「エアショー」と聞くと、戦闘機がアクロバット飛行をするお祭りというイメージかもしれない。しかし「ドバイエアショー」は、そのスケールと重要性が全く違う。これは、世界中の航空会社、機体メーカー、そして部品メーカーが一堂に会し、十億ドル以上(1500億円~)の規模の商談が次々と成立する、いわば「空の展示会」なのだ。
11月17日から開かれていたこのショーは、単なる飛行機の見本市ではなく、今後数十年の世界の空の勢力図を決める、極めて重要なビジネスイベントなのだ。ここに来れば、これから私たちが乗る飛行機、そして空の移動がどう変わるのかが、はっきりと見えてくる。
地元エミレーツ航空の戦略。快適性を追求した未来への投資
このショーの主役の一つが、ドバイを拠点とする巨大航空会社、エミレーツ航空である。空飛ぶ宮殿と呼ばれるA380を116機運航しており、他にもボーイング777シリーズを140機持ち、日本線は羽田、成田と関空にも就航している。彼らはこのイベントを最大限に活用し、自社の「将来のビジョン」を世界に向けて発信している。
巨大な「ワイドボディ機」への揺るぎないコミットメント
エミレーツは、ボーイングとエアバスに対して、最新鋭の大型機「777X」と「A350-900」を、合わせて73機も追加発注した。この発注総額は、なんと414億ドル(約6兆4200億円)にものぼる。
LCCが小型機で路線を増やしている時代に、なぜエミレーツはあえて巨大で豪華なワイドボディ機にこだわるのか。その背景には、同じUAEを拠点とする「フライドバイ」との戦略的な役割分担が存在する。
フライドバイは小型のナローボディ機(通路が一本の機体)を中心に使用し、ドバイから比較的近距離の路線や、利用客がそれほど多くない地域への路線網を張り巡らせている。一方、エミレーツ航空は、機内空間が広くて快適なワイドボディ機のみを運航するという明確な方針を貫いている。
この連携により、フライドバイが小型機で近隣諸国の小さな都市や地域からの乗客を集め、それらの乗客はドバイでエミレーツ航空の大型機に乗り継ぎ、世界中の長距離路線へ移動するという「補完的役割」が成立している。
つまり、エミレーツ航空は、フライドバイに小型機の役割を任せることで、自社は「快適な長距離フライト」に完全に特化するという、極めて洗練されたハブ戦略を追求しているのだ。新型のボーイング777Xで空飛ぶ宮殿がどのように進化するのか楽しみだ。
大規模投資を支えるドバイ政府との提携
この巨額な発注を実現できる理由について、エミレーツグループ会長のシェイク・アハメッド・ビン・サイード・アル・マクトゥーム殿下は、「強固な財務基盤と大規模な投資計画を実施するためのドバイ政府との戦略的提携にある」と発言している。
これは、エミレーツ航空が単なる一企業ではなく、ドバイという都市のインフラであり、経済成長のエンジンそのものであることを示している。ドバイ政府が、世界的なハブ空港としての地位を維持・強化するために、エミレーツ航空の強力な後ろ盾となり、大型投資を可能にするという戦略的協力関係が土台にあるのだ。
投資は航空機材だけでなく、ロールスロイスと提携したエンジン整備の自社化や、フランスの航空部品メーカーであるサフランと提携した航空座席の製造、SAF(持続可能な航空燃料)の国産化など多岐にわたる。利用者にとっては、機内でスターリンクWi-Fiが利用できるなど利便性もアップする。
エミレーツ航空がドバイエアショーで行う巨額の発注は、「私たちは将来も航空業界をリードし続ける」という強い姿勢を示すメッセージを世界に発信しているのである。
世界の空の主役が変わり始めた 注目を集めた出展者たち
ドバイエアショーの興味深さは、エミレーツとメーカーの動きだけではない。世界の空の勢力図を変えようとする、新しいプレーヤーの存在が際立っていた。
長らく欧州のエアバスと米ボーイングの民間航空機メーカー「二強」時代に挑戦状を叩きつけているのが、中国のCOMACである。彼らが開発した新型のナローボディ機「C919」は、アジア以外では初めて飛行展示を披露し、大きな注目を集めた。
C919は、エアバスのA320やボーイングの737といった、私たちにとって最も身近な路線で使われる機体のライバルである。COMACは、これまで自国の需要を頼りに成長してきたが、このドバイの地で機体を世界に披露し、「これからは世界の空でも存在感を発揮する」という強い意志を示した。
日本のHONDAが描く空飛ぶ車の未来「eVTOL」
日本勢として異彩を放っていたのが、ホンダの存在である。彼らが展示したのは、次世代の移動手段いわゆる空飛ぶクルマとして期待される「eVTOL(電動垂直離着陸機)」のモックアップであった。
ヘリコプターのように垂直に離着陸し、騒音も少なく、バッテリーとガスタービン・ハイブリッド・パワーユニットで動くため環境負荷も低いとされている。ホンダは、HONDA JETの航空機事業で培った技術を活かし、eVTOL事業への参入を目指している。
開発責任者の東弘英さんは、「2030年代早々に商用飛行を開始することを目指しています」と意気込む。私たちが空港や観光地へ移動する際、渋滞知らずでホンダのロゴの入ったeVTOLが空を飛んでいるかもしれない未来を創造するとわくわくしてくる。
空の未来は始まっている
ドバイエアショーは、遠い中東だけの出来事ではない。エミレーツ航空の巨額発注は日本からの私たちの旅の快適さを高め、COMACの挑戦は飛行機を選ぶ選択肢を増やし、そしてホンダのeVTOLは私たちの日常の移動方法を一変させる可能性を秘めている。
航空に興味がない人でも、ここで交わされた商談と展示は、間違いなく「私たちの未来の生活」に直結している。ぜひ、今後の航空業界のニュースにも注目してみてほしい。
<取材・写真・文/北島幸司>
【北島幸司】
航空会社勤務歴を活かし、雑誌やWEBメディアで航空や旅に関する連載コラムを執筆する航空ジャーナリスト。YouTube チャンネル「そらオヤジ組」のほか、ブログ「Avian Wing」も更新中。大阪府出身で航空ジャーナリスト協会に所属する。Facebook avian.wing instagram@kitajimaavianwing
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