12月6日(土) 18:00
遺族年金は、主に「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」に分かれています。遺族基礎年金は子どものいる配偶者を中心に支給され、遺族厚生年金は会社員や公務員として厚生年金に加入していた人の遺族が受け取れるものです。
ただし、制度設計の土台には「子育て世帯を優先的に支える」という考えがあり、子どものいない夫婦や共働き世帯などは制度の恩恵を十分に受けづらい、という指摘がありました。
その背景を踏まえ、近年はより多様な家庭環境に対応するための見直しが進められています。しかし、制度が改正されても受けられる支援の内容は家庭ごとに異なります。そのため、どの世帯に恩恵が及びやすいのかには明確な違いが生じます。
遺族年金の改正内容は多岐にわたりますが、そのなかでも生活への影響が大きい変更点があります。本章では、特に押さえておきたい4つのポイントを紹介します。
これまで、遺族厚生年金は一定の条件を満たせば終身で支給されていました。しかし今回の改正により、18歳年度末までの子どもがいない(女性40歳未満・男性60歳未満)配偶者の場合は原則5年間のみの有期給付へ移行します。なお、配慮が必要な場合は5年目以降も給付が継続される可能性があります。
給付期間が5年間と限定される一方で、その期間の生活を支えるために「有期給付加算」が新たに導入されます。この加算により、有期給付期間中の支給額は現在の遺族厚生年金の約1.3倍となり、短期的な生活費を確保しやすくなる仕組みです。
これまでは、年収850万円を超えると遺族年金を受給できないケースがありました。今回の改正により、この収入要件が原則として撤廃され、働いている配偶者でも遺族年金を受給しやすくなる方向に調整されます。
これにより、共働き世帯自分自身の収入で生活を支える必要のある世帯でも、公的保障として遺族年金を利用しやすくなります。
18歳年度末までの子どもがいる場合は、子どもの人数に応じて上乗せされる遺族基礎年金の「こどもがいる場合の加算額」が年間約23万5000円から約28万円に引き上げられます。これにより、「子育て家庭を優先して支える」という制度理念がより明確になったともいえるでしょう。
遺族年金の改正は公平性を高めることを目的としていますが、世代によって受ける影響に差が生じます。特に高齢者が「得をしている」と思われる背景には、次のような理由があります。
・高齢者は改正前の制度による保障(終身給付など)を維持できるケースが多い
・老齢年金と遺族年金を組み合わせやすく、収入の柱が複数確保される
・働き盛り世代よりも、有期給付が生活全体に与える影響が小さい
一方、35歳前後の世代では有期給付が終わった後の生活期間が長く、収入の確保がより重要になります。つまり、改正により「保障を受けやすい層」と「自力での備えが必要な層」が世代間で明確になりつつあるのです。
遺族年金の改正は、子どもの有無や年齢によって受けられる支援が変わりますが、いずれの家庭でも「遺族年金だけで生活を維持するのは難しい場合がある」点は共通しています。特に有期給付の対象となる場合は受給期間が限定されるため、その後の生活をどう支えるかが重要です。
まず、夫婦それぞれの年金加入状況や万一の際の受給額を確認し、5年間でどの程度の生活費を賄えるかを把握しておきましょう。
あわせて、自分自身が安定して働ける環境を整える、貯蓄や投資を通じて資産形成を進める、必要に応じて生命保険を検討するなど、収入源を複数確保しておくことも有効です。制度に依存しすぎず、長期的な生活設計を持つことが将来の不安を軽減できるでしょう。
遺族年金制度の改正は、社会変化に対応するための重要な見直しです。しかし、その影響は世帯構成や年齢によって大きく異なります。特に現役世代の夫婦では、遺族年金に依存せず、長期的な生活基盤をどのように整えるかが重要になります。
制度の変化を理解したうえで収入や資産、働き方を見直し、将来への備えを重ねていくことが将来の不安を和らげる第一歩となるでしょう。
日本年金機構 遺族年金ガイド 令和7年度版
厚生労働省 遺族厚生年金の見直しについて
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
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