令和7年10月21日、高市早苗氏率いる高市政権が発足しました。自民党総裁となった直後「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」と発言し、なんと今年の流行語大賞に選ばれるほど、世間の関心は高い。
なにかと世間の注目を集める氏ですが、先月11月7日の国会答弁では台湾有事の際の対応について言及。
「存立危機事態に該当しうる」と発言しました。これに中国が厳しい反応を示し、ここ1カ月ほどはずっと日中関係が緊張しています。
高校範囲までの日本史や世界史を一通り学んでいれば、なんとなく何がきっかけとなって今回の緊張が走り、誰が何に対して反応しているか分かりますが、正直うろ覚えの方もいらっしゃるのでは。
そこで、今回は「国際社会における台湾の扱い」と「なぜここまで日本と中国が緊張しているか」について、ざっくり解説していきます!
なお、ここでは歴史的事実(ファクト)までを扱い、その解釈については一切取り扱わないこととし、仮にそのように見える記述があったとしても、私は極力思想や解釈が入り込ませることを意図していないことを明言しておきます。
高市首相の発言について解説
そもそも、「有事」とは「武力に訴えるような事件・事変の勃発」を指します。
台湾有事とは、台湾で武力衝突とか武力介入(もっとざっくり言えば、軍隊が侵攻してくるなど)が起きるケースを指します。物議をかもした先ほどの高市首相の発言は「もし台湾にどっかの国の軍隊とか来たら、日本はどうするの?」という質問に対する答えだったんです。
では、「存立危機事態」とは何かというと、これは防衛省から引用すると「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」となっています。
日本は日本国だけで成立しているわけではなく、色々な国と助け合ったり協力したりして国際社会を共存しているわけですが、特に関係性の深い国などが戦争状態になると、最悪の場合日本まで共倒れになる可能性が出てきます。
だから、日本の問題ではなくとも「存立危機」にあたるわけです。
そして、今回の一番の問題が「存立危機事態に陥った場合、集団的自衛権を行使できる」と定められていること。
つまり、ものすごく乱暴なことを言えば、「台湾にどこかが攻めてきたら、日本も黙ってられませんよ」と宣言したに等しいわけです。
それでは、なぜこれに対して中国外交部が強烈な表現で何度も何度も非難声明を発表したり、輸入停止措置をとったり、日本向け渡航の注意喚起を公告したりと反応しているかと言えば、これは「『一つの中国』の原則を踏みにじった」とする中国政府からの非難声明から読み取ることができます。
なぜ中国は激怒したか
そもそも、台湾は国際社会において「国家」としての承認をほとんど受けられていません。
現状12か国に留まり、これは国際的に承認を受けている国のうち、1割にも満たない数字。
「じゃあ、あそこは何なんだ」といわれると、これも立場によって分かれます。
中国は「正統性をもった『中国』の国家は一つしか存在しない(=なので、中国と台湾は一つの国家が不可分に統治しなければならない=台湾は中国の一部)」と主張を続けており、この立場は「一つの中国」と呼ばれます。
「そりゃ中国は一つだろ」と思われたかもしれませんが、これをもう少し詳しく知るには、現台湾の事情を100年ほどさかのぼらなければいけません。
16世紀頃、東アジア交易の中継地点として栄えた台湾は、一時期オランダの統治下におかれました。
1661年、鄭成功がオランダを島から追い出すと鄭氏台湾の時代が築かれますが、間もなくして清朝の康熙帝に倒され、1683年から清朝に服属。
色々あって中国の一部となった台湾でしたが、1874年には日本の明治政府が台湾に出兵。
1894年の日清戦争終結時に結ばれた「下関条約」には「台湾を日本に割譲します」とあり、今度は日本の植民地として支配をうけることになります。これは第二次大戦後の1945年まで続きました。
一方、当時の中国(中華民国)では国共内戦という内戦が起きていました。
蒋介石率いる中国国民党と、毛沢東率いる中国共産党が争ったのです。色々あって共産党が勝利し、中華民国改め「中華人民共和国」を建国。負けた国民党の要人や蒋介石は台湾に逃れることになりました。
蒋介石ら国民党は本土復帰の意図を表明し、逆に毛沢東の共産党は「台湾解放」を唱えて統合を狙う。
ここまでを読んである程度お分かりかと思われますが、「台湾を国家として認める」ことは、それ自体が中国の主張に逆らうことに直結します。
中国政府としても、そういった発言や主張を野放しにしては「ひとつの中国」構想が維持できなくなりますから、強く批判しなくてはいけません。
「台湾有事は存立危機事態」とした先の発言は、中国からすれば「うちの内部のことに外国が首を突っ込んでくるな」となるわけですね。
「台湾の法的地位を認定する立場にない」高市首相の発言に中国が反発したワケ
ところで先日、高市首相が「日本は『サンフランシスコ平和条約』で台湾に関する権利・権限を放棄しており、台湾の法的地位を認定する立場にない」と発言しました。
すると、「中華人民共和国駐日本国大使館」のXが、サンフランシスコ平和条約に対して「不法かつ無効」と評しましたね。
今回論点に挙げられたこの条約は、1951年に第二次世界大戦の連合国諸国と日本の講和条約で、日本の主権回復を認めるとともに、「領土の規定」および「賠償責任」について調印されました。
そして、「領土の規定」の項目に、「台湾・澎湖諸島の放棄」があったんです。
「あれ、台湾を統合したい中国にとって、日本が放棄するサンフランシスコ平和条約は、むしろ認めたほうがいいじゃないか」と感じた方も多いのでは。
ですが、「日本は『サンフランシスコ平和条約』で台湾に関する権利・権限を放棄しており、台湾の法的地位を認定する立場にない」とする発言を認めた場合、裏を返せば「1951年までは台湾の主権を有していたよ」とも読めてしまうことが問題なんです。
中国の立場としては、「台湾は、1945年からずっと中国の一部」とするものですから、「1951年までは日本が有していました」とも読める主張を放置すると、「6年間の空白期間」が生まれてしまう。
だから、当時の国際情勢的に中国やソ連などが講和しなかったことを盾に、「不法かつ無効」としているのですね。
国際政治を読み解くカギ
緊張する日中関係ですが、読み切るには連綿と続く歴史的な事情や背景を知る必要があります。
「難しいから」と敬遠されがちな政治の話題ですが、こういった歴史的背景を読み解きつつ、それぞれの立場を整理していくと、実は非常にシンプルになるケースだってあるんです。
今回私は改めてそれぞれの主張を整理しながら、「一貫性」を保ち続けるための、様々な人々、国々、機関の努力を垣間見ました。
思想的な善悪の判断や利害の有無を一度放り出して、「それぞれができる限りの主張をしているフラットな空間」としてみると、こんなにハイレベルかつ面白い議論が行われている場は、なかなかありません。
もちろん、受験でも時事ネタはよく問われます。そろそろ2月が近付いてきた頃合いですが、勉強にも、勉強の息抜きにもなる国際政治の世界を、親子で一度のぞいてみてはいかがでしょうか。
<文/布施川天馬>
【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。MENSA会員。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)
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