追われることになる。劇場関係者とバレたら公演に迷惑がかかるので、パトラにつきまとう人物という体(てい)にする。パトラは「この変態顔も見たくないわ」とトニーの頬をピシャリと叩く。アンミカも市原隼人も迫真の悲しみに満ちた顔をしながら別れ別れに……。

演歌みたいな悲恋が尊く見えた



正直、茶番もいいところなのである。トニーが常連客ということにするのはその場しのぎ過ぎるだろうし、捕まえた警官は、警官をクビになった大瀬(戸塚純貴)で、「どこの管轄のかたですか?」と刑事(小林隆)に聞かれるも、トニーが気を利かせて暴れたことで有耶無耶になる。リアルではない。でもこんな茶番が尊く見えるのは、市原隼人とアンミカが至極真面目に演じているからだ。

アンミカは真っ白い衣裳を、さすがパリコレモデル、このうえなく清潔感あふれて見えるように着こなしている。安普請の劇場楽屋の裏のお茶場でアルマイトのやかんを使って生姜茶を入れる姿は、セレブ感というより清楚。場末で生きて貧しくても誇り高く、情もある人物だと印象づける。きっと彼女はとっても演技派で、アンミカというキャラクターも徹底的に演じているのだろう。

いきなり小栗旬が登場して視聴者は騒然



『もしがく』第9話は30分拡大という大盤振る舞いだった。本番があるのにトニーがオーナーの用事を仰せつかって、出番になっても戻ってこなかったため、彼が戻るまで芝居を引っ張ろうと劇団員があの手この手で奮闘する三谷幸喜の真骨頂だった。オーナーが危険なことに足を突っ込んでいて、雇われている者は彼女の身代わりに捕まらざるを得ないという、ヤクザ映画みたいなエピソードも描かれた。

また、ドタバタの『冬物語』延長バージョンをクベが尊敬する蜷川幸雄が見に来る。蜷川を演じたのが蜷川の薫陶を受けた小栗旬。話題に事欠かない充実回だったが、そのなかでも市原隼人とアンミカの演歌みたいな悲恋がダントツだったと思う。パトラと彗星フォルモン(西村瑞樹)が場をつなぐため、急遽組んで行ったシェイクスピアのコントも楽しかった。

毎回、誰かが去っていく……ラストはどうなる?



それにしても毎回、誰かが劇場から去っていく。物語からひとり、またひとりと……。切ない話なのだ。みんなが戻ってきて、全員がそろった幻の公演を行うような夢のエンディングにならないだろうか。

蜷川幸雄の演劇には、集団の崩壊とありえたかもしれない幻の麗しき集団を夢見る話が少なくないのである。クベが見たと第1話で語った『雨の夏、三十人のジュリエットが帰ってきた』(82年)や、ドラマではいまのところ言及されていない、84年に西武劇場(現PARCO劇場)で蜷川が演出した『タンゴ・冬の終わりに』などがそれだ(いずれも脚本は清水邦夫)。

蜷川幸雄は、1960~70年代、熱い時代を劇団で過ごした石橋蓮司と蟹江敬三と晩年再び共に芝居をする機会はなかった。一方、三谷幸喜は、劇団サンシャインボーイズが人気絶頂のとき、30年の充電期間に入ると宣言し、30年後の2025年、ほんとうに再結集公演を行った。

<文/木俣冬>

【木俣冬】
フリーライター。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』など著書多数、蜷川幸雄『身体的物語論』の企画構成など。Twitter:@kamitonami

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