12月5日(金) 22:00
今回の改正では、子どものいない配偶者の遺族厚生年金が「5年間の有期給付」となります。
ただし、生活再建を支援するための有期給付加算により、受給額は現行のおよそ1.3倍となる見込みです。有期給付の対象となるのは「18歳年度末までの子どものいない配偶者」で、施行直後は女性が2028年度末時点で40歳未満、男性は60歳未満の方が主な対象です。
まず、制度見直しが必要とされる背景として大きいのが、人口構造の変化です。総務省の「人口推計(2024年)」によると、65歳以上人口が3624万3000人で全体の29.3%と過去最高となっています。高齢化の進行により、公的年金全体で給付期間の長期化や財源負担の増加が課題となっており、遺族年金もその影響を受ける構造が強まっています。
また、厚生労働省の「公的年金財政検証(2024年)」では、経済前提によっては将来、年金積立金が枯渇し、保険料収入と国庫負担のみで賄う低い給付水準に移行するケースが示されており、制度の持続性を高めるための見直しが課題とされています。
このため、社会保障審議会年金部会などでは、諸外国に見られる生活再建を目的とした一定期間の給付という仕組みを参考にしながら、遺族年金の有期化を含む見直し案が検討課題として取り上げられています。
遺族年金が無期給付から有期給付へと見直し議論される背景には、制度の持続性だけでなく、社会の変化に対応もあります。政府が見直しの必要性を示す理由は、大きく次の2点に整理できます。
厚生労働省の「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、遺族厚生年金の給付費は5兆6780億円にのぼっており、高齢化の進展とともに年々増加傾向です。
財政圧迫が続くと、将来的に保険料負担の増加につながるおそれがあります。そこで、有期化により支給額の見通しを立てやすくし、財政の安定化を図ろうとする狙いがあります。
現行制度では、子がいない現役世代の配偶者も原則無期限で受給可能です。
しかし、厚生労働省「第6回社会保障審議会年金部会」の資料によると、60歳未満の遺族年金受給者のうち約8割の人は何らかの形で就労しており、遺族となっても働き続ける人が多いことが示されています。
こうした状況から、遺族年金を長期の生活保障として一律に支給し続けるのではなく、「一定期間で支援を終えるほうが公平ではないか」という考えが改正の基盤となっています。
遺族年金が有期化されると、その影響は世帯の状況によって大きく異なります。制度の見直しによって相対的に恩恵を受ける人もいれば、生活への負担が増す人もいます。
本章では、有期化によってどのような立場の人が得をし、どのような人が不利になるのかを整理します。
・現役世代(保険料負担者)
支給額が抑制されれば、将来の保険料引き上げ圧力が弱まる可能性があります。長期的には、家計負担の軽減につながります。
・老後資金を計画的に準備している世帯
制度の持続性が高まれば、将来の給付予測が安定し、家計設計がしやすくなります。
・就労が難しい配偶者
子育てや介護、健康上の理由で働けない場合、5年有期給付終了後に生活再建が難しくなるケースがあります。
・改正対象となる現役世代で子どものいない配偶者
現行の無期限給付が5年有期給付に短縮されるため、長期的な生活保障の面では不利になります。
最も気になるのが、「すでに受給している人も5年になるのか」という点です。これについては、既存受給者の権利は原則として保護されるため、現行の無期限給付が維持されます。
これは、過去の年金制度改正でも既存受給者権利保護が原則とされてきたことや、2025年改正法の経過措置規定が根拠です。今回も対象は施行日以降の新規受給者であり、既存受給者は影響を受けません。
また、このほかに「60歳以降に遺族厚生年金の受給権が発生する方」「18歳年度末までの子どもを養育する間にある方の給付内容」「2028年度に40歳以上になる女性」も今回の見直しによる影響は受けないとされています。
遺族年金の有期化は、高齢化や財政負担の増加という社会的課題を背景に、改正が決定されました。現在の受給者は影響を受けませんが、2028年4月施行の新制度により変更されます。
公的年金に過度に依存するのではなく、貯蓄や保険といった自助努力を組み合わせて家計の安定性を高めておくことで、不確実な制度改革にも備えられるでしょう。
日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)
厚生労働省 遺族厚生年金の見直しについて
総務省統計局 人口推計(2024年(令和6年)10月1日現在) -全国:年齢(各歳)、男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級)、男女別人口-
厚生労働省 令和6(2024)年財政検証結果
厚生労働省 第17回社会保障審議会年金部会(議事録)
厚生労働省年金局 令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況
厚生労働省 第6回社会保障審議会年金部会 資料1 遺族年金制度
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
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