北海道の空の玄関口・千歳市は、人口10万人に満たない静かな街だ。そこに半導体メーカー・ラピダスが進出。地価高騰、建設ラッシュ、人材争奪など巨額マネーが街をのみ込む。現場を歩き、急速な変化の裏側に迫った!
半導体バブルで街にやってきたクマと半グレ
「半導体バブル」と呼ぶにふさわしい数字が千歳に集まり始めている。'27年に本格始動を控えたラピダス工場の建設が進むなか、街の経済指標は軒並み跳ね上がった。
「求人に出ている平均月収は30万円を突破し、この2年で約1.5倍の増加。地価も急騰し、中心部の幸町は前年比48.8%増で商業地としては全国1位の上昇率です。今年4月に試作ラインが稼働したばかりなので、バブルの本番はまだまだこれからでしょう」(地元紙記者)
実際に街を歩いてみると、解体途中の建物や工事中のビルがいくつも目に飛び込んでくる。
「ラピダスや関連企業の人が住むアパートやマンションが圧倒的に足りない。賃貸の相場もこの1年でみるみる上昇していますね。6月には千歳市初となるドン・キホーテがオープンするなど、今後見込まれる需要の拡大に急ピッチで対応しようと街の景色が目まぐるしく変化していますね」(地元の不動産業者)
地上げ目当てで半グレ集結!? 治安悪化を懸念する声続出
しかし、景気のいいニュースとは裏腹に、地元住民の表情は冴えない。
「地価が上がって得するのは土地を持ってる人だけ。給料が上がったのも、ラピダスが新しく雇うエンジニアとか、せいぜい建設作業員までの話。パート勤めの私たちには無縁ですよ」(30代・主婦)
好景気の恩恵にあやかれていない層が不満を漏らす一方で、さらに住人を震え上がらせているのが、街に流入する“半グレ系の不動産業者”の存在だ。ある飲食店関係者は声を潜める。
「土地転がしをしたいのか、地上げ屋っぽい不動産営業マンみたいなのが街に目立つようになりました。このあたりは大きな公園も多く、千歳川が流れ、景観がとてもいいのですが、先日犬の散歩をしていたら見慣れない若者4、5人が公園にたむろしていて。明らかに大麻を吸っているのを見かけてゾッとしました。千歳は自衛隊駐屯地があって、酔った自衛隊員が喧嘩沙汰を起こすことは昔からあったのですが、そこに半グレが交じるとなると話が違う。しかもこの辺は北海道でも有名な“大麻の自生スポット”。それ目当てで来る連中も増えるでしょうし……」
そもそも千歳は、闇社会につけ入られる“空白地帯”があったことも治安の悪化に拍車をかけたとの指摘もあった。前出の地元紙記者が事情を解説する。
「私が知る限り、千歳は有力な地場の暴力団がいない。それゆえ、他の地域から利権を取りに来る輩が乗り込んでくることも想定されます。彼らからしてみれば、今が絶好の時期でしょうから」
関東から有名チェーンが進出で塗り替わる勢力図
こうした背景もあってか、ラピダスの進出は、繁華街の勢力図にも影響を与えはじめている。
幸町の飲み屋街のど真ん中にある広めの更地には「2026年竣工」と書かれたキャバクラビルの建設予定をアナウンスする立て看板が設置されており、そこには水商売の求人広告まで添えられている。
「関東に拠点を置くキャバクラグループが千歳に巨大なビルを建てるようで、古くから地元で水商売を営んでる人たちは戦々恐々としています。ここらは昔からリーズナブルな値段で飲めるスナックが中心だったのに、最近ではラピダス関連の事業者目当ての価格設定をする店も増えてきて、驚くほど高額な店も出てきた。キャバクラやガールズバーに始まり、今後は高級クラブなんかが増えていくのかもしれませんね。街が荒れていきそうで怖い。正直、それならススキノまで行って飲むわ、という感想しかない。電車なら30分の距離ですからね……」(前出・飲食店関係者)
11月だけで6件ものヒグマ目撃事例が勃発
ラピダス特需に揺れる千歳で、住民をさらに悩ませる存在がクマだ。
市のホームページには、11月だけですでに6件の目撃情報が寄せられており、中には住宅地の至近距離までクマが入り込むケースも出ている。しかも、凶暴性の高いヒグマ、だ。
北海道のヒグマ研究をライフワークとする、北海道野生動物研究所所長の門崎允昭氏が語る。
「北海道全般に言えることですが、クマの主要な餌であるドングリ類が今年は不作。本能的に餌を探し回っており、その過程で人の生活圏に出てくる頻度が高くなっています。とはいえ、ラピダスが進出するエリアとクマの生息地は距離が離れており、危ないのは、外から来た人たちが不用意にクマの生息地に入ってしまうこと。特に風不死岳とその付近の山野はクマに襲われる等の事故が発生することも十分に考えられます。何百年もの間、アイヌの人たちはクマと共生をしてきました。その血を継ぐ者として、まずは我々も共生し続ける義務があると考えるべきであることを、道民として、日本人として、共通認識すべき。知識のない人たちがクマを過度に刺激しないことを切に願います」
半グレたちが興味本位で自生した大麻を探しに行った挙げ句、クマに襲われる――そんなシナリオがつい浮かんでしまうが、現実にならないことを祈るばかりだ。
【北海道野生動物研究所所長・門崎允昭氏】
農学博士・獣医学修士。北海道のヒグマ研究をライフワークとし、50年以上のキャリアを誇る、この道の第一人者
取材・文/週刊SPA!編集部写真提供/門崎允昭
【関連記事】
・
“日本一家賃が安い町”のアパートは空室だらけ…それなりに栄えていても人の気配がない“ちぐはぐさ”の理由
・
「買い物なんかせえへんよ、もったいない」「高い。最悪」日本人にも外国人にも嫌われる“黒門市場”変わり果てた姿
・
晴海フラッグに早くも立ち込める“暗雲”…1億5000万円で購入した34歳男性は「完全に間違いでした」
・
「今じゃ冷やかしの人しか来ないよ」住民は10人弱の高齢者のみ…千葉の巨大団地がゴーストタウンと化した理由
・
「家賃の安い団地に親を置き去りに…まるで姥捨て山」“庶民の憧れ”だった団地の悲惨な現状