やさしくて穏やかで、なんでも言うことをきいてくれる、一見完璧な夫。でもその夫と心が全然通じ合わなかったら、あなたはどうしますか?
カサンドラ症候群とは?
『夫と心が通わないカサンドラ症候群で笑えなくなった私が離婚するまでの話』(KADOKAWA2023年発売原案・アゴ山、著・鳥頭ゆば)は、良好な夫婦関係にヒビが入り、カサンドラ症候群になった妻が夫と離婚するまでの過程を描いた実録コミックエッセイです。
原案者のアゴ山さんは、子供2人と暮らすシングルマザー。自身の過去の出来事をSNSやブログ「アゴ山とヤバイ奴ら」で発信しています。本書の続編、ブログ「アスペルガー夫と離婚した後の話」(アゴ山とヤバイ奴ら)も、2025年8月に完結しました(※現在、「アスペルガー」は「自閉スペクトラム症」という呼称に)。
カサンドラ症候群とは、パートナーや家族といった身近にいる人が、発達障害のひとつASD(自閉スペクトラム症)などの共感性の低い特性がある場合に起る心身の不調のこと。誰もが陥る可能性のある症状ですが、自分がそうかもしれないと気づける人はまだ少ないかもしれません。本書の主人公、アコもそのひとりでした。
夫に悪気はなく、“そういう特性”なだけ
<私の要望も話もなんでも聞いてくれるやさしい人>(<>は同書より引用。以下同)。元ギャルで明るい性格の主人公のアコは、夫のユーマをそのように評し、平和な結婚生活をおくっていました。無口で天然キャラなユーマの性格を、アコ自身も最初はおもしろがっていたのです。しかし少しずつ、アコの心に違和感が芽生えます。
「用意するからその辺で待ってて!」と、アコがメイクを開始すれば、本当にその辺でずっと待っている、言われたことを鵜吞みにしてしまうユーマ。空気を読んで行動する、という意識がユーマにはないのです。
夫婦だけの生活ならまだしも、家族が増えれば事情が異なります。妊娠がわかった時の反応も「え、あ、そっか」と、無表情の無感動。病院をどこにするか悩み相談するアコに対しても、「アコちゃんがいいところならどこでもいいよ」と、他人事のような答えです。
アコが望むのは、お互いの思いや意見を交換し、共感し、ときにはケンカしながらも一緒に歩んでいく夫婦でした。なんでも妻に従う夫は、世間的にはいい夫でしょう。でも、アコにとってユーマは、何事にも無関心な人としか映らなくなりました。
ユーマは離婚後にASDと診断されますが、彼には悪気はなく、ASDの特性でそうだったというだけなのです。
夫も娘も、ASDと診断された
アコとユーマの長女、しずくは他の子どもより癇癪が多く、アコは専門医に相談しようと決意します。しかしユーマはどこか冷ややかな態度。アコはただ、もしも娘に発達障害があるのなら、その個性にふさわしい育て方をしたい、と願っただけなのです。
しずくの診断結果は発達障害のひとつ、ASD(自閉スペクトラム症)でした。IQは平均的で知能にも問題はありません。一安心したアコでしたが、他にも気がかりがありました。しずくは赤ちゃんの頃からパパであるユーマを避け、怯えていたのです。
パパは笑わないからイヤ、というしずくの声に、アコはハッとします。ふと、ネットで発達障害を掘り下げてみたら、その特徴はユーマにもほとんど当てはまっていました。愕然とするアコですが、夫と心が通わない日々に絶望していた中で、自分はカサンドラ症候群かもしれない、と気づいていったのです。
そして、夫も離婚後にASDの診断を受けていました。2025年8月に完結したブログ漫画「アスペルガー夫と離婚した後の話」によると、離婚をめぐる夫の行動は、かなり予想外なものでした。
笑えなくなったアコが選んだ道
子供のこと、家のことは妻任せ、という夫も世の中にはたくさんいるでしょう。アコの悩みも<事象だけを見れば、どこの家庭にもあるようなエピソードだったりする>のです。<ただ、その質と量が違う>のも事実。
いつしか笑えなくなったアコは、本来の自分を取り戻すために、ユーマに離婚を切り出します。ユーマは当然反対するのですが、ユーマの物言いはやはりどこかズレていて……。
本書の続編ブログを読むと、いかに長い結婚生活の間に、アコがユーマとの生活に区切りをつけたか、その大変さがわかると思います。
生きていく上で、さまざまな個性の持ち主と出会います。お互いを尊重しつつ絆を深めていける場合はいいのです。でももしどちらかがつらくなってしまったら。
人生を守るのは、自分自身。アコの勇気と生き方が、参考になるのではないでしょうか。
<文/森美樹>
【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx
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